「はぁー美味しい!」
コンビニで買ったビールを飲んで思わず声が出てしまった。
「本当好きだね、ビール」
と彼が言った。
「休みの日に昼間から飲めるなんて最高!このために仕事頑張ってるようなもんよ」
と言うと彼がまた笑った。
「ビール飲んでる時が一番幸せそうな顔するね」
と彼に言われた。
「え!そう?」
「うん、そうだよ。前に所長に焼肉奢ってもらった時も肉食べるよりビール飲んでる時の方が幸せって感じしたよ」
「えー!そうかな…てかよく見てたね」
「目の前だったしね。本当は隣に座りたかったんだけど、俺あの時トイレ行っちゃったから…でもあいつが隣に座るとは思わなかった。仲良さそうだったし」
あいつとは私とは別の棟で管理者をしている男性社員だ。
「まぁ、いつも打ち合わせ一緒だしね。それなりには交流してるよ」
「ふーん」
と彼はなんだか拗ねた様に言った。
一瞬空気が変わった様な気がしたので私は、
「で、話って何?」
と話題を切り替えた。
「ああ、彼女と別れたよ」
「大丈夫だった?」
彼の彼女は精神を病んでいる。それが引っかかっていた。
「何となくわかってたって言われたよ。好きな人が出来たんでしょ?って」
「そっか…」
「メールでも良かったんだけど、やっぱ直接言いたくて今日誘ったんだ」
そういうと彼は立ち上がり、私を後ろから抱きしめた。
「これで俺達付き合えるね、さくら」
ん?あたしは違和感を覚えた。
付き合う事が決まったら、即呼び捨て?
そんな簡単に出来るものなの?
さん付けから呼び捨て?世の恋人同士とはそういうものなのだろうか…
まともな恋愛経験の私には凄い衝撃的だった。
私が黙っていると
「さくら?」
「え?ああ、そうだね」
その言葉を絞り出すことが精一杯だった。
「そっちはどうだったの?メールきてたけど大丈夫だった?」
「うん、まあ。凄い泣かれたけど大丈夫だと思う」
「何、思うって?」
と彼は笑った。
「いや~私、恋愛経験ないから別れとかよくわからなくて…傷つける事しか出来なかった」
「これからは2人の事考えよ?」
「うん、そうだね」
「で、提案なんだけど」
「提案?」
彼の言葉に私は首を傾げた。
「俺達、休み違うじゃん?」
「うん」
「出来たら土日休みとか出来ない?」
「ああ、出来なくはないけど毎週は無理よ。同僚に相談して休み変わってもらうけど」
「そしたら泊まりで家に来てよ」
と彼に言われた。
「泊まり!?」
「うん、泊まり。その方が長く一緒に居れるでしょ?」
「そうだけど…」
「だけど?」
「その前に難関がある」
「難関?」
「ママに付き合う事話したんだけど、挨拶に来てくれって…そこでママの許しもらえないと泊まりは無理だと思う」
「そっか、じゃ挨拶に行くよ」
「え!いいの?」
彼があまりにもあっさりと承諾したので驚いた。前の子は私との将来を考えていてママに挨拶をした。でも彼は違う。泊まりという目先の事しか考えていない。何故かそう思った。
「挨拶終わったら泊まりに来れる?」
「たぶん?これはママ次第だし…」
「大人なのに?」
「うちは独裁国家なのよ。ママが全て正しい。まぁ、今まで外泊した事はあるから理由があれば大丈夫だと思う」
25歳になって何を言ってるんだろうと自分でも思う。でも、そういう環境で生きてきて身体に染み付いているのだ。逆らうなと。
「じゃ、挨拶早くしないとね」
と彼は笑った。
「うん。次の土日休みいつだったかな…」
と携帯電話でスケジュールを見た。
「あっ、この日、土日休みだ」
「じゃ、その時挨拶してそのままお泊まりだね」
と彼は軽く言ったけど、スムーズにいくと思っているんだろうか…
「それまでは仕事終わり会える時会おう」
「うん、わかった」
「ああ、会社で自慢したいなー」
「何を?」
「さくらと付き合ってるって」
「はぁ?何言ってんの!言わないでよ」
「なんで?」
「なんでって付き合ってるなんて知られたら気まづいでしょ」
「牽制になっていいと思うんだけど」
「牽制?」
「さくらの彼氏は俺だってわかれば他の男寄って来ないでしょ?あいつもあいつもあいつも、さくらに気があるんだよ?わかってる?」
「わかってるよ。でも私は好きにならない。その自信は絶対あるし、気持ちがないのもちゃんと言ってる。だから会社では秘密にしてよね」
「それならいいけど」
職場で男性社員と仲良くしてる。その中には私に好意をもってくれている人がいるのも知ってる。でも私はその人達に恋愛感情は一切わかない。ただふざけて会話をしてるだけ。
私はどうも女性と仲良くなる事が苦手だ。
年代的にも喫煙する女性が少なく、結局男性陣に混ざってしまっていた。これが厄介な事になるとは思っていなかった。
"この世で最愛で最低な君へ"へのコメント 0件