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酩酊脚本でよく溶けてみて……。

巣居けけ

 人  物
 酩酊脚本家(24)脚本家
 イノバサ(0.3)原稿用紙取扱事務所所長
 軍人ソウマ(23)軍人
 ミライ・レンポウダ(56)町民

戯曲・脚本

1,962文字

〇酩酊脚本家の家・書斎(夜)
四方の壁に本棚が積み上げられており、中心に木目調の机がある一室。
酩酊脚本家(24)が机について原稿用紙を書いている。
周囲にはいくつもの試験管と原稿用紙が浮かべられており、酩酊脚本家の足
さえ床に触れていない。
酩酊脚本家「これがどんな理屈で動いているのか知っているか」
酩酊脚本家が右を向く。
室内右側の本棚が、溶けるように消失し、奥から窓が生成されて朝日が視える。
酩酊脚本家「(目元を細めながら)おれの魂だ……」
立ち上がる酩酊脚本家。床に両足がぴったりと付着する。
歩き出す酩酊脚本家。窓に向かって手を伸ばす。指先は透明な膜を突き破るように窓硝子を破き、酩酊脚本家が空に向かって飛んでゆく。
無人になった書斎。窓から流れるそよ風によって、原稿用紙が吹き荒れている。

 

〇原稿用紙取扱事務所室長室(朝)
白色の空間の中にイノバサ(0.3)が立っている。
イノバサ「これが落下記録だって?」
イノバサが手元の書類を前方に投げる。
落下した書類。浮き上がりながら人の形を形成する。
イノバサ「私は原稿用紙取扱事務所所長だぞ?」
直立のまま腕を組むイノバサ。
イノバサ「だというのに、この仕打ちなのか……」
軍人ソウマ(23)がイノバサの顔を視る。
軍人ソウマ「可憐であります」
イノバサ「君のカノジョか?」
軍人ソウマ「(素早く敬礼をして)そうであります!」
イノバサ「であるのなら! さっさとあのボケの老人をここに連れてこい!」
軍人ソウマ「了解であります。ですでが所長、しょ、しょ、初期化の中の最後の立派なイチモツみたいな空虚な所長!」
イノバサ「何度も叫ぶな、ここは鼓膜と同じ場所だ!」
軍人ソウマ「(敬礼していた右手を外しながら)(小声で)失礼いたしました……」
イノバサ「(右耳に右手を添えながら)ん、すまない、なんと喋ったのかね?」
ナレーションの声「軍人ソウマのあまりにも規格外なミミズのような小声によって、イノバサは自らの知覚と聴覚、さらに今月に獲得したばかりの賞金についてもひと通り紛失することとなったのである」
軍人ソウマ「ですから……」
室内の形が正四角形から六角形に変化。
ところどころに脂のようなてかてかとした色が浮かび上がる。
軍人ソウマは頭上を眺める。隣でイノバサがもったいぶった様子を続ける。

 

〇首都・レンゴクダイドコロ(イノバサの回想)
巨大な工場と民家が入り乱れた街。イノバサ(33)が歴史的な様子で太陽を視る。
イノバサ「あれが立方体……」
イノバサ、右手に備えたギタリストの死体を太陽に向かって投げる。
散り散りに消える死体。陽光が橙色に変化し、周囲の人間たちの顔面に深いシワが多くなる。
イノバサ「まるで歴史家のようだ」
周囲を眺めるイノバサ。右手を顎に当てる。
イノバサ「いやまるで日照りのようだ。いいや、いやいや。あるいは、消灯時間を過ぎた修学旅行の学生……」
街のあらゆる街灯が唐突に回転して竜巻が発生する。
ミライ・レンポウダ(56)が現れ、イノバサの右隣りに立つ。
イノバサ「あんたは……?」
レンポウダ「ウォーキング明けなのだ」
イノバサ「だから、あんたは?」
レンポウダ「ああすまない」
イノバサ「いやだから、あんたは誰なんだ?」
レンポウダ「ソウマの兄。君の父……」
イノバサ「じゃあ……」
レンポウダ「ああ」
レンポウダの顔面が唐突に緑から赤色に変色する。
じっと凝視するイノバサ。
酩酊脚本家の声「遠くから、知っているだろう……」
イノバサ「ああ、そうだった」
しゃがみ込むイノバサ。すぐ近くにレンポウダの顔面がある。
レンポウダの顔を視るイノバサ。その場でうつ伏せになり、真上に位置する
太陽を視る。
イノバサ「僕は……」
周囲が埃のように薄暗くなってゆく。
憂鬱そうに項垂れるイノバサ。
(回想終わり)

 

〇原稿用紙取扱事務所室長室(朝)
白い一室に佇むイノバサ。不安げな表情。
イノバサ「行かなければ、太陽に」
決意の顔をしたイノバサ。慌てて部屋から出る。
誰も居なくなった一室。机に残された書類の中で、新しい軍人ソウマが蠢き
出している。

 

〇太陽の中
白色の光が粒のように密集している球体の内部空間。
イノバサが中心に向かって歩いている。
速度は変わらず。一歩、一歩と踏み出す度に足元が溶けてゆき、周囲の光と
混ざってゆく。
イノバサ「……」
やがて中心部分に燈着するイノバサ。
中心には核となる太陽球体が設置されており、イノバサがそれを右手で取る。
その瞬間、強烈な熱風がイノバサの身体を包み込んで一体化する。
イノバサ「おれが、太陽――」
太陽球体と溶け合って一体化したイノバサ。
太陽球体はそのままその場に浮かんでいる。ひと回り大きくなった様子。
周囲に無数の白色の光の群れがうじゃうじゃと蠢き、中心に太陽球体が静かにたたずんでいる。

© 2026 巣居けけ ( 2026年7月15日公開

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