おわかりいただけただろうか。
REPLAY
そう。毛だ。毛。
おれはいつも深夜三時すぎに帰宅する。この日もおれはやたら寒い倉庫内でやたら重い荷物をやたら大きいコンテナにぶちこむワークを終えへとへとになって帰ってきた。
うちに帰ってきておれは浴室のドアをあける。すると件の毛にでむかえられる。戦慄。深夜三時すぎに毛にでむかえられたくない。「帰ってきてこの毛をみると仕事のつかれがふっとぶぜ!」と思えるほどおれは人間ができていない。
じつをいうとこれ、わが家ではおなじみの光景。しかしおれは油断していた。こいつは忘れたころにやってくる。
壁から毛がはえている——わけではない。これは彼女の髪の毛。白髪だ。彼女はまだ二十代だが白髪に悩まされている。浴室の洗面台の鏡のまえで彼女は白髪と格闘しぬいたそれを器用に壁に貼りつける。なぜ貼りつけるのだろう? いやだといいながら彼女は白髪に愛着でもあるのか。ひょっとすると貼りつけられた白髪一本一本に名前がついているのかもしれない。あるいは付箋のつもりなのか。浴室の壁のなかでこころひかれた箇所がここ? それならいよいよおそろしい。
最終的に何本貼りつけるのか気になるおれはこの毛をいつもそのままにしておく。
"暴徒の二人男女、もちろん猫も。その7"へのコメント 0件