超短編小説「猫角家の人々」その32
首尾よく、地元の家裁で、猫角蜜子が、阿蘇太郎の母親の成年後見人として認可される。ババアは、ネコネコハウスの木賃宿にぶち込んでしまう。一応、介護付き老人ホームということで、認可はとってある。かなり、いい加減だが。これで、ババアの自宅は、好きなだけ家探しできる。
問題は、権利ばかり主張する息子、阿蘇太郎だ。こいつの口を封じておかないと作戦は円滑に遂行できない。阿蘇太郎に酒を飲ませる。3軒連れまわして、したたかに酔わせる。3軒目のクラブのVIPルームで、ちょっと風邪気味だという阿蘇太郎に、風邪の特効薬だと称して、シャブを打つ。「大丈夫よ。お医者さんの処方で貰った薬だから。」医師でも看護師でもない人物が注射を打つことの違法性を知らない太郎は、酔いもあって、身を委ねる。シャブが静脈にシャブシャブと入っていく。確かに、風邪の症状は吹き飛んで、急に元気がもりもり湧いてきた。凄い薬だ。だが、酩酊しているので記憶が定かではない。
翌日、あの薬の爽快感が忘れられなくなった太郎は、蜜子の元を訪れる。「あの風邪薬、まだあるかな?」「え、何の話?私、知らないわよ。昨日のお店だったら、池袋のキャバクラよ。キメセクっていう店。あそこに行って聞いてみたら?」
太郎は、池袋キメセクのVIPルームに通される。母親の財産が一部だが入り始めたので、軍資金には余裕がある。とりあえず、蜜子が老母の普通預金から、現金を引き出して「分け前」を渡してくれたのだ。キメセクのホステス、ヒポポタマスちゃんを指名する。ちょっと小太りの、鼻が横に広がった、大きく開いた口がチャームポイントのかわいい娘だ。今時、滅多にいないような丸い性格の、絶滅危惧種みたいないい娘だ。「かばー」と語尾につけて話すが、どこの方言だろうか?水浴びが大好きだそうだ。
ヒポポタマスちゃんと楽しいひと時を過ごす。膝に手を置いて、ひらひらのスカートの中に、徐々に侵入させる。ヒポポタマスちゃんは、限界までは侵入を容認し、極限までくると「別料金よ」と言って、太郎の手を払いのける。
太郎は、かなり酩酊してくる。「昨日、風邪薬の注射してくれたっけ?」「あれ….まだある?」ヒポポタマスちゃんは、「あるけど、少し高いよ。」という。エルメスのカエル色の財布から10万円を取り出して、ヒポポタマスちゃんに渡す。金を持っているところをヒポちゃんに見せびらかしたい。できれば店外デートを申し入れたいのだ。10万円を無言で渡したのは、「おカネはいくらでも出すよ」という意思表示である。老母の預金から手に入れた現金は、まだ、財布にはち切れんばかりに入っている。(続く)
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