月のはじめに、まちがい電話がかかってくる。
最初は、夜だった。わたしは台所にいて、手をふきながら出た。
「ヨシオさん、いてはる?」
年のいった女の人の声だった。
「違います」
「あら、すんまへん」
それで切れた。
次の月も、同じ時分にかかってきた。同じ声だった。
「ヨシオさん、いてはる?」
「違います」
「あら、すんまへん」
三度目のとき、わたしは受話器を取る前に、たぶんあの人だろうと思った。思ったとおりだった。
「ヨシオさん、いてはる?」
「違います」
「あら、すんまへん」
番号を押しまちがえているのだろう。一つか二つ、数字が違うだけなのだと思う。同じまちがいを月に一度くりかえす人がいるということが、わたしには少し不思議だった。
けれど、こちらから教えることはできない。教えるには、正しい番号を知っていなければならない。わたしが知っているのは、その番号ではないということだけだった。
四度目からは、月のはじめになると、少し待つようになった。
待っているという言い方は、正しくないかもしれない。待つほどのものではない。ただ、月がかわって何日かたって、まだかかってこないと、今月はどうしたのだろうと思う。
そういう月は、これまで一度もなかった。
冬になった。
その月の電話は、いつもより少しおそかった。十日を過ぎていた。
「ヨシオさん、いてはる?」
声が、少し違って聞こえた。低いのか、遠いのか、うまく言えない。風邪をひいているのかもしれないと思った。
「違います」
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