亀のあくび

愚人

小説

23,522文字

ブスだった。
馬鹿だった。
だけど巨乳だった。
だから肉便器だった。

 

 

 

 

 

 

(一)

 

亀があくびをする瞬間を見た。

亀は目を細めながら、これでもかというくらいに口を開くと、今度は巻き戻しをするかのように、その小さな口をゆっくりと閉じた。

一瞬の出来事だった。俺はそれを横目で見ながらエスカレーターに乗った。

そのまま地下一階の食品売り場まで一気に下りた。

昼時の食品売り場は思ったよりも空いていた。

いずれにせよ俺には金がないため、当てもなく店内をブラブラした。

冷蔵ケースに恐ろしい数の水戸納豆が並んでいた。精肉コーナーの豚顔した店員が、豚肉の細切れパックを延々と並べていた。野菜コーナーには白菜が山積みになっていた。意味もなく白菜の白い部分に爪先を刺した。サクッという音が小気味良く、いくつもいくつも刺して回った。

そのまま菓子コーナーへ行き、スニッカーズを万引きしようかどうしようか五分ほど悩んだ。結局カロリーメイトも一緒に万引きし、急いで出口に向かって歩いていると、突然、今になって(亀もあくびをするのだろうか?)という疑問が湧いた。

俺は居ても立ってもいられなくなった。その真相を確かめようと再びエスカレーターに乗った。が、しかし、地下一階から七階の『南アメリカ爬虫類展』までは随分と長く、その間に、それを知った所で俺のこの燻った人生が変わるわけでもないと思い始め、結局俺は三階の婦人服売り場でエスカレーターを下りたのだった。

 

そんな俺は、かれこれ二ヶ月ほど失業中だった。

二ヶ月前まで近所のコンビニで深夜のバイトをしていた。しかし、ある日、たまたまおでんの汁の中に痰を垂らしていた所を客に見つかり、さっそく店長に告げ口されて解雇された。

なぜおでんの中に痰など垂らしたのかは自分でもわからなかったが、以前から俺は、あつあつの肉まんの表面に精液を塗り込んだり、一度口に含んだ唐揚げを再び保温ケースに戻したりするおかしな癖があった。なぜそんな事をするのかその原因はわからなかったが、ただ、中学の時にも俺は、給食が保管されている調理室に忍び込み、何の理由もないままカレーが入っている食缶の中にカリカリに乾いた猫のウ○コを入れたりした事が度々あった為、だからこの癖は、もしかしたら幼少の頃に何らかの心的外傷を受けた事によって起こった急性ストレス障害なのかも知れなかった。そう思った俺は、さっそく労働基準監督署に出向き、そんな障害の恐れのある俺を無下に解雇した店長の所業を激しく訴えた。場合によっては告訴も辞さないぞ、というくらいの強い姿勢で窓口のカウンターをバンバンと叩いてやった。が、しかし、俺は労働基準監督署を追い出された。これ以上大きな声を出されますと警察に通報しなければなりませんよ、などと窓口のババアに脅された挙げ句、二度とその門をくぐる事を許されなかったのだった。

 

アパートに戻った俺は、あまりの蒸し暑さに七転八倒しながら、畳みの上に放り投げていたアイフォンを指で手繰り寄せた。その最新型のアイフォンは、当然ながら自分で買った物ではなく、あいつの名義でローンを組んで購入した物だった。
『よく使う項目』を開いた。そこには、近所の銭湯と、近所のラーメン屋と、そしてあいつの携帯番号が表示されているだけだった。

みゆきは俺よりも七歳年下の二十三歳だった。いわゆる『色白ぽっちゃり型』の女で、その真っ白な肌はつきたての餅のようにムチムチし、揉みしだくと生クリームのように柔らかかった。何より俺が気に入ってたのは、巨乳というか爆乳に近いその大きな乳だった。それはロケットのような形をした下垂型で、いかにもスキモノらしいだらしない柔肉の塊だった。そんな肌と乳だけ見ている分には、どこかのAV女優のようだったが、しかしその顔は絵に描いたようなブスであり、頭もおもいっきり悪かった。

そんな女だったから、みゆきは呼び出せばいつでもやって来た。夜中でも早朝でも文句一つ言わずにやって来た。「ヤるぞ」と言えばすぐにパンツを脱ぎ、「帰れ」と言えば一瞬にして消えてくれた。

そんな都合の良いみゆきは、俺にとってオナホール以外の何物でもなかった。

 

その日、みゆきはなかなか電話に出なかった。

異様な蒸し暑さが余計イライラさせた。イライラしながら何度も何度も電話をかけまくっていると、ようやく六回目で電話に出た。
「はい……」と小声で電話に出たみゆきの背後では『ピポピポ〜ン』という来客チャイムがひっきりなしに鳴り響いていた。俺は同じように声を潜めながら「店長いるのか?」と聞いた。するとみゆきは、さっきと全く同じ声で「はい……」と返事をした。

「今すぐ俺の部屋に来い」

「…………」

「聞いてんのかコラ」

「……はい」

「わかったな、十分以内に来るんだぞ」

「……はい」

「テメェは『はい』しか言えねぇのか低能」

そう捨て台詞を残して俺は電話を切った。

さっそく敷きっぱなしの万年床に寝転がりながらTシャツを脱いだ。バンザイした脇の下から煮魚のような匂いがモワッと漂い、かれこれ一週間近く銭湯に行っていない現実を思い知らされた。

ズボンとトランクスを同時に脱いだ。そこもやっぱり悲惨な東京砂漠だった。バシバシに固まった陰毛は白い粉を噴いており、そのボンドでくっ付けたような陰毛を毟り取ろうとすると、その白い滓はフケのようにポロポロと零れては、万年布団の上に散らばった。それは、三日前のみゆきの汁が乾いた物だった。みゆきは、陰核を指で刺激されながら肉棒で膣壁を擦られると、すぐに潮を噴く癖があったのだ。

暫くすると、アパートの鉄階段をカコンカコンと上って来るヒールの音が聞こえて来た。その足音はいかにもバカ女だった。損も得も、善も悪も、生と死すらも考えていないユルい女そのものの足音だった。
みゆきは、電話を切ってから約六分でやって来た。店長に何と言って店を出て来たのかは敢えて聞かず、そのままいきなりペニスをしゃぶらせてやった。そのペニスは、当然の如く凄まじく汚れていた。そこに漂うニオイも半端ではなく、胡座をかいてしゃぶられている俺でさえ、そのプンプンと漂う生ゴミのようなニオイに吐き気がしていた。それでもみゆきはそれを一生懸命舐めていた。じゅぷじゅぷと卑猥な音を立てながらしゃぶり、口内に溜まるその臭汁さえも、何の躊躇いもなく飲み込んでいたのだった。

この女はそんな女だった。女と言うより、いや人間と言うより、みゆきは動物と呼ぶに相応しい生き物だった。だから、例えそれが一週間風呂に入っていないモノであろうとこの生き物には全く関係なかった。例えそれが見ず知らずの他人のモノであろうと、例えそれが実の父親のモノであろうと、それでもこいつは何の躊躇いもなく平気でしゃぶるであろう、そんなおぞましい生き物なのであった。

そんなみゆきとはコンビニで知り合った。二ヶ月前に俺が解雇された、あのコンビニだ。

みゆきは、俺よりも一年ほど前からそこで働いていた。みゆきは、カタカナの『ツ』と『シ』が書き分けれないほどのバカのくせに、なぜか正社員だった。

俺はバイト初日から、この女が馬鹿だと言う事に気付いていた。なぜなら、ラックに商品を並べている際、客に尻を撫でられてもジッと我慢していたからだった。

その客は、スーツを着た普通のサラリーマンだった。いつも店長が休憩に入る時間を見計らって店にやって来ては、商品を物色するふりをしながら常にみゆきを監視していた。そしてみゆきがレジから一歩出ようものなら、まるで追尾型ミサイルのようにみゆきの後を追いかけ回しては、尻や胸を触るのだった。

ある時、俺とみゆきがレジにいると、トイレから出て来たその客がいきなり激怒し始めた。レジに向かって「トイレが汚いじゃないかぁ!」と叫び始めたのだ。

他に客はいなかった。もちろん店長も休憩中で、店内には俺とみゆきとその客だけだった。

その客は、「早く掃除しろよぉぉぉぉ!」と怒鳴りながら、俺たちを急かせるようにトイレのドアをバンバンと叩き始めた。明らかに不審だった。たかだかトイレが汚れていると言うだけなのに、まるで辺野古移設反対派のリーダーのように怒り狂っているのだ。

本来ならバイトの俺がトイレ掃除に行かなくてはならなかったが、しかし、俺は敢えて知らん顔した。きっとあの客は、何か良からぬ事を企んでいるんだと思うと、ここはどうしてもこのバカ女に掃除に行かせたいと思ったのだ。

みゆきは、横目で俺をチラチラ見ながら必死に何かを訴えていた。それでも俺は、それを無視してさっさと肉まんの補充を始めた。するとみゆきは小さな溜め息をつき、まるで『お姉ちゃんなんだからあなたがやりなさい!』と母親に叱られた姉のように唇を尖らせながら、しぶしぶレジを出て行ったのだった。

おどおどしながらみゆきがトイレに入って行った。するとその客もみゆきのすぐ後についてトイレに入り、凄い勢いでドアをバタンッと閉めた。

トイレはもちろん一人用であり、あの狭い空間では、きっと二人は密着しているに違いなかった。

あの薄気味悪いサラリーマンの歓喜に満ちた欲情顔を想像すると、おもわず笑えて来た。しかしその反面、おどおどしながらあの薄気味悪いサラリーマンに好き放題されているみゆきを想像すると、不意に亀頭がズキンっと疼き、ゾクゾクしたものが太ももから涌き上がって来た。

あんなブスに興奮している自分が情けなかった。確かに俺は、三十を過ぎても未だ素人童貞のキモ男だったが、それでもあんな馬鹿ブス女に欲情させられるほど落ちぶれてはいない。俺は風俗でも、ブスはきっぱりとチェンジするほどの面食いなのだ。

しかし、その時の俺は妙にモヤモヤしていた。(もしかしてあのブス、あの薄気味悪い親父に本当にヤられちゃってるのか?)などと想像していると、おもわず勃起した肉棒をズボンの上から握りしめてしまっていた。

但しそれは、ブスのみゆきに興奮していたのではなく、この非現実的なシチュエーションに興奮していたのだった。真っ昼間のコンビニのトイレで女店員が客に犯されているという、まるでAVのようなこの出来事が、今現実にすぐ目の前で行なわれているというこの状況に興奮していたのである。

レジカウンターに立つ俺は、胸に溢れて来る熱い息を吐き出しながら、閉ざされたトイレのドアをジッと見つめていた。便座に両手を付きながら、立ったまま背後から犯されているあのブス女のロケットおっぱいが、タプタプと激しく揺れているシーンを想像していた。そして、あの薄気味悪いサラリーマンが、みゆきの制服の背中にハァハァと熱い息を吐きながらそのグロテスクな結合シーンを必死に覗き込んでいる姿を妄想しては、一人悶々としていた。

暫くすると、いきなりトイレのドアが豪快に開いた。みゆきがトイレに連れ込まれてからまだ五分しか経っていなかった。

その客は、トイレから出て来るなり、異常に目をギラギラと輝かせながらレジに向かって来た。そして呆然としている俺に向かって、「トイレは常に綺麗にしとくように」と、まるで学校の先生のように呟き、そのままそそくさと店を出て行ってしまった。

なかなかみゆきはトイレから出て来なかった。恐らく、尻から精液を垂らした状態で便器にしがみついているのだろうと思っていると、今、そこで起きているその悲惨な状況に激しい興味を覚えた俺は、思わずレジから飛び出していた。

鼻息荒くトイレに向かった。途中、雑誌コーナーのショーウィンドゥ越しに、駐車場をとぼとぼと歩いて行くあの客の姿が見えた。そいつは、歩きながら指を二本立てていた。そして、その指のニオイを嗅いだりペロペロと舐めたりしては、薄気味悪く頬を緩めていた。

トイレのドアを恐る恐る開けると、みゆきは何もなかったかのようにトイレ掃除をしていた。特に衣類が乱れているわけでもなく、制服のズボンもきっちりと穿いていた。悲惨な光景を期待していた俺は、腹ただしい落胆を感じながらも、一応、「大丈夫か?」と聞いてやった。

みゆきは、便器にブラシをカコカコと鳴らしながらチラッと俺を見た。その表情には、散歩中にウンコを始めた犬がソッと飼い主に振り返った時のような、そんな羞恥と後ろめたさが浮かんでいた。

そんな出来事があってから、俺はこのブスのバカ女に奇妙な感情を抱くようになった。もちろんそれは愛情ではなく欲情だった。みゆきの事など薄汚い牝豚のようにしか思っていないのに、それでも何故かみゆきの事を考えると異様な興奮に襲われ、オナニーせずにはいられなくなってしまうのだった。

当時の俺は、いつも深夜勤務中にオナニーしていた。客足がピタリと止まる深夜三時を見計らっては防犯カメラの映らない裏のロッカー室に籠り、商品のエロ本を見ながらシコシコしていた。

ある時、何気にみゆきのロッカーを開けてみると、スギ薬局の袋がポツンと置いてあった。袋の中には、鼻に塗るだけで花粉をブロックする『鼻スースー・スティック』と、すきまピッタリ超朝までガードの『ウィスパー』が入っており、いずれもパッケージの封は切られていた。そんな商品の下に、いかにも使用済みといった黒いストッキングが丸められて押し込まれているのを発見した瞬間、突然心が躍った。それは、高校生の頃、洗濯機の中に放り込まれていた姉の使用済み下着を見つけた時と同じ、燃えるような昂揚感だった。

さっそくそのストッキングを取り出し、股間部分を嗅いでみた。そこに陰部のニオイは感じられなかったが、どこか饐えた生活臭は感じられた。その匂いとこの変態的な状況に目眩を感じるほどの興奮を覚えた俺は、急いでズボンとトランクスを脱ぐと、ロッカーに手を付きながら尻を突き出し、その剥き出た肛門に『鼻スースー・スティック』をヌルヌルと塗り込んだ。強烈なミントが前立腺を刺激した。奇妙な快感に身震いした俺は、ビンビンに勃起したペニスにウィスパーを添え当てながら、慣れないストッキングを直履きし、その上からズボンを履いたのだった。

俺は、そのままホールに出た。股間をムズムズさせながらラックの商品を点検するふりをした。そして、店内に流れていたAKBまがいの新人アイドルグループの曲を出鱈目に口ずさみながら悶々とトイレに向かった。

黄色い汁で汚れた便器からは、キツいアンモニア臭がモワモワと漂っていた。その頃、近くにある家電量販店に中国人観光客が押し寄せては炊飯ジャーばかりを爆買いしていたため、その客がコンビニにまで流れて来てはトイレを滅茶苦茶に汚していた。そんな便器は、次から次へとやって来る中国人達に輪姦されながら、無惨に汚れた穴をぽっかりと空けていた。その穴を見ながら俺は、この薄汚いトイレで変態親父に犯されているみゆきの姿を妄想した。あの牝豚女の穴もこの便器の穴と同じだと思いながら、その荒んだ妄想と共にストッキングの上から股間のウィスパーを激しく上下させ、大量に放出した精液を高分子吸収ポリマーに全て吸い取らせたのだった。

深夜勤務だった頃の俺は、毎晩そんな変態オナニーを繰り返していた。誰もいない深夜のコンビニにはネタが溢れていた。商品のエロ本は見放題だし、みゆきの妄想もあった。

もちろん、客をネタにすることもあった。

毎晩同じ時間にやって来る二十代のキャバ嬢がいた。彼女はいつも『六甲のおいしい水』を一本購入する代わりにトイレを使用していた。それを知っていた俺は、彼女が来る前にトイレの汚物入れを空にしておいた。すると案の定、彼女が帰った後の汚物入れには、酷く黄ばんだオリモノシートがポツンと捨ててあった。もちろん舐めた。亀頭にも擦り付けた。その薄いシートにどんな危険が潜んでいるかも考えず、興奮の渦に巻かれた俺は、その新鮮な味と匂いを存分に堪能させてもらったのだった。
もう一人、いつも同じ時間にやって来ては雑誌の立ち読みばかりしているキャバ嬢がいた。その女は少々年配だったが、しかし、その熟れた肉体と露出の多い派手な服装は、若いキャバ嬢とはまた違った異様なエロスを漂わせていた。
ある時俺は、その女以外に客がいない事をいい事に、雑誌コーナーの裏にあるラックに身を潜めた。もちろんその際、店内の防犯カメラは停止させた。理由もなくカメラを一時停止させると本部から大目玉を喰らったが、しかし興奮した俺にはそんな事関係なかった。

俺は、雑誌を立ち読みしている女の後ろ姿を見つめながら通路に伏せ、ワックスの効いた床に頬をソッと押し付けると、ラックの一番下の隙間から女を見上げた。

ミニスカートの中が丸見えだった。今にもボテンっと溢れ出しそうな大きな尻肉を、いかにも安っぽいゼブラ柄の小さなパンティが必死に支えていた。パンパンに伸びたパンティの下からは真っ白な肉がはみ出し、そこに痛々しい肉割れ線が何十本も走っていた。

そんな下品な尻を覗きながら、俺は勃起したペニスをズボンから引きずり出した。コリコリの肉棒をシコシコと上下させると、自然に両脚がスリスリと擦り合い、スニーカーのゴムの踵がピカピカに磨かれた塩ビシートの床にキュッキュッと鳴った。

そうしていると、女はいきなりその場にしゃがみ込んだ。ラックの下で平積みになっている雑誌を手に取りパラパラとページを捲り始めた。プルッと突き出された尻。更にパンティーがパンパンに広がっていた。

 

 

 

 

床に頬を押し付けながらしゃがんだ股の裏を覗いた。太ももの隙間からクロッチがモッコリと盛り上がり、その中心に一円玉ほどの丸いシミが薄らと浮かんでいた。そのシミの色や匂いを妄想しながら亀頭から根元まで激しくシコシコしてやった。すると心地良い痺れが爪先から太ももへとジンジン走り、日本脳炎のように悶えた俺は、ラックに並んだ『じゃがりこ』の箱に大量の精液をぶっかけたのだった。

そうやって深夜勤務の暇な時間をケチな自瀆ばかりで過ごしていた俺だったが、しかし、やはり生身の肉体が無性に欲しくなる事があった。

そんなある日の深夜勤務中、悶々としている俺の前にあの生き物が現れたのだった。

 

 

 

(二)

 

 

 

ここのコンビニに真夜中やって来る客と言うのは、そのほとんどがまともな人間ではなかった。いかにもヒキコモリらしき夜行性の男や、いかにもノイローゼっぽい病的な女。水商売に風俗嬢にヤクザに暴走族。シャブ中にコソ泥に変態にホームレス。汚れたフィリピン女や荒んだ中国人など人種も多種多様で、中には意味不明な言葉をブツブツと呟いている宇宙人までもいた。まともなのはタクシーの運ちゃんか長距離トラックの運転手くらいで、それ以外の客は、ほとんどが心を病んだコウモリ人間であった。
そんな中、時折、パジャマ姿の女子高生や、いかにも風呂上がりと言った無防備な主婦など、近所の客がひょっこり現れる事があった。その度に俺は、そいつらをレジ裏の更衣室に引きずり込んでは、やっつけてしまいたいという衝動に駆られ、いつもその欲望を抑えるのに一苦労していたのだった。

その晩も、いつものようにみゆきのロッカーを物色していた。しかし、ロッカーの中には、何故かアイマスクが一枚ポツンっと置いてあるだけで、オナニーのネタになるような物は何もなかった。
空振りした俺は、ムラムラしたままさっき届いたばかりのエロ雑誌をパラパラと眺めた。しょうがねぇから今夜はこれで抜くかと思っていると、この時間には珍しくも来客チャイムが鳴り出した。
やって来たのは、近所のマンションに住んでいる二十代後半のOLだった。ブラジャーが透けた白いキャミソールに、マンスジをくっきりさせたスパッツという姿だった。
深夜二時だった。客は誰もおらず、来る気配もなかった。OLは携帯を耳にあて、同僚らしき相手と上司の悪口などを話しながら冷蔵ケースのスイーツを覗き込んでいた。
そんなOLのムチムチの尻を見ながら、(チャンスだ)と思うと、いきなり胸底からムラムラしたものが涌き上がり、頭の中で何者かが「早くしろ、早くしろ」と急かし始めた。
(本当にヤっちゃうか?)と自分に問い質していると、OLは、深夜二時だと言うのにバターたっぷりの濃厚なショコラを手にした。
それを持ってレジに向かって来た。途中、「それじゃあ明日ね」と言いながら携帯を切り、脇に挟んでいたルイヴィトンの財布を抜き取りながらレジの前で足を止めた。
受け取ったショコラにピッと鳴らしながら、目の前のマンスジをチラッと見た。その薄いスパッツをパンティと一緒に剥ぎ取るだけでいいんだ、と自分に言い聞かせた。露となった淫らな茂みの中に肉棒を押し込み、「大人しくしてねぇと、ぶっ殺すぞ」と何度も囁きながら腰を振っていれば、こんな堕落したOLなんぞすぐに股を開くだろうと勝手にそう思い込んだ。

「二百三十円です……」

そう告げながらも亀頭を擦り付けている女の茂みを想像し、俺はその一瞬のうちにあれこれと妄想を始めた。
肉棒が擦れるOLの陰毛がガシガシガシと鳴っていた。獰猛な亀頭に陰核が刺激され、ワレメはみるみる濡れ始めた。両脚を両手に抱え込み、股を大きく開いて再びそこに肉棒を擦り付けると、一瞬のうちに肉棒はその生温かい穴の中にヌルっと飲み込まれてしまった。俺は無我夢中で腰を振りまくった。すると、それまで必死に抵抗していた女がたちまち卑猥な喘ぎ声をあげ始め、遂には、自らの意思で俺の顔を両手で押さえつけると、真っ赤な舌を蛇のように突き出しては濃厚なディープキスをしてきたのだった。
そんな妄想を頭に描きながらお釣りの七十円を渡そうとしていた。指が震え、重ねていた十円玉がサカサカと鳴った。俺は、(本当にヤっちゃうんだな?)と、もう一度自分に問い質しながら、目の前に突き出されている女の細い手首を掴む事を考えていた。
と、その時、頭上で『ピポピポ〜ン』という来客チャイムが鳴った。慌てて妄想から抜け出した俺が横目で入口を見ると、そこには何故かみゆきがポツンっと立っていたのだった。

「なんだテメェは……」

おもわずそう小声で呟きながら、入口に突っ立ったままのみゆきを睨んでいると、OLが「早くしてよ」と不機嫌そうに呟きながら、俺の手から七十円を引ったくった。そんなOLの息は腐った魚のように生臭かった。その顔も改めて見ると凄まじく、剝げたマスカラのシミかと思っていた目の下の黒ずみは病的なクマだった。
早まらなくて良かったと思った。こんな薄気味悪い女で一生を棒に振らなくて良かったと、心からそう思った。きっとあの女の陰部には、茹でた越前蟹が入っていた発泡スチロールのような臭いが漂っているはずであり、そして行為後にはペニスの皮膚がヒリヒリと痛痒くなっては、翌朝にはネズミ色した膿が尿道からニュルっと出てるに決まっているのだ。
危なかった……とそう思いながらも、店を出て行く女の後ろ姿をぼんやり見ていると、ふと、スボーツ新聞のラックの横に立ち竦んでいるみゆきと目が合った。
俺のペニスはまだ勃起したままだった。一触即発だったムラムラ感も未だ胸底で燻り、それがいつ爆発してもおかしくない状態だった。
そんな俺のギラギラした目に何かを感じとったのか、みゆきは妙におどおどしながら「あのぅ……」と声を震わせた。

「なんだ」

「ロッカーに忘れ物をしたんです……」

おもわず「アイマスクか?」と言いそうになりながらも、「っんなもん、勝手に持ってけばいいじゃねぇか……」とぶっきらぼうに答えた。
「はい……」と、そう小さく頷きながら、みゆきはレジの前を恐る恐る横切った。いったいこんな時間までそんな格好で何をしていたのか、みゆきは生足にヒラヒラのミニスカートを履き、後部に束ねていた髪もだらしなくほつれていた。
レジの前に立ったままそんなみゆきを見ていると、ふと、大きく開いたTシャツの襟口に盛り上がっている真っ白な肉の谷間が目に飛び込んで来た。乳肉全体が水風船のようにたぷんたぷんと揺れていた。その谷間は皿の上にひっくり返したゼリーのようにフルフルしており、瞬間、俺の胸底で燻っていたムラムラが猛烈に涌き上がって来た。

(もう、こいつでいいや……)

素直にそう思った。犬のように四つん這いにしてヤれば不細工な顔は見なくても済むだろうと勝手な事を思った。後背位で攻められながら、タプン! タプン! と跳ね上がる巨乳を頭に描きながら、みゆきの後に付いていこうとすると、不意に薄暗い駐車場の隅にソッと隠れながら店内をジッと見ている人影が、俺の目に飛び込んで来たのだった。

それは見覚えのある男だった。そいつは看板の影に身を隠しながら、ロッカー室へと消えて行くみゆきの姿を必死に目で追っていた。
慌ててみゆきに振り返り、「あいつ……」と言いかけたが、しかし既にみゆきはロッカー室に入ってしまっていた。
もう一度、駐車場に振り返った。すると男の姿は消えていた。しかし、よく見ると看板の下から男の足が伸びていた。
あの男は、明らかにみゆきを待っているようだった。みゆきが今まであの男と一緒だった事は明白だった。みゆきは、こんな時間まであんな男といったい何をやっていたんだろう、と、思っていると、ふと、みゆきのロッカーの中に、ポツンっと落ちていたアイマスクが目に浮かんだ。あんな物をわざわざこんな時間に取りに来たのかと思うと、これからそれを使おうとしているその用途と、看板の裏に隠れているあの男の怪しい存在が、ピンク色した泥沼のような妄想を掻き立てた。
その男は看板の影から俺を見ていた。男のその目は、あの時、レジに立ち竦んでいた俺に向かって「トイレは常に綺麗にしとくように」と吐き捨てた時のように、異様にギラギラと輝いていたのだった。

みゆきは、わずか一分足らずで更衣室から出て来た。俺と目を合わせないように俯きながらレジ前を横切り、蚊の鳴くような小声で「お先に失礼します……」と呟いた。さっき胸の谷間をジッと見ていたのがバレていたのか、そんなみゆきの大きな胸には白いトートバックが抱きしめられていた。
みゆきが店を出て行くなり、男も看板からヌッと姿を現した。男は、とぼとぼと駐車場を歩くみゆきに近付くと、いきなりみゆきの髪の毛を掴み、生足の臑を革靴の先で蹴飛ばした。男は何やら酷く怒っていた。怒りながら何かをみゆきに指示すると、そのままさっさと闇の中に消えていったのだった。
恐らく男は、みゆきがアイマスクを忘れた事に怒っているんだろうと思った。それは、そんな二人の関係が、見るからにSとMだからだった。
そのアイマスクが、今の二人にとってどれだけ必要な物かは知らない。果たしてどうやってあれを使うのかさえ、あくまでも俺の妄想に過ぎない。だから一概にはそう言い切る事は出来ないが、しかし、あの異様にヒステリックな男の態度を見ていると、その原因はやはりロッカーに忘れていったアイマスクなのではないかと思った。というのは、以前俺にも同じような経験があったからだった。それは三年程前、当時阿佐ヶ谷のアパートで一緒に暮らしていた女とセックスしていた時の事だった。なんと、ここぞという時に突然ピンクローターの電池が切れ、しかも、電池のストックが一本もなかったのである。あれにはさすがにぶち切れた。なぜ買い置きしておかないんだと女を怒鳴り散らし、ゲンコツで女の頭をスカンっと叩いた。それでも気が治まらない俺は、散々女を貶した。鼻がゴリラみたいだとか、寝顔がルー大柴に似ているとか、挙げ句の果てにはその女の名前の名字が変だなどと、そこまで関係のない事に八つ当たりしては怒りまくった事があった。
その癖はガキの頃から一貫していた。俺は、楽しみにしていた事が阻止されると、例えそれがどんな些細な事であっても狂ったように怒りまくるという実に心の狭い子供だった。あれは中学三年生の時だった。毎年我が家は元旦になると母方の実家に行く事になっていたのだが、その際、いつも留守番をしていた父方の祖母に『新春かくし芸大会』の録画をお願いしておいた。が、しかし、既にその頃祖母はボケていたのだろう、翌日ビデオを見てみると、そこには『必殺仕置人』が録画されていた。しかもそれは新春特番らしく、藤田まこと演じる中村主水が女物の晴れ着姿でヘンテコな踊りを踊るという、常連視聴者しか喜ばぬようなサプライズ的なオープニングが画面に映し出されており、それを見た瞬間、俺は迷わずテレビを床に叩き落とし、正月早々、ブラウン管が「ボン!」と破裂する物騒な音を我が家に響かせてやったのだった。
そんな俺だったから、この時の男の怒りが手に取るようにわかった。きっと男は、そのアイマスクを使ってみゆきに特別な事をしようとしていたのである。そしてそれを深夜まで楽しみにしていたにも係らず、それをみゆきがまんまと職場に忘れてきた為ぶち切れたのであろう。

そんな事を考えながら、闇に消えて行くみゆきの白いTシャツを見ていると、不意に(尾行しなくては)という焦燥感に駆られた。例え二人を尾行しても、ラブホにしけ込まれてしまってはそれまでなのだが、しかしその時の俺は、何故か妙に焦り、異様にワクワクしていた。
慌てて制服を脱ぐと、それをレジ裏の床に叩き付けた。商品の『超立体・花粉用マスク』の袋を開け、商品の黒いキャップを深々と被った。そう変装しながらポテトチップスの段ボールの蓋を一枚引き千切った。そこにマジックで『ちょっと留守にします』と書こうとしたが、しかし、留守という字の『守』をド忘れしてしまい、仕方なく『ちょっと留スにします』とそこだけカタカナにして殴り書きした。それをガムテープで入口ドアにペタリと張り付けると、俺は鍵もかけないまま一目散に店を飛び出したのだった。

静まり返った駐車場に漂う深夜二時の空気は、まるで森の中にいるかのように澄んでいた。そんな空気を腹一杯に吸い込みながら、俺は二人が消えて行った闇に向かって走り出した。二人の後ろ姿はすぐに発見できた。
二人が入って行ったのは公園だった。ラブホにしけ込まれなくて良かったと思いながら、俺もその公園の闇に潜り込んだ。
その公園は鬱蒼とした森林に囲まれていた。北側に公民館、南側にゲートボール広場、そして東側にはアスレチック遊具があった。
二人はアスレチック広場の通路を抜け、公園の西側にある楕円形の芝生広場に出た。そこはベンチや水飲み場や公衆便所が集まっている公園のメイン広場であり、どこかのイカれた芸術家が作ったとされるワケのわからぬオブジェが所々に展示されていた。
闇に紛れながら二人を尾行していると、並んで歩く二人は、闇の中で唯一爛々と輝いている公衆便所の前で足を止めた。俺は慌てて巨大なオブジェに身を潜めた。それは、人間の顔をしたヤリイカが踊っている意味不明な石像だった。
公衆便所の入口の蛍光灯には、多種多様な夜蟲が狂喜乱舞していた。手の平サイズの巨大な蛾が蛍光灯に何度も追突しては、不快な粉をパラパラと舞い散らしていた。
その下で二人は揉め始めた。男がみゆきをトイレに連れ込もうとし、それをみゆきが拒否したのだ。項垂れたままイヤイヤと首を振るみゆきの背中を、男はドンっと突き飛ばした。そして体勢を崩したみゆきのTシャツの袖を素早く鷲掴みすると、男は何やらブツブツと呟きながら袖を強引に引っ張り、そのままみゆきを公衆便所の中に引きずり込んだ。それはまるで、散歩を嫌がっている犬と、「早く行くぞ」と怒りながら鎖を引っ張っている飼い主のようだった。
そこは男子トイレだった。恐らく男は、そこの個室にみゆきを連れ込み、その荒んだ雰囲気の中でズボズボとヤりたかったに違いない。お化けイカの影に身を潜める俺は、男のそんな気持ちが何となくわかった。
つまり奴はサディストなのだ。綺麗な女と夜景の綺麗なホテルでヤるよりも、ブスな女を荒んだ場所で犯したいと思う狂気に満ちた変態性欲者なのだ。
俺もそうだった。横浜のグランドインターコンチネンタルホテルのスイートルームで、シャネルの香りを漂わせた網タイツの米倉涼子と交わるよりも、田舎の国道沿いにあるボウリング場の廃墟で、荒縄で吊るした森三中の黒沢を無惨に犯しまくりたいタイプだった。だから俺は、奴が、あの時も、そして今も、トイレにこだわる気持ちがわかった。みゆきという巨乳のブス女は、汚れたトイレが異様に似合う女なのだ。

俺はお化けイカのオブジェの裏でゾクゾクしながら、いつあの便所に忍び込もうかと考えていた。深夜二時の薄汚れた公衆便所で、頭の悪い巨乳女をズボズボと犯している中年サラリーマンの姿が見たくて堪らなかったのだ。
が、しかし、そんな俺の予想は大きく外れた。なんと、突然男だけが公衆便所から出て来たのだ。
男は妙にソワソワしながら一人で出て来ると、そのまま便所の横の雑木林の闇に潜り込んだ。そしてそこにソッと身を隠しながら、まるで夜蟲が蜘蛛の巣に引っかかるのを待つ蜘蛛のように息を殺していた。

(これはいったいどーいう事だ……)

この予想外の展開に困惑しながら、俺はお化けイカのオブジェの裏から、薮の中で目を光らせている男と公衆便所を交互に見ていた。
不意に一匹の薮蚊が俺の耳元を通り過ぎて行った。そのブーンっという音を聞いた瞬間、ふと、何年か前にこの辺りの公園が一斉に閉鎖された事を思い出した。それは、蚊からデング熱という恐ろしい病気が感染するとテレビのニュースで大騒ぎされたからだった。さっそくこの公園も閉鎖され、連日公園には、まるで爆弾処理班のような重々しい格好をした役人たちが集まり、虫取り網片手に殺虫剤を噴射しまくっていた。
しかしいつの間にか公園は開放されていた。今ではデング熱などという名前すら聞かなくなった。いったいあれは何だったんだろうと思いながらも、あの時の役人達のバカさ加減を思い出しては「ふん」と鼻で笑っていると、突然、アスレチック広場の闇の中から一人の男が現れた。
その男はスタスタと公衆便所に向かって歩いて来ると、その入口で足を止めた。夜蟲が群がる蛍光灯が男を照らした。七三に分けた髪のポマードがテラテラと輝き、痩せこけた頬骨が浮かび上がっていた。
深夜の公園には不釣り合いなスーツを着ていた。定年間近の冴えないサラリーマンっといった感じの貧そな男だった。男は、まるでコソ泥のように辺りをキョロキョロと見回すと、素早く男子トイレの中へと入って行ったのだった。

明らかに挙動不審な男だった。しかし、藪の中に潜んでいる男は身動きひとつしなかった。その男子トイレの中には、みゆきが一人ポツンと取り残されているはずなのに、それでも男は動こうとはしなかった。それどころか男は、ソッと藪の中で立ち上がると、男子トイレの横の壁にある小窓から中を覗き始めたのだ。
そんな男の不審な行動を、一部始終見ていた俺は全てを悟った。なぜ深夜の公衆便所なのか、なぜみゆきが嫌がったのか、そしてなぜ男がみゆき一人をトイレに残して薮に潜んでいたのか、全て察しが付いた。

(それでアイマスクが必要だったんだな……)

そう納得した俺は、もはやこの薄気味悪いお化けイカのオブジェに隠れている必要はなかった。俺は堂々とそこから抜け出した。そして堂々と公衆便所に向かって歩き出した。
夜露で湿った芝生がカシュカシュと小気味良い音を立てた。夜空を覆う鬱蒼とした森林が夜風に吹かれ、まるで巨大な化け物の如くザワザワと蠢いていた。
公衆便所に近付いて行くと、薄暗い藪の中に浮かぶ男の姿がはっきりと見えて来た。男は左手で窓の桟に捕まり、爪先立ちしながら覗いていた。その右手は規則的に動き、それに合わせて腰がカクカクと動いていた。
公衆便所の前で立ち止まると、そこで初めて男は俺の存在に気付いた。男は慌てて右手の動きを止めると壁に顔を押し付けた。まるでイモリのように便所の壁に張り付きながら必死に息を殺していた。
噴き出しそうになるのを堪えながら、俺はそんな男の存在に気付かないふりをした。そしてわざとらしく携帯を弄りながら壁に張り付いたままの男をソッと見ると、壁に密着している男の下半身の横から、勃起したペニスがニョキッと飛び出しているのが見えた。それは、思わずハッと息を飲むほどに立派なペニスだった。がっしりと太く、異様に長いそれは、まさにFC2動画で見た黒人のペニスのようだった。

(みゆきはあんなモノをズボズボと……)

そうゴクリと唾を喉に押し込むと、不意にコンビニのトイレでソレをズボズボされている巨乳女の姿が頭に浮かんだ。たちまち俺は、居ても立ってもいられない興奮に襲われた。
トイレの中では、カサカサカサと衣類が擦れる音と、ハァハァと断続的に続く荒い呼吸が響いていた。脳がクラクラし、乾いた唇から生温かい息が漏れた。俺はそこに漂う不潔な空気を胸一杯に吸い込みながら腹を決めた。
そして、深夜二時の男子トイレの門を恐る恐る潜ったのだった。

 

 

(三)

 

 

意外にもこざっぱりとした清潔なトイレだった。落書きもなく、破損もなく、明るいLEDの蛍光灯が真っ白なタイルを輝かせていた。
だからこそ、その光景は余計異様に感じられた。
アンモニア臭が漂う落書きだらけの昭和トイレなら然程違和感は感じられなかっただろうが、しかし、この光り輝く平成トイレでは、その光景はあまりにも残酷すぎた。

入って右側に二つの個室が並んでいた。その個室の四方の壁にはステンレスが貼られ、卑猥な落書きは一切出来なくなっていた。左側には、ピカピカに磨かれた小便器が四つ並んでいた。いずれもセンサーによって水が流れる最新型の物で、その便器の形も、まるで中目黒にあるカフェのお皿のようにお洒落だった。
しかし、そんなスタイリッシュな便器が並ぶ中、ひとつだけグロテスクな便器が混じっていた。それは三番目の肉便器だった。
全裸のみゆきは、黒いアイマスクで目隠しされたまま、三番目の小便器の中に尻をスッポリと入れられていた。両手両足は大きく広げられ、便器の両サイドにあるバリアフリーパイプに手錠で固定されていた。
蛍光灯に照らされたその肌は、生クリームのように白く輝き、他の便器の陶器の輝きにも引けを取らない美しさだったが、しかしその肌には、『精液専用便器』や、『一滴も漏らさないで中出しして下さい』といった卑猥な落書きがマジックで殴り書きされ、それがより残酷性の強い被虐感を醸し出しては、このスタイリッシュなトイレの雰囲気を著しく破壊していた。
そんな悲惨な肉便器は使用中だった。さっきの定年間近のサラリーマンがせっせと腰を振りながら使用していた。
瓜のような形をした二つの巨大な肉の塊が、男の腰の動きに合わせてゆっさゆっさと揺れていた。その右乳には『牝豚』と書かれ、左乳には『千葉県産23才』と書かれていた。しかし、左乳の『千葉』という字は滲み、薄らとぼやけていた。恐らくそれは、サラリーマン親父がそこに顔を擦り付けたために、その額の汗で滲んだものだろうと推定できた。その証拠に、サラリーマン親父の頬や額には、まるで『ハゲ隠しパウダー・ふりかけブラック』が汗で垂れかのように真っ黒に汚れていた。

俺はゴクリと唾を飲みながら、洗面所の上にある小窓をソッと見た。窓には外壁に張り付く例の男が血走った目で俺を見ていた。

(あの男は、みゆきがこうやって肉便器にされるのを、あそこから覗いて楽しんでいるのか……)

おもわずその強烈な変態性に背筋をゾッとさせていると、ふとみゆきを犯していた親父が、立ち竦んでいた俺に振り向いた。親父は、一瞬「はっ!」と目を見開いて動きを止めたが、しかし俺が素早く親父の背後に並ぶと、俺を同類の変態と認識したのか、その固まった表情を急に穏やかにさせ、再び腰を動かし始めた。
俺は親父の背後に突っ立ったまま、黙ってみゆきを見下ろしていた。便器に尻を押し込められたみゆきは、身動きひとつ出来ない状態で、ただただひたすらに犯され続けていた。泣くわけでもなく、感じているわけでもなく、まるで死体のようにぐったりしながら、見知らぬ男に大切な穴をほじられまくっていた。
そんなみゆきを見下ろしながら、(この女は、いったい何者なんだ……)と不気味に思っていると、不意に親父が俺に振り向き、「なかなか具合いいですよ」と笑った。

「二十三才らしいですよ……おっぱいも大っきいし、ほら、オベンチョもびっくりするくらいヌルヌルですよ……」

男はそう言いながら上半身を反らし、その結合部分を俺に見せつけてきた。俺は、親父の頭上からそこを覗き込み、まるで骨董品の壷を眺める御隠居さんのように、「ほう……」と唸った。
確かにそこはヌルヌルと濡れ輝いていた。出たり入ったりと繰り返している男の貧弱な肉棒が、フライパンで熱せられた油のようなピチピチと湿った音を奏でていた。
初めて見るみゆきの陰部は、思っていた以上に醜かった。ベロリと垂れた陰唇はキクラゲのようにドス黒く、肉棒が突き刺さっている内部は死んだ魚のエラの中のように赤黒かった。真っ白な下腹部は剛毛な陰毛で覆われ、その中から痛んだイチゴのような色をした巨大な陰核がピコンっと飛び出し、それを親父は親指でコロコロと転がしていた。
二十三才にしては随分と使い込んだオマンコだと思った。そのあまりのグロテスクさに俺は一瞬眉を顰めたが、しかし、その陰部の醜さと親父の頭から発せられるポマードの匂いが無秩序なエロスを感じさせ、その破滅的な卑猥感に、思わず亀頭がズキンッと疼いた。

「早く交代してくれよ」

俺は、そのドロドロの結合部分を覗き込みながら声を震わせた。すると親父は「久々の若い子ですから、もう少し楽しませて下さいよ」と不敵に笑い、突然スーツの内ポケットの中から赤い布切れを取り出した。

「どうぞ」

親父は左手に握りしめたその赤い布切れを俺に手渡してきた。

「なんだこれは」

そう言いながらその丸まった物を指で摘まみ上げると、それは真っ赤なパンティーだった。

「この子のパンツですよ。そこの個室のタンクの上に畳んで置いてありました」

個室に振り返ると、確かにさっきまでみゆきが着ていた衣類が洋式便器のタンクの上に畳んで置いてあった。「盗んだのか」と聞くと、親父はそれには答えぬまませっせと腰を振っていた。
親父の頭上で赤いパンティーを広げてみた。赤いクロッチはぐっしょりと湿り、黒いシミが円形状に広がっていた。一瞬、みゆきは公衆便所に入る前から既に濡れていたのかと思ったが、しかしよく見ると、その湿ったシミの中心にはオリモノらしき黄色いシミが薄らと浮かんでおり、すぐさま俺はその消えかかったオリモノに妙な違和感を感じた。
本来なら、例えみゆきのアソコがどれだけ濡れようと、その黄色いシミは、そこにくっきりと残っているはずだった。オリモノのシミと言うのは非常に頑固な汚れであり、上塗りされた愛液ごときで分解されるような柔な物ではなかった。しかしその黄色いシミは不自然に薄かった。これは明らかに、意図的に薄くされたものだと俺は直感した。

「舐めたのか」

親父の脳天にそう問い質すと、親父はハァハァと悶えながら「舐めましたとも」と堂々と答え、素直にその罪を認めた。

「じゃあこの湿ってるのはあんたの唾液か」

「舐めた後にチンポも擦り付けましたから、私のジュンジュン汁も多少は混じってると思われます」

「あんた、さっきからオベンチョとかジュンジュン汁とか言ってるけど、それは方言か?」

「いえ、今私が考えた創作語です」

そうクスっと小さく笑うなり、親父はいきなりロケット乳の先っぽをペロペロと舐め始めたのだった。

親父は、フン詰まりに苦しむ犬のような目をして舐めていた。舌を上下に動かしながら、「あー、あー」とオットセイのように呻いていた。そして親父は腰の動きを更に速めながら囁いた。

「イクよ……中で出しちゃうよ……ハァハァ……キミのオベンチョの中に……あぁぁ……いっぱいいっぱい……出しちゃうよ……」

親父はムニュムニュの乳肉に必死に顔を埋めると、そこにタイヤの空気が抜けるような「くぅぅぅぅぅ」という息を吐きながら果てた。
俺は親父の背後にソッとしゃがむと、親父の腹の隙間から結合部分を覗き込んだ。出たり入ったりしている肉棒には白濁の汁が絡み付き、まるで泥沼の中を歩いているようなぶちゅぶちゅとした音が規則的に鳴っていた。
親父は果てた。その非人道的な欲望を、この非人間的な生き物の生殖器の中に大量に放出した。
親父は完全にその動きを止めると、「ふぅぅぅぅぅぅぅ」と深く息を吐きながら乳肉から顔を上げた。そしてホッと肩の力を抜きながら、「気持ちよかったぁ……」としみじみ呟くと、未だビンビンに勃起しているペニスをゆっくり引き抜いた。
穴はぽっかりと口を開いていた。一瞬の間を置いて、その真っ赤な穴の奥から真っ白な精液の塊が溢れ出し、ドロリと押し出された精液がそのまま肛門へと垂れては、白いタイルの床にボトリと落ちた。
それを吐き出した穴は、まるで個別の生き物のようにゆっくりと口を閉じた。しかしその穴が完全に塞がった頃には既に親父の姿はそこにはなく、闇の公園を走り去って行く足音だけが小さく響いていたのだった。

水を打ったように静まり返った深夜の便所で、唯一、みゆきの肩だけがハァハァと上下に動いていた。見ず知らずの男に中出しされた直後の性器は、まるで腸を抉った魚の腹のように痛々しかった。
小便器に押し込められたままのみゆきの前に立つ俺は、その顔に付けられたアイマスクとその性器を交互に見た。肛門に滴る残液を見ながら、もしかしたらみゆきは、顔も知らないあの親父の子を宿すかも知れないのだと思うと、このプレイの非人道性を改めて思い知らされた。
その主催者である男が覗く窓をソッと見上げた。ギラギラと輝く男の目が俺の目に突き刺さって来た。男は顔を伏せる事なく堂々と俺を見ていた。それはまるで「早くヤれ」と言わんばかりの獰猛な目付きだった。
再びみゆきに視線を戻した。みゆきは喉が渇いているのか、仕切りに唇を舐めていた。
そんなみゆきが無性に可愛く感じた。恐らくアイマスクで目を隠しているせいだろうが、日頃ブスだと思っていたその顔は、今日はやたらと可愛く見えた。
ヤってしまおうかどうしようか悩みながらも、取りあえずズボンのベルトを外した。ジーンズのボタンを外し、トランクスをベロンっと捲ると、今までジーンズの中で押し潰されていたペニスが飛び出し、ビヨヨヨヨンっと跳ね返りながら我慢汁の糸を引いた。
ヤリたい。そう素直に思いながらペニスをシゴき、その落書きが滲んだ乳肉にソッと手を伸ばした。そこに指が触れた瞬間、みゆきの肩がビクンっと反応した。
脅えるみゆきの乳肉を指先でムニムニと押しながら、ふと、この状態で目隠しされるというのは、富士急のホラーハウスに一人で入る事より恐ろしいだろうなと思った。
巨大瓜のようにボテっと垂れている乳肉を両手の平の上に乗せた。まるでその重さを量るかのように、右手と左手を交互に持ち上げた。持ち上げられる度に、ムニュ、ムニュ、と歪む乳肉は、日頃想像していたよりも柔らかく、そして異様に温かかった。
さっきの親父が、必死にここに顔を埋めていた理由がよくわかった。この柔らかい乳肉に顔を包み込まれたら、どれだけ心地良いだろうかと思わず想像してしまった。しかし、そこにはあの親父の唾液が大量に塗り込まれていた。額の汗も付着しているはずであり、さすがにそこに顔は埋められないと思った。
乳もそうだったが性器にも躊躇いがあった。このままみゆきをヤってしまいたいのはやまやまだったが、しかし、その親父の精液で汚れたままの穴に生身のペニスを入れる決心がなかなかつかなかった。
そう悩みながらもみゆきの乳を揉みしだいていると、不意に誰かがトイレに入って来た。一瞬慌てたが、しかし、男は俺を見るなり「終わったのか? それとも今からか?」と聞いて来たため、その緊張はすぐさまとけた。
男は五十代後半だろうか、ワンカップを片手に、ウサギのような真っ赤な目をしていた。ヨレヨレのユニクロのTシャツに茶色いペンキが飛び散った作業ズボン。水牛のようなだらしない顔は日焼けと酒焼けで赤銅色に滲み、ボロボロに欠けた前歯はお正月の黒豆のように真っ黒だった。
茶色い健康サンダルをペシャペシャと鳴らしながら男が近付いて来た。俺の真横に立ち止まり、ワンカップをクピクピと飲みながらみゆきを見下ろした男からは、明け方の歌舞伎町に転がるポリバケツの匂いが漂っていた。その薄汚い格好と首まで広がる無精髭からして、恐らくホームレスか日雇い人夫といった最下級の人種だった。

「まだガキだな……肌がピチピチしとるわな……」

そう呟きながら男は、まるで築地で魚を見定める板前のようにみゆきの太ももをヒタヒタと叩いた。そんな男の左手の小指は欠損し、その手首の甲には、丸い太鼓のようなマークと、『一和会』という文字の刺青が彫ってあった。
肉便器というのは、こんな奴にまでヤられてしまうのかと一瞬背筋がゾッとした。が、しかし、こんな奴だからこそきっとあの男は興奮するのだろうと、俺は洗面所の上の窓をソッと見上げた。

「あんた、まだヤってへんのか?」

男は、太ももを摩っていた手をみゆきの股間へと滑らせながら言った。真っ黒に汚れた指で穴を広げると、さっきの男の精液がトロリと垂れた。
「お先にどうぞ」と俺が言うと、男は「ほうか、ほなら先に貰うとくわ」と素早くその場にしゃがみながら、その見ず知らずの男の精液が垂れる穴にしゃぶりついた。
ぶちゅ……ぶちゅちゅちゅちゅ……
そんな下品な音をみゆきの股間に響かせながら、男は作業ズボンを脱ぎ始めた。剥き出した男の尻の谷間には何故かティッシュが挟んであった。恐らく重度の痔なのであろう、そのティッシュの中心にはドス黒い血がじっとりと染み込んでいた。
しゃがんだ股間にダラリとぶら下がっているペニスは、床のタイルに亀頭が付きそうなくらい巨大だった。表面の皮がボロボロに捲れ、赤くジクジクと爛れている感じは赤ナマコのようで薄気味悪かった。
男はみゆきの膣を舐めながらペニスをシゴき始めた。ダラリと垂れていたナマコがみるみる力を帯び、天狗のお面の鼻のように立派に反り立つと、いきなり男はムクリと顔を上げ、みゆきの目を塞いでいたアイマスクを剥ぎ取った。
突然の光りに、みゆきは慌てて目を閉じた。俺は男の横にポツンッと立っていた。ここでみゆきが目を開ければ彼女は俺の存在を知る。

「ほれ、姉ちゃん、よう見とけよ……今からこのド太い奴をぶち込んだるさかいな……」

男はそう言いながら、ベロリと捲れたワレメの表面に紫の亀頭をヌルヌル滑らせた。さっきの男のジュンジュン汁なのか、それともみゆきのジュンジュン汁なのか、その液体は亀頭が上下に滑る度に、まるでサンオイルを肌に塗り込むようなピチピチとした音を鳴らした。

「ほれほれ、入るでぇ、ちゃんと見ときぃ」

そう臭い息を吐きながら男がペニスの角度を変えると、突き刺さった紫の亀頭が真っ赤な肉の中にヌプヌプと沈んでいった。「ほれほれ、このまま一気に根元まで行くでぇ……」と言いながら男はゆっくりと腰を落した。
巨大な肉棒が根元まで突き刺さった。男はそのまま腰を『の』の字に回し始め、その巨大な肉棒でみゆきの穴の中をぐちゃぐちゃに掻き回した。
それまで死体のように沈黙していたみゆきだったが、しかし相手がこの巨大ペニスでは、さすがに無視は出来なかったのだろう、閉じていた唇が少しだけ開き、そこから一度だけ「はぁ」と小さな息が漏れた。
それと同時にみゆきの瞼が恍惚と開いた。長いマツゲの奥で三白眼の小さな黒目がゆっくりと動き、それが男の横に立ち竦む俺を捉えた瞬間、その小さな黒目は蛇のように瞳孔を縦長に開いた。
巨大な肉棒をズボズボと突かれながら、みゆきは俺をジッと見ていた。嫌がる事もなく、感じる事もなく、ただただぼんやりと俺を見つめていた。
そんなみゆきは死体のようだった。見ず知らずの汚れ者に激しく犯されながらも、みゆきは表情一つ変えぬまま俺をジッと見ていたのだった。

テラテラと輝く唇の中を、自分の肉棒がヌポヌポと上下しているのを黙って見ていた。相変わらずみゆきはブスだった。団子っ鼻に一重瞼の三白眼。まるで豚のような顔だと思いながらも、それでも俺はこのブスな顔に激しい欲情を感じていた。
異様に蒸し暑かった。アパートにクーラーはなく、昭和三十年代のHITACHIの扇風機が、部屋に籠った熱気をぐるぐると掻き回しているだけだった。

みゆきの額からはポタポタと垂れる大粒の汗が、俺のヘソの窪みに溜まっていた。上下するみゆきの動きを止めさせ、「そのままあっち向け」と言うと、みゆきはペニスを咥えたまま恐る恐る身体を移動させた。そんなみゆきはコンビニの制服を着たままだった。
白い生足が俺の胸を跨いだ。黒いスカートの中が丸見えとなり、白いパンティーの中心に広がる卑猥なシミが目に飛び込んで来た。
スカートの中はムンムンに蒸れていた。パンティーは汗でぐっしょりと湿り、白い下腹部にペタリと張り付いていた。それを脱がそうとすると、湿ったパンティーのサイドは尻の下でクルクルと棒状に丸まり、まるで紐パンのようになってしまったが、しかしクロッチだけは丸まらずに生きていた。
四つん這いになった陰部の下で、クロッチが大きく押し広げられていた。今まで、レジを打ったり、雑誌を整頓したり、ドリンクを冷蔵庫に補充したりしながら、ひた隠しにされていた秘密の裏側が無惨に曝け出されていた。
そこには透明の汁がテラテラと輝いていた。それは唾を垂らしたかのように大量の汁だった。その輝く汁の奥に黄色いオリモノが潜んでいた。時間差によって染み付いたその二つの分泌物は、まるで生卵の白身と黄身のようだった。
ちゅぷちゅぷとペニスをしゃぶられながらそこに顔を近づけた。クロッチの匂いをクンクンと嗅ぎながら、目の前に迫る大きな尻肉の谷間を両手で押し開いた。ネチャっといやらしい音を立てながらワレメが口を開くと、やはりそこにも労働による汚れが潜んでいた。ベロリと捲れ上がった赤黒い陰唇には、ヨーグルトのような白濁の沈殿物が、まるでヒルのようにくっ付いていた。
陰部全体には小便と汗が蒸れた匂いが漂っていた。ぽっかりと口を開いた粘膜からは、魚の腐ったような匂いが漂って来た。その腐臭は、明らかに精液だった。きっとみゆきは、昨晩もあの男に公衆便所に連れ込まれ、不特定多数の肉便器にされていたに違いない。
急にムラムラと激しい興奮が涌き上がり、目の前のその大きな尻をおもいきり突き飛ばした。みゆきはペニスを咥えたまま「んっ」と唸ると、四つん這いの体勢で畳にドテッと倒れた。
制服のスカートの中に、途中までズリ下げられたパンティーを見た。その奥には、夜な夜な獣共に中出しされている汚れたオマンコが涎を垂らしていた。
俺は猛然とみゆきの上に覆い被さると、半開きのスカートの中に下半身を埋めた。ビンビンに勃起したペニスをツンっと突き立てると、ペニスに付着していたみゆきの唾液と、昨夜の獣の残液が潤滑油となり、ペニスいとも簡単に飲み込まれた。それは、異様に生ヌルい穴だった。

寝転がるみゆきの首の下に素早く左腕を潜り込ませ、みゆきの頭部を胸に強く抱きしめた。ハンバーグの合挽きを捏ねるように、右手でその巨大な乳肉をぐにゅぐにゅと揉みしだき、先月から売り出したカキ氷の甘いシロップの香りが漂ううなじに顔を埋めた。狂ったように腰を振りながら、昨夜、この肉便器は何人の精液を注入されたのだろうかと想像した。
ドロドロの汁が肛門にまで垂れていた。その穴の中を、俺のペニスがヌルヌルと行ったり来たりしていたが、しかし、相変わらずみゆきは死体のようだった。「うん」とも「すん」とも言わず、ただただ黙って天井の一点を見つめていた。
いつもそうだった。どれだけ激しく攻め立てても、みゆきは表情ひとつ変えなかった。しかし、それでいてちゃっかり潮を吹いた。喘ぎ声を出したり、髪を振り乱したり、痙攣したりといった前兆は何もないまま、普通の顔して、「シュッ!」と潮を吹き出した。それはまるで昆虫の威嚇行為のようだった。

兎に角みゆきという女は、感情をあらわにしない女だった。常に無表情で、人前では絶対に喜怒哀楽を見せない能面のような女だった。主義主張もなければ、何事に対しても無関心。イエスかノーか、右か左かも自分の意思では決められないその優柔不断さは、精神に異常をきたしているとしか思えなかった。
だからこの女は肉便器だった。そのノーと言えない気弱さと、人並みはずれた肉体。感情を押し殺せる忍耐力と、その胸の奥に秘めた変態性欲。それらを重ね持つ彼女の前にあの男が現れた事で、今まで引き蘢りだった彼女は、瞬く間に精液専用の肉便器と化してしまったのだった。

そんなみゆきの両足を、素早く両腕に抱え込んだ。「この肉便器が……」と呟きながらその巨乳に倒れ込み、がっぷりと四つに組んでうなじに顔を埋めた。
大きく開いたみゆきの股間に激しく腰を打ち付けた。膝で畳がカサカサと擦れ、互いの肉がパンパンと鳴り、そして古い木造アパートがギシギシと揺れた。
そうやって激しく腰を振りながら陰毛の中に指を潜り込ませた。その中でコリッと硬くなっている大きな陰核を捕らえ、指腹で押し潰すようにして転がすと、みゆきはすぐさま潮を吹いた。
次々に溢れ出る潮で結合部分がぐじゅぐじゅになった。そこに激しくペニスをピストンさせながら、俺は、絶頂に達しているだろうと思われるみゆきの顔をソッと覗いた。
みゆきは目を細めながら大きなあくびをしていた。
ふと俺の脳裏に、あくびをする亀のまぬけな顔が頭に浮かんだ。
やっぱりこいつは動物だ、と思いながら、俺はその柔らかい肉便器に射精したのだった。

(亀のあくび・完)

2021年9月2日公開

© 2021 愚人

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