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凸凹三人組の冒険

破滅派25号「児童文学」応募作品

諏訪靖彦

破滅派25号「児童文学」応募作品(対象年齢:10歳以下)

タグ: #破滅派25号「児童文学」

小説

14,807文字

 

ホームルームの終わりを告つげるチャイムが鳴なり担任たんにんの有賀ありが先生が教室から出ていくと、望月千代吉もちづきちよきちはランドセルに教科書を仕舞しまい帰り支度じたくを始める。すると、隣となりに座る島田加奈子しまだかなこが千代吉に話しかけてきた。

「ねえチヨ、ペドロリ山で秘密基地ひみつきちを見つけたんだけど、このあと一緒いっしょに行かない?」

いつも加奈子から話しかけてくる。実じつは気があるんじゃないかと疑うたがっているけど、加奈子が単たんにおしゃべり好きで隣の席だから話しかけているだけかもしれない、とも思う。だからそんなことは口にしない。

「秘密基地? そんなのペドロリ山にあったかなあ」

ペドロリ山は学校から歩いて二〇分ほどの距離きょりにある大きな山で、隣の県と繋つながる国道は整備せいびされているけど、それ以外の場所は山菜採さんさいとりやハイキングに使われる山道がいくつかあるだけで、山道の周りは草木が生い茂っている。有賀先生からは決して一人で入ってはいけないと言われている場所だ。何度か家族でハイキングに行ったことがあるけど、秘密基地らしきものを見たことはない。

加奈子はランドセルに教科書を仕舞いながら千代吉に言葉を返した。

「日曜日にお父さんとタケノコ採りに行ったんだ。そしたら山奥やまおくで小屋みたいなのを見つけたの。お父さんに見つからないようにコッソリ小屋の中に入ってみたら机やベッドなんかが置いてあったんだ」

「僕たちだけでも行けそうな場所なの?」

「山道から外れた場所にあるけど危険きけんじゃないよ」

ランドセルに縦笛たてぶえを突き刺さして加奈子は千代吉を見つめる。

「行ってみたいでしょ?」

千代吉は目を輝かがやかせて「もちろん」と答えると、後ろに首を回して「やっちゃんも行くよな?」と訊きいた。

千代吉の後ろの席には諏訪靖子すわやすこが座っている。靖子は二人から「やっちゃん」と呼ばれ「チヨ」「加奈ちゃん」三人合わせてクラスメイトから「凸凹三人組」と呼ばれている。身長は加奈子が一五〇センチあって小学四年生にしてはとびぬけて高く、次に靖子が一三〇センチで平均的、千代吉が一二〇センチ以下と加奈子とは三〇センチ以上違う。背の高さも違えば性格も違う。加奈子は大の負けず嫌いで正義感の塊かたまりのような女の子。体格も相あいまって喧嘩けんかではクラスの男子に負けたことがない。千代吉は好奇心旺盛こうきしんおうせいでなんにでも頭を突っ込むくせに怖がり。何かあるといの一番に逃げ出す。靖子は真面目まじめ。休み時間はいつも文庫本ぶんこぼんを読んでいる。かといって特別成績せいせきが良いわけではないのでクラスで目立つことはない。ちょっと変わった子ともいわれている。そんな三人が仲良くしているのを見て、いつのまにかクラスメイトは三人を凸凹三人組と呼ぶようになった。

みんなが言うように、三人は背の高さこそ凸凹だけど、それぞれいいところも悪いところも認めて補おぎない合って仲良くしているのだから、僕はらは凸凹がうまくはまった□だと思っている。一緒にいるとテトリスで上から□が落ちてきたときの安心感がある。親同士も仲が良い。田舎町では子供同士仲が良いと家族ぐるみで仲良くなる。そんな完成された□の中に僕たちはいるんだ。

靖子は赤いランドセルを背負って「うん。面白そうだね。行こう」と言って立ち上がった

靖子の返答へんとうに千代吉と加奈子が満面まんめんの笑みを返した。

 

※

 

――第一の手紙――

 

あの場所でいったい何が起こったのか、先生に本当のことを伝えたくて手紙を書きました。

先生も知っているように、事件の発端ほったんは凸凹三人組が放課後ペドロリ山に行ったことです。あのとき僕が誘さそいに乗っていなければ、こんなことは起きなかったはずです。

僕はペドロリ山の竹藪たけやぶの先にある小屋の中で何が起こったのかすべて見ていました。けれど小屋の中に入って来た人物が誰だったのか一緒にいた二人に話していません。それが僕たちの関係を続けるうえで一番良い選択せんたくだと思ったからです。

だけど、それを心の中にとどめておくことが苦しくなってきました。毎日毎日あのときの夢を見るのです。夢の中で小屋で起こった出来事が繰り返し繰り返し、鮮明せんめいな映像えいぞうとなって再生されるのです。あの場所に誰がやって来たのか聞いてもらいたい。そうすればもう夢を見ることはなくなるのではないかと思い至り先生に手紙を出すことにしました。

事件は既すでに終わっています。僕たちが通う小学校でも時間が経たてば忘れ去られてしまうことでしょう。今はまだ事件じけんが起こって間もないため、クラスの中で話題わだいになっていますが、そのうち普段ふだんの生活に戻ることでしょう。でもクラスで話題にならないようになったからといって、僕が夢を見なくなったからといって、小屋の中で起こった一連いちれんの出来事は一生忘れることが出来ないと思います。

あの日――

 

※

 

「僕たちだけでペドロリ山に入るなんて、なんだかわくわくするね」

山道で拾った木の枝を振り回しながら千代吉が加奈子に言う。加奈子は「そうだね」といたずらっぽい笑みを千代吉に向けた。

僕たちは一旦いったん家に帰りランドセルを置いてからヘドロ山の入り口に集まって入山にゅうざんした。両親りょうしんは共働きだから家には誰もいなかったけど、放課後ほうかご三人で遊ぶのはいつものことだから「遊びに行ってくる」とだけ書置きしてからペドロリ山へ向かった。

「そのわくわく感は悪いことしている気持ちからくるもの?」

先頭を行く二人の後ろにぴったりとついて歩く靖子が大人びた質問しつもんを千代吉にぶつける。千代吉は振り返り「悪いことなんてしてないよ。有賀先生はペドロリ山には一人で入っちゃいけないと言っていたけど、子供たちだけで入っちゃいけないとは言ってないからね」と言って笑った。

確かに有賀先生は一人でペドロリ山に入ってはいけないと言ったけれど、子供たちだけで入ってはいけないとは言っていない。しかし、その言葉の中には子供たちだけで入ってはいけない、ペドロリ山に入るときは大人と一緒いっしょでなければならない、といった意味いみも含ふくまれているはずで、その意味を読み取ることが出来ないふりをするのが僕ら子供たちだ。

そんな楽し気な雰囲気ふんいきのなか、暫しばし山道を歩いていると、加奈子が「ここだよ」と言って立ち止まった。山道の右側に広がる竹藪を指さしている。僕は加奈子の指す先に目を向ける。生い茂しげる竹と竹の間に小さな小道があった。土が踏ふみ慣ならされ、人が出入りした跡あとが残っている。

「ここから中に入るの?」

靖子の問いに加奈子は「うん」と頷いて「何か心配事しんぱいごとでもあるの?」と続けた。

「スカートを穿いてきちゃったから」

小道の先が草木で覆おおわれていたらスカートでは歩きづらい。注意して歩かなければ足が傷きずだらけなるだろう。

「大丈夫だよ。お父さんと来たときはズボンを穿はいていたけど、竹藪の中は背の高い草木があるわけじゃないから平気だよ。それに私もスカートだし」

加奈子は自分が穿いているスカートの袖そでを掴つかんで持ち上げる。

「気になるならスカートを脱ぬいで入ればいいじゃん」

にやけた顔を靖子に向ける千代吉の頭を加奈子がポカっと叩く。大げさに痛がる千代吉を見て加奈子と靖子が声を出して笑い、少しして千代吉も二人に混ざって大声で笑った。

ひとしきり笑い合ったあと、加奈子が「私についてきて」と言って小道に向かって歩いて行き竹藪の中へと消えていく。二人も加奈子に続いて竹藪の中に入って行った。

小道を抜けた先は竹藪と言うよりは竹林ちくりんに近かった。加奈子の言うように気を付けて歩かなければいけないほど草木が生い茂っているわけではない。これならスカートを穿いていても問題なさそうだ。

「この辺でもタケノコは採れるんだけど、タケノコ採りに夢中になっているうちに奥の方に入っちゃってね」

「そこで小屋を見つけたの?」

「うん、そうなんだ。こっちこっち」

加奈子は二人に先に進むよう促うながし、加奈子を先頭に三人は竹藪を進んでいく。五分ほど歩くと前方に小さな小屋が見えてきた。なぜこんなところに小屋があるのか不思議に思ったけど、山中にそぐわない平らな土地が小屋の前に広がっているのを見て納得なっとくがいった。畑の跡だ。小屋は農作業の休憩所きゅうけいじょとして作られたのだろう。畑には雑草ざっそうが生い茂り、荒れ放題ほうだいになっているため、何年も前から使われていないように見えた。

三人は竹藪を抜け、畑の跡を横目に歩き小屋の前で立ち止まった

「ね、本当にあったでしょ」

加奈子が口角を上げて二人を見る。千代吉は「疑ってなんかなかったよ」と言って小屋に目を向けた。

小屋は簡素かんそなもので四方しほうを切り出した木材が囲み、屋根にはトタンが張はられている。トタンは元の色が分からないほど錆さびびついており、トタンの下に板が張られていなければ雨漏あまもりするかもしれない。小屋の入り口のドアには金属製きんぞくせいのノブが付いているが、こちらも茶褐色ちゃかっしょくに錆びている。

加奈子が「さあ、入って」と言ってドアノブを握にぎって押し開く。加奈子に促されて二人は小屋の中に入って行った。

小屋の中は一五平米へいべいほどある正方形の板張りの部屋だった。ドアの右側には教室の机を横に二つ並べた大きさの机が壁沿かべぞいいに置かれていて、机の上には窓がある。窓と言っても窓ガラスはなく斜ななめ十字状にベニヤ板が張り付けられているだけで雨風をしのぐことは出来ない。机を背に右側には敷物しきものの無い木で作られた簡素かんそなベッド、正面には横二メートル、高さ二メートルほどの中央開きで金属製きんぞくせいの道具入れが壁沿に置かれている。道具入れの左側の壁は木材がむき出しのままで何も置かれていなかった。

「ね、秘密基地っぽいでしょ?」

二人のあとから小屋に入って来た加奈子がドアを閉めて言う。ドアを閉めても窓から日の光が小屋の中に入って来るため暗くはならない。振り返り加奈子を見る。目じりを下げたその顔はどこか自慢げだ。

「加奈ちゃん凄いじゃん。よくこんな所見つけたね。どこからどう見ても秘密基地だよ。遊び疲れたらベッドで寝ることも出来るしね。でもこのまま寝たら背中が痛くなるから何か敷しかなきゃいけないかな」

「チヨは疲れてなくてもいつも寝てるし、寝心地なんて気にしないで寝れるでしょ? 授業中じゅぎょうちゅうも寝てるの知ってるよ」

「考え込むふりして寝ていたんだけどなあ。気づいてたの?」

「あたりまえじゃん。縦肘たてひじを付いて有賀先生に見えないようにしているみたいだけど、首がこっくりこっくり動いてるんだもん」

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© 2026 諏訪靖彦 ( 2026年9月2日公開 )

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