彼は長年出鱈目に動き回り、いくつもの見知らぬ街で一握りの真実を基にホラを吹きまくった。
次第にホラを信じる人間は真実を知るものより多くなっていった。
彼は土地毎に微妙に異なったホラを吹いた。
それは微妙に異なる複数の彼を産み出した。
彼は元々の自分自身を消し去ろうとしていた。何れ歪な彼自身を率いた彼が生まれ故郷を焼き尽くす。そんな夢を見ながら彼は更に見知らぬ街を渡り歩いた。
見知らぬ街の中に、以前彼の生まれ故郷に住んでいた男が移り住んでいた。
遠目に伺う以前とは微妙に違う彼を不審に思った男は、声をかけてみることにした。
「どうしたんだ?随分とおかしな事を言っているじゃないか」
彼の肩を掴もうとした刹那、唐突に彼の姿は炎に焼かれて消えてしまった。
彼の魂は彼の燃え尽きた街の中に留まる事になった。
唐突に燃え尽きた彼の事は語り草となり、方々のかつて彼が訪れた街から、かつての思い出を語りに、彼の燃え尽きた跡地へとやって来た。
異なる複数の彼の物語は一つの本に編纂された。
彼の魂はその本に宿り、長い間、安寧を保っている。