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九時三十五分

猫が眠る

小説

1,380文字

リゾート地には、肌の焼けた男とふしだらな女たちがいた。皆いつも片手には酒を持っていて、それはたいてい薄いビールか安物のワインだった。男たちは女にすり寄り声をかけ、女たちは数人で集まって男が声をかけてくるのを待っていた。

俺はこのリゾート地のごみ収集人だ。毎日酒瓶やら煙草の灰、食べかけで気まぐれに放り投げられたピザの端くれなんかを集めて捨てている。中には注射器なんてのもある。これは特別なプラスチックのケースに入れてからゴミ袋に棄てる。それからコンドームに生理用ナプキン。

俺のところにはありとあらゆる生活において消耗されるものが集まってくる、いや、そう、俺が集めているんじゃなくて、向こうから集まってくるんだ。俺はふだん昼間は地下に閉じこもって、ありもしない国の物語を永遠に書き続けている。むかしそういう絵描きがいたらしいな。

男が射精し、女の嬌声が聞こえなくなると、俺の仕事は始まる。

一番汚れているのはプール周りだ。食べかすはもちろんのこと、もみ消された煙草のフィルター、だれも見向きもしない配達のピザに挟まれたチラシ、ドラッグが入っていたビニール、注射器。

ふしだらな女とそれを求める男しかこのリゾート地には集まらないのだから、当然のように中身のたっぷりと入ったコンドームがある。何の儀式か知らないが、ここの人間はその入り口を縛ってそこら中に置いといてある。置いといてある?

俺はそれらのものをゴミ袋に入れると、指定されたごみ置き場において──量は大きなゴミ袋二つもあれば十分だ──俺は地下にある自分の巣穴に戻る。地価で俺は幻想の世界を作り続けている──今は「子供たちが草原に集って蒲公英を摘んでいる情景を描いているところ──この創作が終わることはないし、地上での俺のごみ回収作業も、彼らの饗宴も終わることはない。

さらに俺の書いている物語について語ろうか。

さきほどの場面は大人たちが想い描いた天国の国だ。

風呂場で若い男が恋人に電話をしながらその世界のことを語っているところ。それを聞いた恋人がこう尋ねる。「それは天国じゃなくて地上でも実現できるんじゃなくて?」男はしばし思案して答える。「まあできなくはないだろうが、全員がぜんいん日付も時刻も場所も全部合わせて集まることになるってのはむずかしいだろうねぇ」「確かにそうかも」

その後、男は湯を上がり、恋人に「おやすみ」と言って眠った。ぐっすり眠った。とってもぐっすり眠った。とっても、とっても、ね。

そして男は朝四時半に起きる。起きて父親に「おはよう」とメッセージを送ると、ギターを弾き始める。起きた恋人から連絡が来ると、恋人と通話をして話をする。互いに今日は何の予定があるだとか、朝なにを食べるとか。

男は煙草を吸い終えて、音楽をつけながら話した。恋人は冗談めかして電話越しに「あと15分、八時半に起こして」と言う。男はギターを弾きながら。歌っていた。気づくと八時半を過ぎていた。恋人は眠たげな声で笑みの含んだ声で彼に言った「だから八時半に起こしてって言ったのに」。音楽は彼の部屋のアンプから鳴り続けている。その後、彼は何か書き物に没頭し始める。恋人が問う「何を書いているの」「小説だよ」──と云うこんな感じの物語を俺はリゾート地の地下にある自分の部屋で黙々と書いている。っと九時三五分だ。十時から予定があるのだった。

© 2026 猫が眠る ( 2026年1月20日公開

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