山羊たちは幻にすぎない。貴方が抱えていそれらも含めて、全てが未開封に納まることができる。教科書に載るような立派なそれらも、銅像の建造の計画が立ち上がるそれらも、現在も路地裏を支配しているつもりになっているそれらも、結局は、乾燥した雲の上の、神経の糸で作られた思考の欠片に帰って消える予定に進んでいる。山羊とは幻想にすぎない。埃の香りの中で電車を止めて、車に荷台を詰め込んで走る……。三人の彼は、煙と共にリボルバーの黒色を握った後、山羊の性交が記録されたカセットテープを奪い去る……。
おれはこの後どうすればいいんだ。そうだ、おれは今、比較的平和なこの街の、山羊の角を切る体験を行っているんだ。餌用の草、出来立ての熱のある糞が腐った臭いが付いた作業着で現実に戻って、素手に触れている山羊の毛に喘いてから、腰に力を再度入れる……。
専用の機械に挟まれた山羊の角。少し視線をずらして山羊の黒い目を見ると、涙を流していそうな気配を感じる。廃棄される未来が決定された給食の豆のような萎れた眼球が、おれを睨んでいる。
おれは静かに射精と心療内科で受けた注射攻撃の再現を行う。水晶玉を見つめる占い師のようなサンドイッチを口の中で組み立てる。すぐ隣の作業員の女の、茄子になっている気がする顔色を覗く。自分の作業着が精液で湿って、股間の辺りに染みで出来ていくのがわかる。女や、他の係員の連中にバレないようにシワを作って誤魔化そうと奮闘する。
山羊に目を向けると、彼の紙風船のような目はおれを見ている。正確には、おれの射精の痕を見ている。どうやら、角を切り落とされるのが相当嫌らしい。
「あのすみません。山羊の角って、切り落とすとやっぱり、山羊自身も痛いモンなんですかね?」
「そうですね。やはり神経に菌が入るので、不法侵入で訴えることができますね……」コンビニ店員のような顔の係員が、女とおれの隙間から顔と手を出して、おれの肩に優しく触れてくる。「まるで味噌のような断面図ですから」シールのような笑顔で、おれにさりげなく口臭を吹きかけてくる男の係員。軍手の泥と中の手から伝わる温かさに促されて、おれは巨大な鋏を握っている自分の手をクシャリとやる。山羊の角が土の茶色に落ちて、パン粉を付けた海老のようにふかふかになる。
おれはようやく山羊の角を切り落とすことができた……。「これで外科医になれる?」それともおれの行く末は、タクシー乗り場で運転手を気取るパフォーマーに金を与える記者なのか。山羊の角を拾い上げて、係員の右手の軍手で土を払って、断面図の白米と新作記事を閲覧する。
山羊がフンを落とす時に四肢で踏ん張るように、おれは自前のトラックのハンドルを握っている。隣の座席には愛銃が居る。ラジオでは、おれたちの祝福を歌っているらしい男性レポーターが、路地裏の記者と金に罵倒を投げている。頭部の瘡蓋から脳の電波が流れていく。
前方から近づいてくるハンバーガー店のマークが、車内に赤色の閃光を落として通り過ぎていく。高速で進む車の左右の動き。人をも殺せる高速を、誰でも無いおれ自身が握っていると実感しながら、ガードレールに車体を突撃させた。
衝撃で首が曲がり、隣の座席が視界に入る。鎮座しているカセットテープのシルエットに欲情をしてしまう……。
おれは自前の一眼レフカメラに投げキッスをしてから、顔なじみの店員が在籍している地下鉄の駅のような空気感のコンビニエンスストアに急ぐ。
孤独の森林の中。おれは震える手で携帯電話を操作している……。硝煙と目の前の肉塊のおかげで、おれは自分のことを客観的に見ることができている。
「緊急のサービスです。現在の状況は?」
「ああ、ええと、森の中を歩いていたら、死体が……」
「死体? 性別はわかりますか?」
「女の子、だったみたいです。ああ、可愛いな……ええ。黒い目がぱっちり開かれていて、蟹股で空を見ている……」
「ミスター?」
「ああ、ああ……僕が、いいや、私がこんなに大きな拳銃を持っていなければよかったのに……」
「すみません。もしもし? どうかされましたか?」
「いいえ。私たちはこの子を犯す必要がある」
「え。あれ……すみませ」
おれはかつて、砲丸投げの選手を肩代わりしたことがある。人間のような温もりを感じることができる。柔らかい角のような肩と、ラグビー選手から抜きとったクレジットカードで購入した金属バット。身代わりを務めた過去の臭いで油を沸かせ、一丁のリボルバーを購入する。
金属バットで人間の女の子の頭部を叩く。彼女の頭部は正真正銘の山羊だった。ぺしゃんこになった綺麗な山羊顔面からは、灰色の脳の香りと土の茶色煙が漂う。おれはモーニングのスープよりも、こういった肉塊の臭いのほうが落ち着けるんだ、と、隣の座席のリボルバーに説明をしながらズボンを脱ぎ捨てて、頂点に輝かんとしている自前のムスコを、山羊女の子の蟹股の中心に入れていく。
肉塊の女の子の冷たさが、染みるように伝わって一体化していく。太ももと太もも距離が消え、おれは女の子の肉塊との連結を完了する。
隣のカセットテープが、独自の録画機能を駆使しておれを撮っている。おれは欲情に身を任せて腰を振るう……。
"一千二十八円の山羊。"へのコメント 0件