脳漿の色はイエロー

曾根崎十三

小説

2,142文字

イグBF6。怪文書なので落選しました。イグBFC6落選展でもある。欲張りセットです。写真はPhotoACより。

落下するまでの十秒間の話だ。実際にはこの話を十秒で読めるはずがない。だから走馬灯のようなものだ。この動悸の動機について。軽くなった瞬間に解放される。すべての動機から。重病の十秒。今にも消えそうならそれは重病と言っても良い。だからあたしはこの落下する十秒を巡らせる。匂いがした気がした。金木犀の匂いはトイレの芳香剤に似ていて嫌い。トイレの芳香剤の方が金木犀を真似したんだろうけど、嫌いだ。星空も嫌い。白い絵の具が黒い紙の上でポタポタ垂れた跡みたいで汚いから。そもそも花が嫌い。なんか臭いし。綺麗だからってちやほやされてるのが嫌い。それは女の子と同じだ。若くてかわいいから、とちやほやされる。女の子についたホコリだったら、ホコリですらかわいいと言われる。女の子が自殺すれば美しい神話のように語られる。女の子が苦悩すれば可哀そうで綺麗だと言われる。おっさんだったらダメだ。おっさんについたホコリはただのきたねぇホコリだし、おっさんが自殺しても汚くて悲惨なだけだし、おっさんの苦悩は「何やってんだしゃんとしろ」で終わる。内面は外面に引っ張られる。ないめんがそとづらにひっぱられる。読みにくいので二回書きました。美少年だったらワンチャンあったかもしれない。カヲルくんみたいなね。エヴァンゲリオンの。そしたらうんこでも綺麗だったかもしれない。うんこでもおしっこでもゲロでも汗でも綺麗だった。キラキラと輝く宝石。うんこも高級ウニに見える。食えと言われたら食えるかもしれない。だから生産者の顔は大事だ。スーパーで貼ってある「私が作りました」の写真もおんなのこの方が良い。職業体験のおんなのこと、ベテラン農家が作った芋があったらあたしは迷わず前者を食べるし誰もがそうだろう。誰もがそうとも限らないけど。誰もそうしないかもしれないけど。冷蔵庫の中に死体があるからね、とママに言われたからおやつの時間まで開けないようにしないといけない。冷蔵庫を開けたら誰かの腕でも入ってるんだろうか。でも冷蔵庫の中にはよく死体がある。魚とか牛とか豚とか鶏とか。そういうこと。野菜だってそうだろう。ベジタリアンは野菜を差別するので良くない。人間は女の子とおっさんを差別するので良くない。でも嫌いなわけではない。好き嫌いと善悪は別の軸だ。あたしは女の子かもしれないし、おっさんかもしれないし、そのどちらでもないかもしれない。そのどちらでもあるかもしれない。形がまだ決まっていない。ただ金木犀と星空が嫌い。岡田有希子の自殺の写真は本物なのか今も疑問に思っている。リアルタイムでは知らない。あの鮮やかなイエロー。あれは本物なのか。あんな鮮やかなイエローが人間の体の中にあるのかと思った。岡田有希子が美しいからあのイエローも美しいと思った。おっさんだったら違ったと思う。うに丼の具がこぼれたみたいな感じだな、としか思わない。北海道行った時にうに丼食べたな。多かった。うにが多すぎた。米に対してうにが多い。もう少し米の比率を増やしてほしいと思った。うにが足りないだけなら脳漿でもかけて食えば良いけど、米が足りなかったのでどうにもできなかった。冷蔵庫の中の死体は誰の死体なのか。何の死体なのか。病室の冷蔵庫に入れられる死体。霊安室の冷蔵庫。霊蔵庫。あたしの死体があるってことかも。あれは未来予知。あたしがこの後入るところがそこなんんだろう。星空が回転する。回転しているのはあたしの方だ。遠心力。あたしはバラバラになる。ブーメランみたいな感じで回ってるから。でもブーメランってバラバラにならないし元の場所に戻ってくる。元の場所ってどこだ。産まれた故郷。ママのお腹の中。地面には逆らえない。植物は地面から芽吹く。空から芽吹いたりしないでしょう? それと同じです。あたしは土になって地面が吸い込んだ脳漿から臭い花が咲く。トイレの芳香剤みたいな金木犀があたしの血を吸って成長する。あたしがおっさんでも綺麗だと思う? あたしが女の子でも綺麗じゃない? しみったれたブツブツの星空があたしの死体を見下ろして星が瞬く。サイレンがうるさい。あたしのピーポー言葉ピーポー誰かの配信を見ている時もピーポーパーポー聞こえてきてピーポーどっちが言ってパーポーしてるのか分からなかった。配信先ピーポーなのか聞いているあたしがパーポーなのかそのいずれもピーポーパーポーなのかピーポー。ドップラー効果でサイレンが変調する。ピーポーピーポーピーポー。この救急車はあたしを迎えには来てくれない。ディクレッシェンドのサイレンが静かになっていく。サイレンとサイレン。サイレント。ジェットコースターに乗った時に宙に浮くときなんだか頭が白くなってただ声を出すだけの道具にでもなったような気になる。あたしは叫んでいる。ずっと叫び続けていた。産まれて産声を上げた時から本質的には叫んでいたけれど、本質的じゃない部分で考えたら十秒間。最初と最期は叫ぶのだ。最初と最期は対になるのだ。地面にめりこんでそのまま埋葬されればスピーディ。そしてとてもまとまっている。まとまった人生だ。嫌いな星空が遠ざかる。でもシミは少しも小さくならない。元から小さいから。金木犀の匂いが強くなる。そして静かになる。

2024年10月18日公開

© 2024 曾根崎十三

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