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グレート・リセット――メイク・アメリカ・グレート・アゲイン

第40回文学フリマ東京原稿募集応募作品

眞山大知

破滅派22号寄稿作品。トランプが妊娠・出産します。

タグ: #SF #ファンタジー #ホラー #ユーモア #第40回文学フリマ東京原稿募集

小説

8,001文字

高校卒業と同時にバイトしだした国道のバイパス沿いのネカフェで、ソフトクリームマシンを清掃していた金曜夜10時、俺は度肝を抜かれた。隣のソフドリマシンの前にイーロン・マスクが立っていたのである。

お客様に向かって失礼だが、思わず「……は?」と声を漏らしてしまった。イーロンはマシンの操作方法がわからなかったのだろう、黒いMAGAキャップをかぶった頭を何回も傾け、「DOGE……」とか「Hard Work……」とぶつぶつ独り言をつぶやき、こめかみに青筋を立てて、アイマスの漫画を持つ左手をぷるぷる小刻みに震わせていた。

こんな何もないロードサイドのネカフェに、なんで世界一の大富豪がいるんだ?

イーロンの向こう側、個室ブースからは男女の喘ぎ声とともに、ぱちゅぱちゅというアレを叩きつけるような音と、くちゅくちゅというアレをかき回すような音が聞こえ、ブースの間の狭い通路を、目が窪みきった中年サラリーマンたちが、手にコーラの入った紙コップとコミックを数冊持ちながら、ゾンビのようにのろのろと徘徊していた。

客が帰ったら体液が飛び散った個室を清掃しなければならない。部屋に落ちているコンドームだけで腰蓑が作れそうだ。掃除したくねえなと思っていると、イーロンは俺に顔を向けて、「Hey, You!!」と怒鳴ってきた。イーロンのごつごつして太くてやや短めの指は、ソフドリマシンの真四角の筐体をさしていた。

顔を真っ赤にさせたイーロンへソフドリマシンの操作方法を教えようと、スマホを取りだしてGoogleの翻訳機能を開いたが、画面を見つめたイーロンが急に悲しげな表情をした。機転を利かせてGrokに翻訳させたらイーロンは「Join DOGE Kids……」と言って、右手で黒キャップをくいくいさせてから、カップをマシンの下に置き、何の迷いもなくコカ・コーラのボタンを押した。マシンからはコカ・コーラがぷしゃあと勢いよく注がれた。

あ、イーロンはコカ・コーラ派だったんだと思いながら、さっさとソフトクリームマシンの掃除を終わらせないとバイトリーダーに注意されそうなので急いで拭きあげた(あとで知ったのだが、イーロンはコカ・コーラ社を買収しようとしたことがあるらしい)。

ついでにイーロンからおすすめの漫画がないか聞かれた。すぐにコミックの棚へ行き、適当に見つけた『うしろの正面カムイさん』の1巻から3巻までを持ってくると、イーロンは「Yup」とつぶやき、また黒キャップをくいくいさせた。

 

 

バックヤードへ入る。長机にいる2歳年上のバイトリーダーは、就活に向けてだろう、SPIの参考書を開いてうんうん唸っていたが、俺に気づいて「お、掃除終わった? じゃあ、ポテト揚げておいて。バター醤油味ね」と頼んできた。

「ちなみに注文はどの部屋からです?」

「220番」

「了解です」

この店のフライドポテトは美味しく、ひっきりなしに注文が来る。

手を洗い、冷凍庫を開ける。冷凍庫は冷凍ポテトの袋がぎっしり詰まっていた。ハインツのクリスピープレーン味の袋を取りだして、フライヤーの前に立とうとしたが、ふと気になってデスクの横のモニターに視線を向けた。

監視カメラの映像が表示されるモニターには220番の部屋の内部が映っていた。鍵付きのフラットシートの完全個室で、全国チェーンのこのネカフェでは普通、個室にはカメラはついてないが、なぜかこの部屋だけにはカメラが設置されていた。

――黒いフラットシートにはイーロン・マスクがあぐらをかいて座っていた。黒いMAGAキャップをまだかぶっているイーロンは漫画を読んでいたが、突然何かを思い立ったように漫画をパソコンの脇に置くとニヤリと笑う。

イーロンはおもむろにズボンに手をかけスラックスとパンツを脱ぐと、イーロンのイーロンがむき出しになった。イーロンはそれを握るとハードなテンポでしごきはじめた。監視カメラにはマイクもついているのだろう、モニターのスピーカーから、やや割れた音でイーロンの喘ぎ声が聞こえる。

「Doge…… Doge…… To the Mars……」

イーロンの顔は赤く染まっていく。俺は画面から目を逸らせなかった。

「どうした?」

バイトリーダーが聞いてくる。

「イ、イーロン・マスクが……」

画面を指さすと、バイトリーダーはひどく冷たい視線を画面に浴びせた。

「あれ、知らなかったんだ。イーロンはウチにお忍びで来て、ああやってシコっていくんだよ。言っておくけど、絶対にXで拡散すんなよ。炎上されたら俺の就活に響くし。まあ、とりあえずポテトを揚げるのはシコり終えたあとでいいかな」

バイトリーダーはあくびをして、再び参考書を読みだした。

もう一度画面を見るとその瞬間、個室の扉からノックする音が聞こえた。イーロンは動きを止め、スラックスだけ履くと扉を開けた。――あろうことか、扉の外にいたのは、ドナルド・トランプだった。トランプは赤いMAGAキャップを自慢げにくいくいとさせていた。

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© 2025 眞山大知 ( 2025年4月3日公開

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