欲望の山羊と宗教財団。

巣居けけ

小説

6,261文字

連続する筆の折れる音が、廊下の向こうから迫ってきているような気がする……。おれの吐瀉はいつでも泥で、背筋に通る万年筆のような固形が、おれの四肢を動かしているような気がする……。彼らは、欲を燃料として四肢を動かすことがある。そしておれは、あんた達と出会えてよかった、と泥の中でひたすらに感謝を述べているはずだ。

魚類の細かな評定を表した二代目理事長の個人所有の赤い看板を手掛けた長身の短髪女医が、焦げたパンの個数を紹介するだけのひどく明るいテレビ番組と、全ての地表や山脈の地図のプロデューサーを務めていたレコード職人の私有地の数学よりも簡潔な紹介映像は、初代の理事を務めた男の黒い引き出しの最奥地にて、ゴキブリの死骸や干からびた蛞蝓と共に張り付いている。喋ることができない犬を遊ばせているだけの、青い肌を持つ低身長の男の隻腕ラッパーに、デジタル・タトゥーを嫌っていた定食屋の小太り夫婦の死骸が人力で郵送されている。筆談趣味の目撃者の証言を木製しゃもじに彫っているレコード職人の山羊のような駒かな毛の生えた黄色い素手を、玩具企業が土下座をして買い取っている。人や医学、さらには眼球で成されている天文学の煌びやか連鎖をドミノに比喩した詩人の落下死だけが報道されている街の夜の隅で、新たな胎芽の酒がその名を轟かせつつやはり落下をしている。酒職人はレコードのことを知らないが、しかしレコードのような笑みで高層ビルを食べている。後日の事情聴取では、トレンチコートを着込んだ煙草臭い警部補にすら、その味のレビューを披露している。休館日にて、児童手当を切望している二人の妻の、腐って久しいキュウリのような見た目をした瘡蓋を食べるている一人息子が、南の半裸の双子が続けている、ライブハウスの広告ポスターの印刷作業の手伝いを、自ら志願して翌日には知らん顔をしている。小槌で叩かれた女医の頬の肉が、謝罪の意を大量に含んだ土産物として流行している都市と、山羊の流行が後れてやってきたカフェテリア。小島に取り残されている塩の波を嫌う素手専門の釣り人も、夜の街の中で冷たい落下を七度ほど経験しているが、彼は女児の肌を通ったことのある点滴の針での商売を考えている。

彼のような先人気質な教鞭を持つ者にとって、ピラミッドのような形状の古い組織は窮屈に他ならない。女児が吹いたシャボン玉のような山羊が、赤くはないサンタクロースから当たり前のように薬物を買っている昼。炭酸飲料に入れられた煙草の欠片が、給食費として提出されている朝の集合体。山羊の彼らは、この薬物界隈を這いずり回る埃臭い集団。山羊の四肢は錠剤の香りを纏っている。山羊の眼球では、人間の薬物常用者普段からどのような違法薬物を常用しているのかを見極めることができる。また、彼らは吐瀉の臭いが強い黒い帯を額に巻き、永遠に剥がれることの無いように上から釘で打ち付けている。立派な角のほかに、釘の角が二本ほど生えた幻覚好きの山羊山羊集団。彼らの瞳には一定の秩序が保たれている紺色の目立たない銀河が浮くように存在しているが、いつでもレコードのようなざらついた映像を演出することもできる。そして、明るいちゃぶ台の上の味噌汁のような色も、同様に瞳の奥に静かに浮いていて、いつかのメダルゲームでの活躍やカフェテリア占拠戦線の事例発生を待っている。

脳が注射器の形をしている山羊らの眼科として機能しているのが、百戦錬磨のプロデューサー時代を歩いて生きてきたレコード職人の彼である。山羊らは恐ろしい病棟の所在と、病棟に巣食う無性の執刀医の存在を常に認知して、それらが全て女医にならないかと願っている。そして、この世で最も美しく、最も手際の良い華奢な医大生の女に腹を切開してもらいたいと、本気で願って射精を続けてる。路地裏で生きている自動販売機の大半は白いが、その白は山羊の恐るべき悪臭の精液によるものである。

日中の山羊どもはとにかく、路地裏のもっとも涼しい位置に集まって、女子医大生や女医に身体のどの部分にメスを入れてもらいたいかという極めて真剣で慎重で貴重な談義を続けている。そして立ちながらの商売の赤くはないサンタクロースは、その鉄の香りが続く雑談を横目で流して、自分だけは桃色シャツにオーバーホールの華奢な短髪女児が訪れるのを、ただ待っている。

価値の存在しない暗い細い廊下が、必ずどこかに存在している……。なぜかゴム手袋の臭いがこびり付かない執刀医と呼ばれた褌だけの男の独りが、その長い通路の切り盛りを、すでに五年ほど続けている……。この男は生粋の、そして伝説の孤高な給水係と呼ばれていて、氷を好むと同時に山羊の形のコーンを使うことのあるアイスクリームを嫌っている……。また、男は時間と共に消えていく所持品として、最後の最後に残った二枚の下着に、自身の血や唾液で、好みの女児の生態や、そんな彼女に抱いてほしい化学と医学についての思想の理想を綴る行為を、現在の唯一であり誇らしい趣味として女インタビューに紹介したことがあるが、男の水分が多い声を聞いてしまったベテラン・インタビュアーは、いずれもその場で自身の下着を男に差し出しながら、三時間以上の土下座を見せつけている……。

男は、いつでも違法薬物を求めている……。男の目には廊下が長い病棟の一角に視えているが、彼にふさわしい女の執刀医はすでに死滅している……。さらには男は、山羊の新鮮な角と、釘の錆びた角と、サンタクロースの出来損ないの脂肪を同時に求めている……。男の右手はいつでも肉切り包丁で、それの自慢の切れ味を駆使し、徒競走を一位通過することができる女児の肉を羊水と共に食らっている……。しかし男は女児のランドセルで白米を炊いた経験が無く、キャンプファイヤーの灰で女児を窒息させてこともない……。男は、哺乳瓶の中の錠剤を全ての大気に対して求めながらも、三年前の水素爆弾の事故によって、直立不動の体勢で大気圏へと飛翔した長髪の姉の紫色の下着と黒色のブラウスを必死に求めている……。男は誰かに何かを与えたいと思っているが、自分の肺の中には阿片の欠片などが詰まっていると本気で思い込んでいるため、大学時代のカフェテリアでの異性との接触失敗をいつでも脳で再生している……。

さらには男は、猫のような四肢の使い方を続け、何かしらの科学の賞を我が物にしたいと本気で考えているが、やはり大学時代のはげの教授や、赤色のジャケットを好んでいる河童のような髪型の金髪学芸員の叱咤が彼の論文執筆の左手を止めている……。

さらに男には、最高医学者としての資質が、男の人間としての価値と同様に少しも存在していないので、男は仕方なくこの長い廊下で肉屋を続けたいと、改めて決意する必要がある……。

男は黄色いプラスチックの滑り台の上にて、高貴な姉と共に性行為に至った経験を思い出しながら、廊下の隅の冷たさと共に眠りについている……。
「な? どうにも万華鏡のような話でしょう?」

壊れた喇叭のような声が、面談室に卑しく響く。
「ええ、ええ。我々は無言のサーカスの薄い皮を嬉々として被る、泥をも恐れぬ医学団体ですけれどね、こんなにもオーロラのような胡乱で、硝子のように温かくて、さらにはひどく赤色で高貴な農園が、こんなにも田舎の、こんなにもど真ん中に存在しているとは、まったくもって、思っていませんでしたよ!」

叫びながら学芸員は、白色ソファーから立ち上がる。そして二秒ほど直立不動の体勢で天井の球体光源を見つめた後、「ああ、すみません」と弱弱しく吐きながら座り直しを行う。
「ええとね、まずウチにはね、蛙の頭と四肢を持っている赤い研究員が五人ほど居るんですけれどね、パーソナルコンピュータって、言うんですか? よくわかりませんけれど、人生と同じでわかりませんけれど、アレがとても得意な奴らなんですよね。蛙の彼ら。でも、そんな彼らでも、ここの存在には気づくことができませんでしたよねえ! 私が偶然、本当に偶然、双眼鏡で発見したですけれどね、ええ! あんなところに農園があるっ! おかしいっ、おかしいっ! 農園だっ! ってね。そしたら奴ら、本当ですかっ! 本当デスカッ! ええっ! ってゴキブリみたいにうるさく群がってきて、お得意の紫色粘液を私の顔にぶっかけてくるんです。それでも重罪なのに、それですら死刑に値する蛮族的行為なのに、私のこの白い素手から双眼鏡を許可なく強奪して、あのぬちゃぬちゃってしている顔面にあてがうんですよ、双眼鏡を。双眼鏡、双眼鏡。私の双眼鏡ですよ? ええ、私の。つまり私物なんです。私の物の、双眼鏡。それを奴ら、少しの遠慮もなく使いやがってね、例の農園、つまりここのことですね。それを確認したらしたで、また粘液を私の身体にぶちまけながら、本当だっ! 本当だっ! 今日は残飯じゃなくて済むっ! 今日は映像でおしこりができるっ! ってげこげこ騒ぐんです。もう、うるさいのなんので、自分の脳が膨張していく感覚がありましたよ。鼓膜にげこげこって刻印されているんじゃないかとも、思ったんですよ。だから私はすぐに限界になってね、この拳銃で全員の脳天をぶち抜いてやりましたよ」

学芸員は上機嫌で語りながら、銀色の背広の内ポケットから取り出した黒色のベレッタ、そのM92FSを遠慮なく、対面に位置している女インタビューに発砲した。

破裂した女インタビューは、水風船のような勢いで鮮血をまき散らし、元々座っていたソファーはもちろん、学芸員が座っていたソファーすらも真っ赤に染めた。

女児たちに対して喜びの欠損を促したイルカの形のいかだに口づけをしてから、それらの大層な解体を開始する人魚の意思を持つ海藻と、メンテナンスが必須の蛸の集合体。海底に巣食う修理屋はいつでも空き瓶の破片でしりとりを行っている。阿片では振り向かないが、女児が二週間ほど握りしめていたコカインには、たとえ二メートル先であったとしても飛びついて商談を持ち掛けてくる。

世間の学芸員どもは常に、銃と阿片と、才の有る女児が執筆をした最新の漫画単行本を携帯しているので、誰しもがインターネットの内部構造を熟知していると知られている。無数に散らばる教団の中で、最も生物学に特化した二階建ての本拠地を持つ教団に、完璧に一色で構成されている山羊の純粋な体毛を使って、新たな六本の腕が生えている黄色い丸い生物を作り出そうとしている派閥が存在している。彼らはいつでも女児絶対を理念として掲げている。派閥の全ての職員は、女児との人間関係によって枕を濡らす夜を二か月続けて経験している上に、二世代ほど前の錆びた臭い電化製品が散りばめられた三階建てのかび臭いデパートの中で、唯一の水よる天国の創造や白い頭髪の欠損少女、さらには金の頭髪の欠損女児の生成に奮闘をしたことも、一度や二度ではないはずだ。

彼らは、いつでも自身の頭髪を電球に変換させてから動いている。所長はそれらを役目だと主張するが、シャンプーの利便性に疑問を抱いている高学年の児童も多くはない。

教祖は見定めた女中のために義眼で饅頭を作っている。所長のように白衣を湯呑に見立てると、他の職員の顔で、あんこの香りがするせんべいを焼き続けている。

学芸員はいつでも名誉教授のことを上位の知的生命体として慕い、路地裏のサンタクロースを最高の売人として慕い、山羊や女児、さらには学生集団と敵対したり、高層ビルのヘリポートでは協力したりと、非常に忙しく埃の漂う日常を過ごすことがある。また、オオヒキカエルのような頭部を持っている稀有な有力ハッカー集団は、山羊のふかふかの毛並みとひどく相性が悪く、そのためか、彼らの生態の中に違法薬物や女児、さらには放尿によく似た射精は登場しない。猫はいたるところで神話としてあがめられているが、山羊はいつでも無法者のような比喩の中で物語れている。飢餓の危機にある女児が山羊を喰らうたびに、新聞紙の一面を猫の顔が覆うと共に、枠の隅では哀れみの声が黄色を作っている。
「どうしてマンホールが一メートルの間隔で置いてあるの?」
「駄菓子屋のためさ」

キュウ・カンバー生物財団所属の一級清掃員二名は、五階の窓からマンホールを眺めていた。雑巾を必要以上に酷使している長髪の彼は、はげの彼に一メートル間隔マンホールの真実を告げると、すぐに己のみの高貴ではない職務に戻ったが、真実を告げられたはげの彼は、それからもマンホールの光沢のある黒色を眺めていた。

はげの彼は、自分の頭部に対して、絶対硬質という名の信頼を置いていた。なので彼は、すぐさま両手持ちの茶色いモップを投げ捨てて、一流の水泳選手のようなアーチを描く飛びこみで目下のマンホールに突き進んだ。自分の頭であればマンホールの黒色を勇猛果敢に打ち破り、その下に広がっているはずの地下帝国のような空間と色気の具現化のようなメスの山羊の温かい胸元に到達することができると確信していた。

しかし、現実は違った。はげの彼が見定めたマンホールは、他のそれらとは違い、ひどく怠惰なマンホールだった。

そのマンホールは、地面に開いている穴を塞いでいるものではなかった。何も無い地面に無意味に置かれている、というよりはただ放置されているだけの、極めて愚かなマンホールだった。

彼がマンホールの愚かさに気づいたのは、自分の頭が空気の抜けたビニールプールのようにいくつもの大げさなシワを作ってへこんでいる様を、目や鼻孔から血を流しながらぼんやりと見つめている瞬間だった。
「悪さをしたら、通報されてしまうって?」

女の唇のような赤いソファーに座る記者は、対面で同様にしている学芸員の膝に、新品のウイスキーをこぼした。するとすぐさま天井の乾燥機のプロペラが回転を開始し、室内に温い鼠の死臭をまき散らしながらも、学芸員の膝を乾かそうと尽くす。「可愛いやつだ……」
「ああ、私は年に二十回ほどの尋問を受けていたさ」右手の釘が突き刺さっている指を見せつける。

今しがた、強固な性器だけで女児の眼窩を完全に破壊した学芸員は、使い古された兎の耳のカチューシャを女児の頭に差し込みながら、溢れ出てきた彼女の脳を小指で掬った。「ほら、今年も大量収穫だよ」

そして小指を新品ウイスキーが入った湯呑に入れて、マドラーのように何度もかき回す。するとウイスキーは赤い発光を開始し、小指にこびりついていた脳は新たな胎芽としてウイスキー内を泳いでいた。
「さあ、どうぞ? 我々はあんたの博士号取得を歓迎するよ」
「あはぁっ! どうもありがとう」

記者は百足のような笑みを口角で演出しながらウイスキーを受け取り、赤色発光の具合を睨む。その細い双眼にはウイスキーへの疑心や、ウイスキーを錬成した学芸員に対する嫉妬の光が浮いており、研ぎ澄まされた眼光は、ウイスキー内を優雅に漂っている胎芽たちのまだ幼い心構えを簡単に押しつぶすと同時に、湯呑を持っているだけの記者を震えている瞳で見守っている学芸員に二度目の失禁を促すほどの迫力があった。

そして記者は、やはり学芸員の頭にウイスキーをぶちまけた。ロボットアームのように寸分の狂いも無しに学芸員の頭に湯呑を持っていき、そのまま空すらも刻むほどの素早さでひっくり返すという一連の動作を記者が完結させるのには、三秒の時間も必要としなかった。

水分を得た学芸員の頭髪は、紫色からオーロラソースのような色へと変化し、記者に悲鳴で構成されたオーケストラを聴かせている。さらには同時に、学芸員の頭髪という名の唯一無二の街で、大火災が発生した。脳が一心不乱に赤色へと移り変わっていくのを感じている学芸員は、右の眼窩の内部に鼠が入り込んだ時のような違和感を頭蓋骨の全体で覚え、さっそうと、腰の辺りでぐったりとしていた女児の右の脇を舐め始めた。

2022年4月7日公開

© 2022 巣居けけ

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