2006年頃の合コンの空気

幾島溫

小説

1,375文字

今は昔、東京の片隅に誰かと愛し合うことを願つた女が居りました。

友人に「合コンがあるから一緖に來ないか」と誘はれたので、戀人のゐない私は二つ返事でOKをした。
「合コン」といふものに關する噂は澤山聞くものの、實際に行くのは初めてだ。
私はベレー帽とストライプの靴下を脫ぎ捨てて、ピンクのニットを肩に掛けて、ハイヒールを踏み鳴らしながら友人の指定した店へと向かふ。
合コン會場に着いてみると、友人を初めとする數名の男女は既に酒を酌み交はして居り、すつかり打ち解けてゐる樣子だつた。
空いてゐる席に腰を下ろすと、誰かが註文したのか、私の目の前に生ビールが運ばれた。
「とりあへず乾杯」
そのかけ聲を合圖に、私は皆と一緖に「カチン」とグラスを重ねた。

「でさー」
奧に座つてゐる、紺色の服を着た男性が喋り出した。
皆が一齊に彼を見るから、私もジョッキ片手に彼を見た。
「比較的カクテキとリンゴならば、俺はもつと現實的に總じて水族館やりたいと思ふんだ。勿論仲良くね」
彼の言葉が終はると、みんな深く頷いて、そして笑つた。
何の話をしてゐるのか、全くもつて良く解らないのは私が途中參加だからなのだらうか。
一人でビールをゴクゴク喉に流し込んでゐると、隣の男性が私の肩を叩いた。
「かねてよりミュージックのグルーヴはどうしたら夜で撫でると思はれ?」
どういふ意味なんだ? 質問されてゐることだけは理解出來たけど、私には彼の眞意がまつたく讀み取れない。
私は何を問はれてゐて、彼の求める答へは何なんだ。
仕方が無いから私は、にっこり笑つて首を傾げて「?」を身體で示した。
すると彼はかう言ふ。
「だからね、前から思ふところ、音樂はニョコチョリア、消しゴムとスキャットの愛の子よろしく、みたなのは解る?」
益々解りにくくなつてゐる……。
仕方が無いから私は、キーワードだと思はれる「音樂」をヒントに答へることにした。
「うん、さうだね……。解る氣がする。あたしも音樂とか聽くし、好きだし。最近はね、ラウンジ系とか結構好きなの」
取り敢へずかう言つておけばなんとかなるだらう、と私は計算したのだ。
しかし、彼は一呼吸分置いて沈默した後、大聲で笑ひ出した。
私たちの會話を聞いてゐたらしい、周りの人たちも笑ひ始め、友人に至つて私のことを指差して「うけるー」とケタケタ笑ひ轉げてゐる。
何が可笑しいのか良く解らなかつたけれど、取り敢へず私もヘッと唇の右端を吊り上げて笑ひを吐き出した。

その後も彼らは何事かを話しては、息繼ぎををする樣に笑つてゐた。
話の中身は聞き取れさうで聞き取れず、まるでお經のやうだつた。
私は鷄肉を突きながら、空氣を壞さないやうに、時折彼らの方に貼り付けた笑顏を見せておく。

店を出て、私が慣れないハイヒールでよたよた步いてゐると、何時の閒にか隣に紺色の服を着た男性がゐた。
彼はケータイ電話を片手にかう言ふ。
「今日は樂しかつたよ。今度は二人で遊びに行かう。電話番號交換しようよ」
私は言はれるが儘に、自分の番號を傳へた。
連絡先を交換し終へると、彼は地下鐵に乘ると言つて地下街へと續く階段を降りていつた。
彼の姿が見えなくなると、友人が私に驅け寄つてかう言つた。
「凄いぢやん! あの恰好いい人と番號交換してたよね!? いいなあ、あの人外資系企業に勤めてゐて、何かすごいみたいだよ」
彼女は頬を赤らめて、ニヤニヤしてゐた。
合コンってこんなものなのか、と私は思ふ。

 

 

2024年6月7日公開 (初出 2006/11/12 個人同人誌)

© 2024 幾島溫

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