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ビジョビジョ

小林TKG

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タグ: #古賀コン #古賀コン10非参加応援品

小説

3,556文字

知り合いに、

「眼鏡だったらビジョンメガネがいいよ」

という話を伺った。ぼくは、

「え、ビジョン、ピジョン」

と聞き返した。知らなかった。ゾフとかジンズとか昔、浅野忠信さんがやってたCMのメガネの会社しか知らなかった。そのメーカーの名前は思い出せないけども。

「ビジョンビジョン」

と知り合いは繰り返しました。ビジョン。ビジョン。ビジョンメガネ。ああ、そうですか。ピジョンじゃないのね。ポッポピジョンピジョットのピジョンじゃないのね。ビジョンね。マーベルね。そうですか。

「いいですよ。ビジョンメガネ。浦和に無いんですか」

「うーん、ちょっと調べてみます」

聞いた事ないなあ。PARCOは確かゾフだったしな。意外と伊勢丹とかコルソに入ってるかもしれないな。ぼくはスマホで調べてみる事にしました。

「川口にある」

川口にあるみたいでした。川口のイオンにある。他はもう、

「無いなあ」

埼玉だと川口と本庄と草加にはある。でも、川口以外は知らねえ。行かねえ。

「東京はあるでしょう」

池袋とか、あったらいいけどな。調べてみると確かに東京には埼玉よりもありましたが、そのどれもこれが、その、なんというか、

「ぼく行かないなあ」

と言う所なのです。絶妙に行かない。生活圏内に無い。川口しかない。

「川口しかない」

「ビジョンメガネは作ったら三か月後にもう一回来てくださいって言いますよ」

とその知り合いは言います。それはもうなんでか、聞くのも無粋です。眼鏡属性はわかります。調整の為です。オープニングコストとランニングコストみたいな話です。作ってみて最初に調整、そのメガネを実際に使ってみて、少ししてからもう一回確認して、調整。そういう事です。

「川口かあ」

川口のイオン。そこに行くのが一番手っ取り早い。ぼくの場合は。生活圏と、そういう調整の事を考えると、普段行かない所にわざわざ作りに行って、また調整の為に行くって言うのはしんどい。行かないかもしれない。礼を失する行為です。歯医者だったら定期健診をすっぽかすような悪逆非道の行為です。

そうなるともう、川口の一択になります。

しかし、そこでどうしたものかとそういう気持ちになるのです。

「川口かあ」

最近、ニュースにはなっていないですが、何かしらの規制が生じているのか、あるいは単にメディアが飽きただけかもしれませんが、川口は今も治安が悪いのです。

特に西川口などでは発砲事件もあったりする。と聞きます。

あまり行儀のよい事ではないので、少しぼかして書きますけども、海外の人達が大量に流入しており、その人達が彼の地の治安悪化に起因しているのは言うまでもなく。

わざわざ、また言うまでもなく。

だから、川口かあ。

とぼくは思ったのです。

しかし、

「ビジョンメガネはいいですよ。確か半期に一回セールをやってます。それを使うと二万円くらいする眼鏡がゾフとかジンズとかと同じくらいの値段で買えます」

と知り合いが言うのです。

「今やってます。十二月末まで」

と言うのです。

「店員もちゃんとしてますし、作る前に視力もちゃんと測ってくれますし」

と言います。

「ゾフとかジンズとかよりも、個人的にはいいと思います」

と言います。

ゾフとかジンズに対して特に悪いという気持ちも無いのですが、そこまで言われると眼鏡属性としては興味がわきます。ただし問題は、相手は川口という事です。

「川口かあ」

でも川口という事であれば、コクバ、国際興業バスも走っているだろうしなあ。調べてみると、やっぱりコクバエリアなので走っています。しかも、

「ぽあ」

蕨からもバスが出ているみたいでした。蕨。蕨は悪の化身、川口の隣の地獄の釜の蓋、西川口の更に隣の駅です。

蕨だったらいいかな。気持ち的にも。メンタルケアの観点から、川口、西川口に行くって言うとちょっとやっぱり、

「悪の化身と地獄の窯の蓋にいく」

という、もう最初からやられちゃっているという気持ちになりますが、蕨だったらいいかもしれない。蕨からだったら行けるかもしれない。できるかもしれない。ぼくにもできそう。

蕨。地元の山菜でわらびも知ってるしな。見た事あるしな。食べた事もあるしな。まあ、山菜取りに行ってクマに襲われるって言うニュースもよくあったけど。でも、この際、この光明はいいものだと思いたい。悪い事ばかりを考えるのではなく、いい事も考えたい。欲しい。そういう情報も。

さっそく次の休み、蕨に行ってみる事にしました。ドキドキはしました。ドキドキは。だって、隣は地獄の窯の蓋です。その隣は悪の化身です。

ワニワニパニックや番犬ガオガオに相対するような気持ち。

蕨駅の東口から出て、バスの発車場所に向かいます。時間も調べてあります。IC定期券がスイカに入ってます。

バスに乗って蕨駅から川口のイオンに向かいました。

バスの車窓から眺める街の光景は、なんというか、恐ろしいモノでした。

どこぞかしこぞで銃撃戦が起こっていました。日本人らしき人達と日本人じゃない感じの人達が銀鱈とかトカレフとか、あとマシンガンみたいなもので撃ち合っていました。対地砲の砲火もありました。刃物を振り回す人達もいました。刃物って言っても包丁とかカッターじゃないです。鉈を筆頭に、でかいぎざぎざのサバイバルナイフとか、あと三尖刀っていうんでしょうか、他にも半月刀とか、コンビニや店とみれば強盗が居ました。家々はほとんどが半壊しており、至る所に人が倒れていました。血だまりも至る所にありました。あと穴も至る所にありました。裸足でボロボロの服でさまよっている人達もいました。沢山いました。空き地らしきところでは人が、多分遺体でしょう。が積み重なっていました。

あばばばばばばばばばば。

「恐ろしねえ」

思わずぼくの地元の言葉でそう言ってしまう程、恐ろしい事になっている。日本かここは。ここが日本か。北斗の拳みたいになってる。やべえ。すげーやべえ。これはやべえ。想像以上だ。聞いた話以上の。ニュース以上の事になってる。川口。川口周辺。駅前は普通だったのに。蕨駅は普通だったのに。ちょっと中に入ったらもうこれ。これか!?

マジか。

ホントかよ。

この世か。

地獄じゃないかこれ。

悪の化身。

地獄の窯の蓋。

蕨もそうだったんだ。

蕨だって、憎悪の塊だったんだ。

もう川口西川口蕨じゃねえ。

悪の化身地獄の窯の蓋憎悪の塊だ。

やべえ。

マッドマックス。

ところで、バスの乗客は自分だけ、ぼくだけでした。これから人が乗って来るんだろうと思っていたのですが、だれ一人乗らずバスは発車したのです。その時にすぐに引き返していたらよかった。気がついたらよかった。蕨は大丈夫だろうと、なんか慢心していたんだ。

よく見てみると、バスの運転手もボロボロの服を着て、肌も汚れていました。

多分、わざとそうしているんでしょう。

そういえば乗車する時。、バスの車体もなんか薄汚れていた様な気がする。

内部も当然そうです。サイレントヒルの表世界みたいな感じです。さすがに裏世界までは行きません。

やべえ。

これはやべえ。

ぼくは思いました。

もうビジョンメガネとか言ってる場合じゃねえ。

これはやべえ。

マッドマックス。

マッドマックス怒りのデスロード。

そのうちバスは川口のイオンの近くのバス停に到着しました。川口イオンがそこから見えました。それはゾンビに襲われた人達が立てこもるショッピングモールに見えました。入り口や窓を立て板で塞いでおり、外には溢れんばかりの人達がいました。もうゾンビ映画そのものでした。ぼくはバスを降りませんでした。

運転手とミラー越しに目が合いました。ぼくと運転手は頷き合って、その時わかり合いました。ぼくと運転手は言葉を発することもなく、目だけでわかり合ったのです。

蕨駅までの帰り、戻りは行きとは打って変わって、沢山の人達がバスの走行を邪魔しようと、助けを求めている人もいたのかもしれないし、バスを襲おうとした人もいたんだと思います。しかし決して停まることなく走りました。人もはねましたし、ぼくも後部座席にあった鉄パイプで掴みかかって乗ってこようとする人達を叩き落とすことに必死でした。

マッドマックス怒りのデスロード。

それから少しして、悪の化身地獄の窯の蓋憎悪の塊にはミサイルが落とされ消滅しました。広域トマホークです。悪の化身地獄の窯の蓋憎悪の塊はラクーンシティみたいになりました。

悲しい結果になったなと思います。

非情に悲しい事だなと思います。

しかし、ぼくはあの時のバスの運転手と今でもたまにお酒を飲む間柄になったので、それはそれでよかったなあと、そんな風に思うのです。

バスの運転手から、

「あなたが居てくれなかったら、今頃自分は押しつぶされていたかもしれない」

と言われて、ぼくだってそうだよおお。って、涙でビジョビジョになるんです。

© 2025 小林TKG ( 2025年12月8日公開

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