犯人は神津島太郎。共犯は加々見剛と老田真三、巴円香。巴は老田に殺され、老田は神津島に殺され、神津島は加々見に殺された。
神津島は一条に自分を殺す動機があることを見抜いており、「大切な役目」すなわち犯人役を担わせるためにこの推理ゲームに招いた。コレクションに加えたと吹聴していたフグの肝臓は実は無害なサメ軟骨サプリであり、一条は偽毒を盗むよう誘導された。神津島の目論見どおり、老田の目が届かない絶好の機会を狙って一条は神津島を毒殺しようとする。神津島は一条が部屋を立ち去ったあとにダイイングメッセージを用意して死を装った。
だが、一条に死亡確認をされると神津島が生きていることがわかってしまう。医師である彼は「命の灯が消えた体に特徴的な手触り」を知っているためだ。そこで、加々見がゲームの協力者1として神津島の死を断言し、一条を神津島の死体に触れさせないよう計らう。『そして誰もいなくなった』でウォーグレイヴ判事が医師を抱き込んでみずからの死を偽装したのと同様のトリックである。加々見と協力者2の老田に警察に連絡を取るふりをさせたあと、神津島は夜のうちに電話線とインターネット回線を切り、車をパンクさせて陸の孤島を作り上げた。
ダイニングのガラス窓には「少し細工がされている」。「食事の際に景色がより楽しめるよう」レンズになっているのである。だが、東向きの部屋であるため、朝になると「朝日が思い切り差し込んできて危険」である。レンズの威力は、ガラス製のシュガーポットに集められた光がテーブルクロスを焦がしてしまうほどである。二日目の午前六時、神津島は老田をスタンガンで昏倒させ、かつての実験の一環で採取して保存してあった老田の血液をまいて蝶ヶ岳神隠しになぞらえたメッセージを残す。そして、密室を作り出すために回転式閂の鋲に雪を食い込ませ、溶けてきたら鍵がかかるように細工した。老田の体の上に散らしたポプラの綿毛にレンズの光が集まって発火し、灯油で一気に燃え上がる。火柱で雪をすばやく溶かし、スプリンクラーの水によって雪解け水を隠滅させた。
ここでも加々見は意識のない老田の体から一条を遠ざけ、協力者3の巴円香と一緒に老田を拾の部屋に運ぶ。巴の提案でマスターキーは地下倉庫の金庫に保管された。ところが、ここで重大な誤算が生じる。老田こそが十三年前の蝶ヶ岳神隠しの犯人「冬樹大介」であったことだ。神津島は当初、老田(冬樹)をコレクションの一つとして地下の檻に監禁していたが、老田は巧妙に神津島に取り入って彼の執事となり、悪魔の人体実験の助手を務めるまでになる。一年に一度わきおこる老田の殺人欲求は、これまでその人体実験によって満たされてきた。だが、一年前に神津島が実験を放棄して以来、彼の欲求は溜まりに溜まって限界に達していた。スタンガンの不意打ちで第二の犠牲者に仕立てあげられたことへの不満と殺人への渇望が抑えられなくなった老田は地下倉庫に隠してある金庫の合鍵(マスターキーは一本しかないが、金庫の鍵が一組だけとは言っていない)を使ってマスターキーを取り出して陸の部屋にいた巴を惨殺し、ウエディングドレスを着せて嗜虐の悦楽に浸る。さらに、名探偵を地下室に誘導するメッセージを残すことで、神津島の後ろ暗い人体実験を暴露する。
老田の反逆を知った神津島は地下倉庫の合鍵で金庫からマスターキーを取り出して、拾の部屋にいた老田を刺殺する。加々見が金庫のダイヤルを回していたが、神津島はダイヤル錠の組み合わせを知っている唯一の人間である。老田殺害の帰りに肆の部屋の前で碧と犯人役の一条の様子をドア越しに伺っていたが、碧に気づかれて一条に追いかけられる。神津島は命からがら自分の部屋に戻るが、一条が自分を殺害しようとしていたことを思い出して腹を立て、階段から突き落とす。
地下の実験設備を見て以来、加々見は神津島に対する怒りをたぎらせていた。加々見が神津島に近づき、彼の推理ゲームの片棒を担ぐことになったのも、登山者の相次ぐ失踪に対する神津島の関与を疑って探りを入れていたためだ。一見そっけないふりを装っていたが、実は摩周真珠とは彼女が別の男と婚約する以前からの知り合いであり、ひそかに慕情を抱いていた。加々見は弐の部屋から壱の部屋に上がって神津島を訪ね、彼の心臓を一突き。乱れた殺害現場を元の形状に直し、心臓に刺さったナイフを正当化するための暗号メッセージを残しているところへ碧と一条が死体の検分にやって来る。慌てた加々見は、壱の部屋の鍵を神津島が落としたポプラの綿毛の上に置いてしまう。円形の部屋の死角に身を隠した加々見は二人が正面のデスクに向かってくるのと入れ替わりに部屋を脱出した。
作中に銃が登場したら必ず発砲されなければならないというチェーホフの言葉に従って、最終日には展望室に飾られた散弾銃が火を噴き、血の雨が降る。
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