電話口での警察の対応はつれなかった。物も盗られていない、危害らしい危害も加えられていないでは、今回の件を事件として扱う事は到底出来かねると云う。其れでも私は、排水溝の縁で微動だにしない水滴を横目に見ながら、今自分が如何に危機的状況にあるかを言葉の限りを尽くして説明した。が、徒労であった。全て鼻で笑われた。終りに私は、川本文雄の顔写真の提供を求めた。しかるにこれも退けられた。
「見せて貰えないと私は、実際には会った事も無い警察職員を一生恨み続ける事になってしまうかもしれない。」
と云う言葉は自分でも蕪雑極まりなくおもわれたが、出てしまった物はもうどう仕様も無い。自棄になって私は更に言葉を続けた。「別に写真をどうかしてやろうと云う魂胆は無いのですよ。ただ、確かめたいだけなのです。」
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