白雪

春子フロンターレ

小説

806文字

齧る林檎は白雪のような食感で

老婆に化けた、というよりも激しい憎悪によって老婆よりも老婆らしく成り果てた后、真っ赤な林檎籠携えて、姫の住む深い森のぽっかり開いた野原の先の湖の辺のちいさな小屋に、馬車に乗って一目散。途中、葉の生い茂った木の枝、背高草等にぶつかってはそれを乱暴に揺らし、そのスサスサガサガサが音に敏感な動物達の耳に届き、たちまち森中に回される回覧板、情報が広がる、后が懲りずにやってきたと。必然、姫のちいさいちいさい耳にも届き、自分を殺害するために再度やってきたのだと、この時点ですでに気付いているわけである。そんなこととは露も知らずに3日3晩かけてようやく湖までやって参りましたる后、馬車から降りて、すっかり老婆に化けているかどうかを、湖面にて確認、ぬんと現れたみすぼらしい婆に非常に驚いて腰を抜かしそうになったがそれが自分だと気付いて、いやもちろんビビッてなんかありませんよ、とか独り言ほざき、何はともあれその化け具合に満足気、若干小躍りに「バラが咲いた」なんかを口ずさみながら小屋の戸を、トントントトトトトン8ビート刻む、ように叩く。小屋の周りの木の陰、凶暴な動物達の殺した息遣い。それぞれ手にした鈍器は黒く冷たい光を放つ。姫曰く、いきなり襲うことなかれ、じわじわいたぶる、まず我が応対する、と。はっ、私が指示すればこの婆なぶり殺しの運命、その命、我が手の中に。ふいに、生じた憐れみ、感じたことのない彼女に対する憐れみ。やれ社交パーティだ、やれ流しそうめん大会だ、やれ大型の台風がやってくるだのとにかく何かイベントごとに威張り倒していたあの后がみすぼらしくてバタ臭くてどこか懐かしい匂いのする老婆に成り果てて、その運命が今や我が手の中に。これなんという気持ちのよさ。その憐れみの優越感に永遠に浸っていたいから、差し出された赤い赤い、というかもうすでに変色しとるんで赤黒い林檎を、ああこのちいさなちいさなお口で、シャクり。

2011年1月13日公開

© 2011 春子フロンターレ

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