医者と妖怪。

松野焔楽

小説

6,342文字

主人公の白金勇希は精神科と外科を掛け持ちしている23歳の医師。自分の患者であり、親友の2人を殺人鬼に殺され、今日は2人が死んで3年後の命日。墓参りを終えた帰り、神社の境内で勇希は三尾の狐ルタとカラス天狗ラゴと出会う。ルタとラゴは死んだ親友2人に何処か似ていた。そんな妖怪との出会いから1ヶ月の間に、勇希に起こった奇跡の物語。
(現在未完成です。)

ある秋の日の朝、俺は雨上がりの公園にやって来た。あまり使われなくなった遊具の端に蜘蛛の巣があり、糸に水滴がついてキラキラ反射している。
俺の名前は白金勇希(しろがねゆうき)。23歳の俺はこの町の大きな病院で精神科医と外科を掛け持ちしている。心霊現象、オカルト等は一切信じず、サンタクロースでさえ、見た事や会った事がないからと信じなかった。
そんな俺には心から親友と呼べる存在が2人居る。いや、居たと言った方が正しいかもしれない。もう2人は、この世に居ない。亡くなったからだ。
1人目は斎藤龍大(さいとうりゅうた)。俺より1歳年上の男の子。生まれつき盲目で、いつも寂しそうな笑みを浮かべていた。博識だった為、小さい子供達の質問攻めに付き合ってあげたりする面倒見の良い奴だった。
2人目は不知火樹流(しらぬいたつる)。俺より5歳年下の男の子。震災孤児でコミュニケーション能力が欠如した暴れん坊だった。精神疾患があり、自らを狐だと言い張って俺に様々な悪戯をしてきた。生意気だと思って冷たくあしらってやったけど。
そんな龍大と樹流は3年前に病院に侵入してきたナイフ持ちの殺人鬼に殺されてしまった。龍大は子供達と勉強中に襲われ、子供達を逃がそうと叫び、首や喉を切られ、出血多量で死んだ。樹流は龍大の叫び声を聞いて駆け付け、目の前で龍大が殺された事に逆上し、凶器を奪おうと戦った末、心臓を一突きにされて死んだ。俺が見つけて、救命処置をしたけど、間に合わなかった。この時俺は20歳、大事な2人の命が消えた。
今日は龍大と樹流の命日か。墓参りに行こう。今年も、あの時助けてやれなくてごめんなって謝るんだ。花屋で墓参り用の花を買って行く。隣町の墓地に2人の墓がある。血は繋がっていないが、身寄りのない2人を離れ離れにするのは可哀想だと、俺が頼んで一緒の墓にしてもらった。
2人の墓の前に着いて、今年もこの日が来た、と呟いた。他の墓の家族は盆休みくらいしか来ないのか、草が伸び放題だった。俺は1週間に1回は必ず来るようにしてるから、相変わらず綺麗。買ってきた花を飾って、手を合わせる。
「龍大、樹流……あの時、助けられなくてごめんな。愚か者の俺を、許してくれ。」
よし、終わった。帰ろう。俺は踵を返し、墓地を出て行った。

2019年1月28日公開

© 2019 松野焔楽

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