麻酔を打たれ、微睡んでいく。じわじわと眼が震え閉ざされる。
僕はこれから処刑されるのだ。しかし遠のく意識に不安は一つもない。
あの青年は三人を寡婦にしてしまうことの辛さ、自分がこの世から存在しなくなるという不安、そういった精神的苦痛が肉体的苦痛よりも大きく上回ると考えていたが、彼の焦慮していた不安は僕の中には存在しない。
僕は神の存在を信じていた。その神とは自分であるということも。
精神世界が僕の絶対的な居場所であり、その侵害が決してなされないという自信は、僕がこれから死んでいくことの絶対的未来を納得するだけの余裕を齎した。僕の世界は決して汚されることのないものである、それだけでどれだけ安心できることか!だから僕に不安なんてないんだ。
視界は霞み、僕は暗闇に呑まれていく。周りの人間の喧噪は次第に静かになり、辺りは森閑としている。僕が既に自分の内的性質の中に入ったという実感。それは僕の勝利を讃えよう。
目が覚めると、僕は固い土の上に突っ伏していた。周りを見回すと、誰もいない。
僕は天国にやってきたのだ、という考えが僕を余裕づけた。そして誰もいない町を周ってみることにした。この高揚感、それは脳内の冴え、気持ちの清明。
土を踏み締める、その砂利の靴底を擦る音が心地よかった。
空は曇り、日輪を覗くことは出来ない。
彼は歩み始める際、冷たい風が頬を触り、鼻孔に黴臭い土埃が入ってくるのを感じ取った。
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