取り敢えず、弟に生き地獄を味合わせた人間達を、文字通り地獄に叩き落した。
他にも、見て見ぬフリをしていた弟の同級生や教師の顔が頭に浮かんだ。
しかし、さらに強い破壊の衝動を感じる人間達が、他にいる。
その筆頭は、もちろん藤堂一族だ。
だが、あの邪悪な一族は最後だ。
悪の総本山には、最後の畏友最後に、最も大きな破壊を見舞ってやりたい。
そんな私の心情とは別に存在する理由。
それは、脳内で鳴り響くアラーム。
これも絶滅者としての能力なのか?
そのナラームはこう告げる。
「今、藤堂の“清彦”と戦ってもワタシは負ける。清彦に殺されるだけ」
ひどい臭気のただよう泥沼に首まで浸かっていた父。
現世で誠実に生きた人間に、あの仕打ちは何事か!
元凶は藤堂一族。
けれどワタシは、枝葉から狩っていくことにした。
異形のモノがワタシに見せた「イメージ」を思い出す。
不良債権で汲々としているとは思えない、豪勢で尊大な頭取室とその持ち主。
国民の税金から多額の融資を受けている割には、その国民を見下した傲慢ぶり。
無論、このゴリラ頭取も破壊する。
だが、父に放たれた二人の刺客の方が先だ。
小峰と田端。
ワタシは、二人を透視した。
「藤堂課長補佐も、どうですかねえ……」
小峰は、田端の口からその名が出るのを確信していた。
リストラ・リスト作成時から、田端がタイミングを計っているのを見抜いていたから。
田端がリスト作成当初に、父の名を上げなかった理由はただ一つ。
父が藤堂一族だから。
小峰が上昇志向の強い、またそれに相応しい実力と狡猾さを兼ね備えていることは、田端も認めている。
だが、小峰が一族の人間の首を切るほど腹を括っているか、探りかねていた。
今回のリストラを、小峰が千歳一遇の好機と捉えていることは、田端も見抜いている。
一族である父のリストラを進言したとする。
万が一、小峰が点数稼ぎのために、藤堂一族のゴリラ頭取にその事を報告したら、リストに自分の名が刻まれる可能性もある。
だが、田端はその恐れは無いと判断した。
小峰は、無能な行員を問答無用で切り捨てる気だ。
さらに藤堂一族に、戦を仕掛けるだけの覚悟があることを知った。
今回のリストラ作業は小峰にとって、一族打倒のためのワンステップ。
血が薄いとはいえ、田端も一族の人間。だが、冷遇されている。
一族は確実に変化しつつある。血縁だけでは優遇されなくなった。
それは田端にとっては不運だが、小峰にとっては好運だ。
余程血縁の濃い人間を除けば、首を切っても、小峰のキャリアに支障は無い。
「なぜ、藤堂補佐ですか?」
冷静で丁寧で、そして冷たい問いが小峰から発せられる。
「藤堂補佐の長所を挙げます。無遅刻・無欠勤・無早退。小峰さんは、それ以外に何か思いつきますか? 現在、当行のバンカーに求められるのは、海の向こうの海千山千の金融屋達を出し抜くことです。誠実だけが取り柄の人間ではありません。冷徹なバンカーが必要なのです」
小峰は静かに田端を見ていた。
「分かりました」
短い了承。
田端の毛穴中から噴出す冷や汗。
「(俺は一族の人間追放に加担してしまった……しかも、かつては「一族の爆弾」と言われた女を女房にしている男を……)」
後戻りできない状況に陥り、動揺する田端。
逆に小峰は、心中ほくそ笑んでいた。
「(藤堂一族の口から、一族追放の戦端が開かれた。このまま、当行から徐々に藤堂を駆逐していってやる)」
小峰の壮大な藤堂排除計画。
父はその叩き台でしかなかった。
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