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精神疾患の重り

ピッコロ三世

健常な落ち込みが「殴られた痛み」なら、精神疾患の苦しみは「全身を縄で縛り上げられ続ける拷問」だ。性質の違う絶望を「わかる」と言われた瞬間、私は世界に絶望した。

タグ: #エセー #独白 #精神疾患

エセー

1,441文字

精神疾患を患って、二十年が経とうとしている。

社会不安障害、そして、うつ病。

これらを患って、人生、思考、性格が以前とはまるで別物に作り変えられてしまった。

 

健常の状態と、今のこの状態。

違いを例えるなら、健常な状態に何倍もの重りを背負わされた状態だと感じている。

私の世界では、普通の坂道をただ歩くだけでも、普通の人と比べて何倍、何十倍もきつい。

かつて、友人にこの苦しみを打ち明けた時、「あーわかる!」「あるよねーそういうこと!」といった、わかったフリをされた事がある。

これを言われてすぐに、私は友人に相談した事が無駄だったと絶望した。

私は人生の半分を健常者として過ごしてきた。

だからこそ、どちらの苦しみの性質も理解している。

健常状態の落ち込みを例えるなら、力一杯殴られて、物凄い激痛が走るが、徐々に痛みが引いていき、1日、2日経てば治っていく。

精神疾患による苦しみは、縄できつく縛られ続け、永続的に逃れられない痛みを与え続けられる拷問だ。

性質が根本から違うのだ。

そこが理解できず、健常状態での苦しみと同等に解釈されると腹がたつ部分もある。

しかし、これはどうしようもないことで、人間は実際に自分が経験してないことに対して100%の理解など絶対にできないのだ。

本を読んで学んだ事より、実際に転んだ痛みの方が身に染みて覚えているように。

 

ゲームでいうとノーマルモードとハードモードの違いと言えば簡単に理解できるだろう。

しかし、私はハードモードでプレイしたいわけではなく、普通にノーマルモードでプレイしたいのだ。

普通に人と会い、喋り、普通に働き、普通に眠る。

余裕ある、選択肢の多い人生を、コーヒーを飲みながらのんびり楽しみたいのだ。

しかし、ハードモードにこんなものは許されておらず、人と会う時には不安と緊張で落ち着かず、眠る事も許されない。特に約束のある前日の夜なんかは地獄だ。

常に頭の中で、したくもない会話の練習、シミューレションが反復される。

これによって、寝なくてはいけないのに頭が冴えて眠れない。

言っておくが、これは会社の重要な会議の前日ではない。

ただ友達とカフェに行く前日でこれなのだ。

もし、重要な会議の前日の夜だったら、私はすでに失踪しているだろう。

 

私はいい歳して、今だに実家で親と暮らしている。

何度か一人暮らしに挑戦しようとしたが、まず人と会う、家の

内見に行くのが困難だった。

しかし、なんとか無理矢理、内見までは行けたが、実際に申し込んで審査の段階でギブアップしてしまった。

家を出ようとしてから何週間もの間、不安と緊張状態が続き、まともに眠れず心が休まらなかった。常に緊迫しており、何も手が付かない。

趣味のゲームも集中できない。

私は超低収入なので、一人暮らしをした場合、一部生活保護に頼らなくてはいけない。

本当に生活保護が受給できるのか?それ以前に申請できるのか?そもそも市役所までいけるのか?

こんな事が永遠に頭の中でループし続け、次第に心は疲弊していき、気がつけばキャンセルの連絡を入れていた。

 

激しい自信喪失の果てに、今、私は少しだけ開き直っている。

社会一般が説く「自立」や「回復」の枠組みに、無理やり自分を押し込むのはもうやめだ。

この病を、この重りを、引きずったまま歩くしかない。

治らないなら、治らないまま、この深淵の底を突き進んでやろう。

 

ここから見える景色は、案外、光の世界にいる連中には拝めない面白いものかもしれない。

© 2026 ピッコロ三世 ( 2026年5月9日公開

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