朝からやってくる。

巣居けけ

小説

5,210文字

一体どこから観測されていた?

印鑑を取り消した爆発の渦の寒気に、相続人との唾液を混ぜ合わせた洗顔剤の張り紙を届ける。カセットテープという名の東の古代文明に、徒競走のような砂嵐が掛け合わさろうと必死になっている。彼の右腕はいつでもプラスチックのクラッカーを握っていて、彼のグラスワンダーのような脚たちが、外れに位置する教会のシスター・ベールを狙っている……。

対岸の上の火炎の落語。消毒に身を任せている落雷を好むカレー・マニアの甘党な弟分が数人。鉄道を食べている彼の家庭の最期の晩餐が、雄の蛸の集団からの襲撃で存在を消した。二番線でカレーを作り続ける愛好家の集団に、蛸の彼の四枚の食パンが降り注ぎ、愛好家たちは全力で全ての蛸への復讐を誓っている。駅員や通常乗客たちは不思議に思いながらも、片手で尻の穴からゲームカタログを取り出して、最終ページの戦略シミュレーション・ゲームを注文しようと黄ばんだテレフォンに頼る。愛好家たちが同様の理由で後に続き、しかし一斉に通常乗客だけを踏み殺して進撃している。強請りの達人として君臨している赤子を路線の真上に退けてから、駅員の詰まった箱の透明な防弾ガラスを叩く愛好家たち。彼らの右手の中には、最高額が示された切符が永遠に佇んでいて、どこにも行くことが無い。泥を啜った虎の肉のような身体だけを使って電車を止めようとする老婆の弟子がついに二人に分裂し、ようやく本領を発揮し始めているところを撮影されている。水面から顔を覗く人魚の駅長と、彼の虎肉食らいの愛犬もやがて分裂。そして非常停止ボタンに精液や唾液を塗っている愛好家集団の片割れ団体。何も知らずにボタンに駆け込む成績優秀な女子高生。三つ編みを得意とする彼女の脚。グラスワンダーには届かない美脚の踏み込み。二秒後に支配する女の悲鳴の反響が、赤子の両腕をゴリラに変えた。学名を唱えながら線路に落ちて、ゴリラ赤子を救う唯一の老婆に、弟子の二本のナイフだけが貫通している。赤い線路を更に赤く染めている高速列車の機械音と、それらをカバーする電光の轟音。愛好家たちは無言でカレー作りを再開する。老婆が知らぬ顔でそれに参加して、唯一の金属製掬いの全体を舐め始める。雄叫びが響くと同時に、非常停止ボタンの体液たちが跳ねて、目の前の女子高生の、ちょうど開いているうなじに飛び散る。二度目の悲鳴が駅を埋める。愛好家どもがようやく出頭の準備を開始する。老婆の焦げたカレー・ルウを啜る音が全ての開始を合図して、箱詰め駅員たちに全ての実況を強制している。

添付した書類孫の息子。青のりの中に住まう老人ホームの優秀職員たち。カレーはいつでも、いつまでも彼らにとっての最大の恐怖であり続ける必要がある。

理事長や役員会長の個人所有の青色ラジカセでのみ流れる特殊番組の中の、魚を串刺しにするだけのコーナーにお便りと殺人予告が到着する……。番組スタッフが一斉に秋刀魚の親子を犯し始、自分の性癖の壁が崩れて流れていくのを音で理解する……。小さな大腸に巨大な性器を押し込んで、三秒で射精をする映像。男女によって行われる通常の性行為の音声がBGMとして流れている授乳室の中央での映像が、繰り返しで五分間ほど流れている……。
「おれたちは比較的幸運だな」
「受付係には怒られるけどな」

終電を逃した漢どもの、優雅で胡乱な笑い声。雄に重なる硝子の破損が、新聞紙たちを女神に変えた。

度胸の先には胡乱があるか。あるいは度胸はそもそも胡乱か。風船だらけの御部屋で早漏。たたえる性器が御下がり上等。水面に映るはいつもの度胸か、それとも度胸と偽る胡乱か。
「でも、僕らは実験の参加者でも、成功者でもないけれど?」
「観測者ではあるだろう?」

いつだってそうさ。と息込んでみるが、医薬品や、それを収納して飼いならす試験管たちの度胸には敵わない。タイピングを競い合う正社員すら絶滅した地下室では、白衣の似合う教授の集団に、全てと性器を託すしかない。彼らなら唾液を人間に変化させることができるから……。

丸い寒天に注射を入れる。葡萄のエキスや走馬灯の切れ端が滲み出てきて、白衣や全ての誇りを汚すために群を創る。恐竜だらけの実験室に、雄しべのような虹が建って折れる。彼にはカレーのルウが要らない。ルウを収納するための試験管も必要無い。不要の心配、脳を潰すか。歩き出した運命が、アルファベットをこの世に落とさない。彼らは宇宙服などを好まない。いつでも一直線で駆けてゆき、創造を脳にしまって進む。

少年少女を見定めている、赤いベストの長身男。彼の分厚い懐を、じっくりゆっくり覗いてみれば、そこにはいつでもキャンディや硬貨、あるいは人権が納めてあった。誰のものかと聞いてみれば、いずれも自分のものだと言い張る。しかし市長は騙せない。岩で殴って尋問すれば、それが女の物だと吐いた。すぐに刑事が男を殺して、持ち物検査で驚き焦る。男の素手には女の性器。男の股間は女の性器。市長はいつでも男性器。後ろを向いたら睾丸突撃。刑事は性を超えて行く。かつての敵地で職員として。しかし彼には性別は無い。全てを超えたその先の性。どちらも務まる完璧な性。野生の勘を研ぎ澄ます性。一夜で同志を増やした性豪。夜の飲み屋で薄着で徘徊。今日の獲物を求めて品定め。
「あいつは本物のマグナムだ」

色男、毒に飲まれて、色欲へ。彼は次なる弾丸に成るか。

それでも会社は酒作りをやめないと宣言している。枯れ木を吸収した巨大企業が、全てのマグナム飼いを見下したカクテルを考案して驚いている……。
「なあ兄さんや、どうしてカクテルをおれのはげの頭なんかに投げてくるんだ? あんたは確かに優秀さ。今月の薬の売上金も、あんたとあんたの次に優秀な人間とのを比べたら、一桁以上の差があるんだ。だからあんたはやっぱり優秀さ。でもさ、だからってさ、おれのはげの頭にさ、最新カクテルを丸ごと一本ぶっかけていいことにはならないはずさ。どうしてさ。おしえてくれたらそれでいいからさ。どうかおしえてほしいもんだね」

隣のとろ助はやはり伸縮自在な表情筋を駆使して、蛸の深層心理を真似ている。やつはこのように、行きつけのバーのカウンター席、その赤色スツールに腰掛けた時にだけ、女従業員のふりをして全ての優秀男性社員を堕としにかかる。金色のレンガ・チュンニのようなはだけた衣装に身を包み、「どうしてさ、どうしてさ」と上半身をくねくねとさせる。しかしついに、その踊りに対しての怒りが頂点を超えた店主から、胎児の入った赤い酒を追加でぶっかけられて、ようやく底辺販売員としての自我を取り戻す。
「あんたはさっきから何なんだ? そもそもあんたはインドの人なのか?」
「おれは本物のマグナムさ……」

底辺販売員は非常停止ボタンを押し損ねた駅員のような顔でバーを去って消えていく……。
「いいや。あいつはただのオカマ野郎に過ぎない」
「あんたは?」
「おれは近場の箱の中。警部の身分を盗られた刑事。今は箱長。威張って過ごす。部下の萎れた顔だけ眺めて、遅い一日、だらけて過ごす……」

くしゃくしゃトレンチコートに、シミだらけのワイシャツと茶色いスラックス。黒色のベルトの金色の金具が、バーの天井の温かい照明を反射している。「おれは明日にも庁に戻る……」

酒は呑めないトレンチ警部が壊れた二番手のレジカウンターに代金を投げつけて、颯爽とバーの黒い硝子扉を開いて去る。

木魚で作った漢方と、それを煎じるための試験管。特殊な研究員と、彼のような筋肉質な男が必ず好む、緑色の微生物の猿叫が混ざる粘液。液状化現象による新聞配達の難易度が、宇宙人を報復させる拳銃に変化してしまった粘液の跡地。

研究所とは、フランクフルトの臭いを漂わせている人間が必ず一人は存在している組織の総称……。

人体が降る春……。想いの無い石だけが、横から伸びる黒い素手で万年筆を取ることができている。彼らと呼ばれる人権の覇者たちは、思い思いの詩とカルテを書き続け、山のような原稿用紙に塗料剥がしの実力を見出そうと走って、走って、たどり着いた薬草と、それを回収する薬剤師の胸倉を掴む。

愛好家のような彼らは万年筆で人の眼窩を抉り出す。残された眼球で文字を書く。
「まるで解剖学生のようだ!」

𠮟咤激励の主治医が叫んでいる。彼は女性研究員の性器に試験管を突き刺して、垂れてくる血液を使ったココアを好んでいる。そんな彼は病棟の屋上にて、白い錆びたフェンスに背中を預け、飛び降り自殺者の気概を吟味しようと努力しながら叫んでいる。
「主治医のあれは猿叫なの?」
「彼は、選ばれた解剖学生だったから……」殺菌。蛸とハーフの看護婦がひそひそ話を開始する……。少しだけ青色の溢れた鼻水を、床に落ちていたタオルケットでえぐるように拭き取ってから、不協和音のアナウンスを開始すべく、黒色マイクの電源を入れて放送室を脱して走る。

いずれ猫になってしまう病棟の、地下に広がる炎天下。猫のひげを抜いてから、それを使ってワインの栓を作った美容師。自身をカットソーだと偽る喪服の男。生誕祭にミシンを投げられる哀れな喪服男の息子。

朝からやってくる。インターネットの色の刺身と、醤油に志願書類を浸した女の悪阻。産婦人科で胎芽のあんかけ焼きそばを食べる執刀医。女の血液のすばらしさを説く主治医。深緑の手術衣装を貪る山羊。遅れてジャンク・フードに投資を始めた、車椅子姿の黒い山羊……。
「あんたは口が利ける山羊なの?」
「あんただって蛸じゃないか。ここの生命体はいつでもそうだ。愛好家も、駅員も、老婆や分裂した弟子たちも、女子高生のような風船食らいたちだって、全員がどこか別の星の生命体のような顔をしているけれど、僕も彼も君も、もう長期休暇を終わらせることができない」

黒山羊は煙草を吸うことがある。二本だけの舌を器用に使用して、煙草の箱のフィルムを剥がすところから始めて、一時間以内にニコチンで脳を創る。「もっと効率的な解剖学を広めないと……」

黒山羊は新聞配達員兼サイケデリック記者として活動していた時期を必死に思い出す。頭の中央で、女子小学校の黒板を不快な音で満たしたあの課外授業のことを思い出すと、すでに巨大化している性器の大きさに倍率がかかって噴射する。かつての授業でも最前列の彼女らに、特製のヨーグルトを振る舞ったことを思い出として大学で語る……。
「酒の入った教授は、脳の奥までがしっかりと観測できるので、好きです」
「でもあいつは記者としての万年筆を持っているぞ? この前なんて、他世界の石ころにそれを授けて回っていたんだ」
「教授ならそれが当たり前だろう? 彼は名誉で動くことを知らない」

眼鏡が浮遊を手に入れる。岬の下の屋台で、桃色の浴衣を着込んだクロヒョウが詩を包んで投げている。「これがピアノだったとしたら、おれはとっくに刑務所コンクリートの中に居るだろうね」りんご飴の神髄に微笑みかけてから、一秒以下の時間で顔を敵意に戻す。
「お前はどうせおれの詩を理解できない」そして割れたりんご飴を泉に投げて黒くする。白いインクで『椎間板ヘルニア』の七文字を刻印してみせる。さらに徒手格闘を行って、新品注射器や夕飯の位置取りを決める。

作文の文末の夕暮れを酒樽の底の憂いと感じた教鞭と、諦めの悪いカーキ色ズボンの二つの最後の群れ。病室の隅で母親の最期を見守りながら、片手だけでスマートフォンを操作して、株価の操作を巧みに行う男子の投資家。電化製品に立ち寄る放課後女子高生グループが、五台の最新冷蔵庫で陸上部員の真似をしている。自動掃除機のように駆けだした三つ編み女子高生が、横切りかけた黄ばみレジの横のスポーツ飲料に一目惚れをすることは可能だった。
「私は、日々に恋をしたのです。高校という組織の反逆を唾液で誓ったのです。母? いいえ私は、最期まで子宮でありたいと願っているのです。パイプ椅子に伝えたいことなどは、無いのです」と淫ら女子高生はスツールの上で喋りを続ける。店主はカウンセラーの顔を作り、そんな淫乱女子高生の心の隙間に手を伸ばしていく。あわよくば、彼女の割れ目にも指を伸ばしたいと考えているが、同時にマグナムやトレンチ警部らの再燃を恐れていて、しっかりと人形女子高生の硬いスカートに手を伸ばす。
「この硬さとは、つまり男性の粘液がこびり付いているものだと思うのですが」店主はひとまずスカートから手を放す。解放されたスカートが独自に女性ホルモンを放出し、自身の体臭によって受けたダメージを急速に修復しているのがわかると、店主はその術に興奮を感じてすぐに下半身をぬるくする。
「貴女は、今日どうやってここへ?」
「電車です」
「大変なことだ!」

店主はレジの横の黒電話を妻を殴るときのように強引に取り上げて、優秀なトレンチ元警部とオカマ・マグナムの最高コンビを呼びつける……。

2022年3月11日公開

© 2022 巣居けけ

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