愛する近隣住民

　現在。
　私の生活は二十二時には寝て七時に起き、連続テレヴィ小説を観る営みである。
　坂の上の、住宅密集地に暮らしている為、愛する近隣住民の所謂、音漏れは激しい。無論、皆さん良い方な故、トラヴルになるような騒音はない。
　私の特技と云うか一等の趣味は三度寝であるが隣の平屋に住む老婆は、午前三時に起き窓を全開にてテレフォンショッピングなどを流す。良いのである。ちょうど私も音で叩き起こされて、それをBGMとし二度寝に入れる。そうして午前五時にはジョギングで猛ダッシュする方（私の陋屋は階段なしの一階）に叩き起こされる。当然、良いのである。三度寝の合図だ。最後に七時。目の前のブルジョア家庭が太い扉を近隣に敢えて聞かせている？　レヴェルで響かせて開け閉めのルーティンで叩き起こされて、私の一日が始まる。
　最後のドアに関しては少し閉口はしている。私は、どんなに泥酔しても自身の部屋のドアを開け閉めする時は、近隣の迷惑にならぬよう、それこそ泥棒くらいコソッとするが、まあ、起こして頂き有難う御座います、である。
　昼過ぎに、私は坂の下に有るスーパーへアルコホルを購入しに行くパターンが多いが、ふと、近隣の皆さんと逢ったら基本中の基本「笑顔と大きな声で」で挨拶をする。更に道が狭い為、すれ違う時は、これまた基本中の基本で、譲る。だが然し、私は最早、肉体年齢は八十歳か？　なる常にフラフラの動きで「逆にコイツ大丈夫か？」となるが、そこでチープトークも始まる。老婆の「今日も暑いですね〜」に対し「いや〜、暑さでフラフラしちゃいますよ」最早、酔っているだけなのだが……。そうして「お疲れ様」「ご機嫌よう」となる。素敵な近隣付き合いの台詞である。本日も町内平和。
　先週。私の陋屋に訪ねて来る人は昨今、居ないが（友人扱いして、ちょくちょく来ていたヤツも私から金銭をパクリ、ラナウェイしたりで）ノックが三回じゃなく五連打だがドアを開けた。近所の老婆であった。
　曰く、週末に町内を含め近隣で祭りがあるから、貴方も来ません？　なる事であった。
　大変、有り難いお誘いで有るのだけれどもアルコホルが出たら多分、絡んじゃうし、下手したら町内の青年部に入らない？　にならば流石に面倒で私の特技の一つ、瞬時に仮病、咳をゴホゴホをし「申し訳御座いません。風邪気味でして」を駆使し、丁重にお断りをばした。その内「部屋に食事に来なさいよ」にならば無論、気持ちは有り難いのだが、私のヒッピー、遊民、ルンペン等の素性が言動で必ず出る故、最近は近隣の外出タイミングを見計らい、バッタリ遭わないようにする策を用いている。
　全て、基本中の基本。町内平和の為である。私は犯罪者じゃないし逃げ隠れする必要はないが矢張り、異物が混入すればジョジョの四部、杜王町になる可能性は高い。

　最後に。
　三軒くらい隣に過疎地域な故、これまた老婆が住んでいる。離しで猫がいる。結構、声が大きい為、声が轟く。
　離し猫とは、普段、外で生活させているが餌は与え自身が必要な時には家に入れるなるスタイルだ。老婆、逢魔が時には淋しくなるのだろう。その猫に「早く来い、早く来い」と絶叫して家に連れ「この馬鹿猫が！　ほら、座りな！」等が丸聞こえである。偶に散策中、その猫を見掛けるが、愛らしい顔をしているのに、私の野良猫から好かれる能力でもビクビクしている。
　育て方と云うか、私は断然、離し猫をしている人を、飼っている、と思わない。
　そもそも平均寿命として野良は三年ちょい、離しは十年ちょい、完全に室内は今や十六年オーバーである。
　私は自身、三分後に他界しても全く後悔しないし良いが、愛する存在には長寿を求める。その観点で野良は哀しいが仕方なく、離しは論外である。猫を飼っているフリすんな！　お前の単なる趣味だろう、と。
　二日前。
　台風で嵐の夜。猫が外でニャアニャアしていた。老婆、家に入れなよ！　と憤慨したが、ずっとである。結句、濡れていて臭いだろうからスルーなのだと思う。
　離しの方は「本来、猫は自由にさせる」と云うが、私が三年、飼っていた猫は私が酔ってドアを開け「遊びに行きたい？　大丈夫。俺が三十分以内に……ライ麦畑で捕まえるから」をしても、私の靴をペロペロしただけでドアの外は開けっ放しなのに無関心であった。
　離しの人が愛猫を飼っているなぞ噴飯でしか非ず。
　無論、私は町内平和を愛するエピゴーネンな故に、その離しの老婆に説教したくないので極力、遭わないようにしている。