幸せ

山田ゆず

676文字

不幸せと幸せ。母と娘。感謝の気持ちと継がれるもの。

私の母は何かを信仰していた。

いつも何かのお陰で幸せになれると。

何か嫌なことがあると、凄く喜ぶ。

 

母が言うには、

不幸せがあるぶん幸せが舞い込むから喜ばしいことだ、と。

 

でも私は母に幸せが訪れるのを見たことはない。

少なくとも私の見える範囲では。

 

いつも不幸にあって

「これで幸せになれる!」

と喜んでいるのを見ているだけだ。

 

なのに幸せはやってこない。

そんな母を、私は憐れに思う。

 

そして、とても、辛い。

 

私はずっと母を見ている。

 

ずっと辛い。

 

幸せのトリガーはどこにある?

母の言う何かを信仰すること?

 

もし……いつか母に、

母の手にも私の手にも負えないほどの不幸が起きたとしたら。

 

その時に私が信仰し始めたら、不幸が幸福になるだろうか?

信仰前の不幸はカウントされないのか?

 

もし、信仰をし始めた後カウントされるのだとしたら。

 

いつも母は、不幸せが来た瞬間に幸せがくると喜んでいる。

その喜びが幸せと判断されて、消費されているんだろうか?

ずっとそんなことをグルグルと考えていた。

 

 

母が死んだ。

特にこれといった幸福はやってこなかった。

 

私はもう母の不幸を見なくてすむ。

不幸を代償にした幸せって、たったこれだけなの?

母はもういないから『何か』が何かわからないけど。

 

きっと母は幸せだった。

私もいつか幸せになるんだろう。

だってこんなにも今、不幸だから。

 

ありがとうお母さん。

 

 

2017年4月6日公開

© 2017 山田ゆず

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