絶滅者 15

hongoumasato

小説

1,428文字

弟をイジメで地獄の底に叩き落していた山本と、山本をそんな人間に育てた山本両親を破壊した「ワタシ」。

そんな「ワタシ」は次の標的を決め、過去の真相を透視すると・・・

取り敢えず、弟に生き地獄を味合わせた人間達を、文字通り地獄に叩き落した。

他にも、見て見ぬフリをしていた弟の同級生や教師の顔が頭に浮かんだ。

しかし、さらに強い破壊の衝動を感じる人間達が、他にいる。

その筆頭は、もちろん藤堂一族だ。

だが、あの邪悪な一族は最後だ。

悪の総本山には、最後の畏友最後に、最も大きな破壊を見舞ってやりたい。

そんな私の心情とは別に存在する理由。

それは、脳内で鳴り響くアラーム。

これも絶滅者としての能力なのか?

そのナラームはこう告げる。

「今、藤堂の“清彦”と戦ってもワタシは負ける。清彦に殺されるだけ」

 

ひどい臭気のただよう泥沼に首まで浸かっていた父。

現世で誠実に生きた人間に、あの仕打ちは何事か!

元凶は藤堂一族。

 

けれどワタシは、枝葉から狩っていくことにした。

異形のモノがワタシに見せた「イメージ」を思い出す。

不良債権で汲々としているとは思えない、豪勢で尊大な頭取室とその持ち主。

国民の税金から多額の融資を受けている割には、その国民を見下した傲慢ぶり。

無論、このゴリラ頭取も破壊する。

だが、父に放たれた二人の刺客の方が先だ。

小峰と田端。

ワタシは、二人を透視した。

 

「藤堂課長補佐も、どうですかねえ……」

小峰は、田端の口からその名が出るのを確信していた。

リストラ・リスト作成時から、田端がタイミングを計っているのを見抜いていたから。

田端がリスト作成当初に、父の名を上げなかった理由はただ一つ。

父が藤堂一族だから。

小峰が上昇志向の強い、またそれに相応しい実力と狡猾さを兼ね備えていることは、田端も認めている。

だが、小峰が一族の人間の首を切るほど腹を括っているか、探りかねていた。

今回のリストラを、小峰が千歳一遇の好機と捉えていることは、田端も見抜いている。

一族である父のリストラを進言したとする。

万が一、小峰が点数稼ぎのために、藤堂一族のゴリラ頭取にその事を報告したら、リストに自分の名が刻まれる可能性もある。

だが、田端はその恐れは無いと判断した。

小峰は、無能な行員を問答無用で切り捨てる気だ。

さらに藤堂一族に、戦を仕掛けるだけの覚悟があることを知った。

今回のリストラ作業は小峰にとって、一族打倒のためのワンステップ。

血が薄いとはいえ、田端も一族の人間。だが、冷遇されている。

一族は確実に変化しつつある。血縁だけでは優遇されなくなった。

それは田端にとっては不運だが、小峰にとっては好運だ。

余程血縁の濃い人間を除けば、首を切っても、小峰のキャリアに支障は無い。

「なぜ、藤堂補佐ですか?」

冷静で丁寧で、そして冷たい問いが小峰から発せられる。

「藤堂補佐の長所を挙げます。無遅刻・無欠勤・無早退。小峰さんは、それ以外に何か思いつきますか? 現在、当行のバンカーに求められるのは、海の向こうの海千山千の金融屋達を出し抜くことです。誠実だけが取り柄の人間ではありません。冷徹なバンカーが必要なのです」

小峰は静かに田端を見ていた。

「分かりました」

短い了承。

田端の毛穴中から噴出す冷や汗。

「(俺は一族の人間追放に加担してしまった……しかも、かつては「一族の爆弾」と言われた女を女房にしている男を……)」

後戻りできない状況に陥り、動揺する田端。

逆に小峰は、心中ほくそ笑んでいた。

「(藤堂一族の口から、一族追放の戦端が開かれた。このまま、当行から徐々に藤堂を駆逐していってやる)」

小峰の壮大な藤堂排除計画。

父はその叩き台でしかなかった。

2019年2月17日公開

© 2019 hongoumasato

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