米田淳一とともに2日目の会場へ入る。
彼には昨夜のぼくの赤字をガッツリ反映してもらい、原稿の手直しをしてもらうのが今日のミッションだ。
それでまずは完成となるだろう。
澤俊之の方はどうか。
昨夜は帰宅したとのことだが、続きは書かなかったようだ。
予定の文章量には、残り時間で書ける分でピッタリちょうどというところだが、オチで悩んだりするとタイムオーバーの可能性がある。
そこで彼には一つお願いをした。
「先に結末書いてもらっていいですかね」
「結末から?」
「そうです。そしたら途中で時間がなくなっても、とりあえず完結した体裁は整います。保険です」
「ふむ。じゃあそうしてみる」
澤俊之の原稿は、これまでほとんど修正を入れていない。直すところがないからだ。
この後もそのペースでいけるだろうから、校正の時間を確保する必要はない。
ギリギリまでストーリーを書き綴ってもらうことも可能だ。
なので、先に着地点を抑えておき、あとは時間の許す限り書き込みができるようにお膳立てをしておいたのだ。
完結部分はほどなく書き上がり、あとはそこまでの道筋を、残り時間をにらみながら書き上がれば完成である。
どうにかゴールへの道筋は見えてきた。
表紙のデザインが上がってきた。
米田作品には産業奨励館の在りし日の姿を、有田満弘さんに書いていただいたものだ。
水彩画のような繊細なタッチで、川面にも反射している。理想的なイラスト、いやもはやこれは絵画だ。
大正ロマンの舞台として相応しい素敵な作品に仕上げていただいた。
こいつを表紙に仕立てるのはぼくの役目だ。
タイトルの「スパアン」を大きく配し、下には帯をつけるのがぼくの流儀だ。今回も踏襲させてもらった。
マイベストな表紙に仕上がったとは思う。これ以上のものは作れない。
澤作品の方は亀山鶴子さんが全面的に仕上げてくれた。
鮮やかな沖縄の夕日。逆光でシルエットになる主人公。長く伸びた影。咲き乱れるハイビスカス。
カラフルなイラストに、漆黒のPAUSAの文字。
文芸っぽい!!!!いいわー。
まんまハードカバーで平積みにしたいわマジで。
実に素晴らしい。ありがたや。
ということでビジュアル面は万全である。
作品も順調に仕上がっている。
ここまでくればゴールできないことはないだろう。
ラスト一時間ぐらいだが、もう安心だ。
さて、テーマについて再考しておこうか。
米田作品は「破瓜」である。処女喪失を表す言葉だが、これは主人公である架空女子の出自に関係がある。
彼女には初モノ好きと伝わる伊藤博文が、地元の芸者に産ませたその隠し子であるという設定がある。
数奇な運命をたどることになるはずだが、それはここでは語られない。
いつの日か、米田淳一の手で紡がれる物語なのかもしれないが、ここではただ林芙美子とじゃれ合うというだけしか出番がないのだが、それは失われた日常を表す重要な演出であるのである。
澤作品の方は、確か真ん中あたりに石垣島産の蛇皮で作ったギターという設定で……。あれ?
その記述がない。蛇皮ではあるが、石垣島とか書いてないな。
「澤さん、破ってどうしたんでしたっけ」
「しー!」
「あ、はい」
「昨日メモ渡したでしょ」
「あれ? そうだったっけ」
確かにメモはもらった。石と皮と書いてあったものだ。なるほどと思った。
「それってこのギターが石垣島産でって話じゃ……」
「いやそうじゃなくて、ここと、ここ」
あ!
そこと、そこか!
ヤラレタ!
二人ともテーマはクリアしたのでもう大丈夫だ。
時間まで、午後のプレゼン資料を用意することにした。
いつものライトニングトークのように、高橋メソッド的なスライドを用意しておこう。
まずは米田作品用。とにかく、米田淳一のすげえところを羅列して、作品にハクをつけるのがミッションだ。
ドカドカと並べて組み立てた。
澤作品の方は、澤俊之の得意なものがギターであるということをアピールして、旅情を訴える感じになるかな。
もうひとネタ欲しいところだけどなあ。
何かひらめくといいんだけど。
提出時間が迫ってきた。
ネットワークの調子が良くない。早めに出しておいたほうがいいだろう。
米田作品はもうできあがっていたので、さっさと提出した。
手元にあっても無限に修正が続くだけなので、早急に出してしまったほうが落ち着く。
澤作品も予定通りの時間にできあがった。
いそいでチェックをするが、まったく直すところは見つからず。
そして、クライマックスが盛り込まれている! いつの間に……。この男ただ者じゃない。
満を持して提出ツカマつった。
そうして定刻は訪れ、ぼくらのノベルジャムは幕引きとなったのだった。
つづく
"2日目。目覚めのコーヒー。そして完成のとき"へのコメント 0件