おっと、この話をはじめる前に断っておくね。先だって話した婚前旅行の件、それはこの話を片づけてから話そうと思う。ご了承願いたい。と言うのも、僕はドバイへ旅立つ前にずっとある娘と行動を共にしてたんだ、一か月くらい。だからその話からしたい。「話」と「戦争」は順を追って進めたほうがいいよね。というか、この話をしないことなど僕にはできない。
で、ワタキミちゃんのことなんだけど――そう、ワタキミちゃん。本名ではない。本名も聞いたけど、それをしゃべるのはルール違反だと思うから公表は控えることにする。そんなわけで、ええと、ワタキミというのはね、彼女のソロミュージシャンとしての活動名の略称なんだ。「ワタシの名前はキミの名前だ！」というのが彼女の正式な活動名さ。「ワタシの名前は」というのは単なる文要素上の主部で、「キミの名前だ！」というのが活動名なのかもしれないけど定かでない。彼女は自身のことをワタキミと呼んでいた。そして彼女のファンたちも僕も彼女のことをワタキミちゃんと呼んでいた。いちいち正式名称で表記するのは面倒だからさ、ここでも便宜的に彼女のことをそう表記することにする。
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