メトロシアターでミナと『ライフ・イズ・ビューティフル』を見た時のことを思い出した。二人でしばらく静かに泣いた後、ミナは僕のポケットから勝手にハンカチを引っ張り出して鼻をかんだ。
「ねえ、べちょべちょじゃん」
「いいの。私が買ってあげたんだし」
まあいいけど、と僕は紙コップの底に残っていた氷を噛み砕いた。洗濯は僕の仕事なんだけど、とは思った。
「幸せってなんだろうね。最後までお父さんに騙し通されたあの子は、幸せだったのかな。その後に真実を知ったとしても、今その瞬間は、幸せだったよね。でもその後は?本当の幸せって、なんなんだろう。お父さんの嘘は、正しいことだったのかな」
「幸せに、正しいとか間違っているとかは、ないんじゃないかな。目の前の人を想って、今の自分にできることをする。それが大切なんじゃない?時が経って、その瞬間の意味が変わってきても、そこにあった愛は嘘にはならないと思うな」
「そっか。コータは、優しいね。私は、そんなに強くないから、お父さんに怒っちゃうと思う。どうして信じて一緒に逃げ延びてくれなかったのって。その時どんなに辛い思いをしても、それから先を一緒に生きてくれた方が嬉しい。そうじゃなきゃ、お父さんのことを恨んじゃうかもしれない。でもコータは、ちゃんとその時の愛を信じて理解してあげることができるんだね」
「そんな上等なものじゃないよ。僕は馬鹿で弱いから、未来の苦しみよりも今の苦しみの方が怖いだけ。目の前でミナが苦しんでるのなんて見てられないもん。それなら、自分の命に代えてでも君を救いたい。そんなこと言ったら怒る?」
「うん、怒る。死んだら恨むよ。死ぬより辛い苦しみを与えてやる。来世は私のペットだね」
「それはそれで幸せそうだけど。でもミナが他の人と結ばれるのを見てるのは確かに辛いかも」
「ほんと、コータは私のことが大好きだねえ」
"隣にいる君を探して 第11話"へのコメント 0件