自転車を自転車置き場に置き、階段の前に立つ。私は二階を見上げる。右手を手すりに沿わせながら私は慎重に階段を上る。慌ただしい影とその爪が激しく擦れる音が私の目の前を通り過ぎて駆け降りて行く。案の定。二階の廊下に着くと私は右手を楽にする。あのバカ猫は何故私を驚かせるのだろうか。私を警戒しすぎている。私はポーチから鍵を取り出す。階段の方へ目を遣ると、さっきのバカ猫がこちらをじっと見ている。誰が私をヒヤヒヤさせていると思っているのだ。睨みつけたいのはこちらの方なのに、あの被害者顔には呆れる。私は玄関扉を閉める。ドアスコープを覗くとあいつは優雅にうろついている。
階段の前に立つ。私は二階を見上げる。右手を手すりに沿わせながら私は慎重に階段を上る。しかし、慌ただしい影も爪が激しく擦れる音もない。今日はいないのか。二階の廊下に着くと私は右手を楽にする。廊下の一番奥に斑の塊が見える。それは私が歩くのよりも素早く私に近づいてくる。それはまるで牛乳でできたぬいぐるみのように廊下の壁と私との隙間をするりと抜けていく。そしてそれは階段を軽快に駆け降りていく。
赤ちゃんのような鳴き声が聞こえる。それが猫だと分かっていてもやはり不気味なものだ。私は塩無添加の煮干しを手に持って廊下へ出る。あの猫と目が合う。私はしゃがんで一匹放る。二匹目。まだか。三匹目。そーっと猫は煮干しへ近づく。私を見つめながらムシャムシャ噛み始めた。私は立ち上がる。猫は噛むのを止めてピクリとも動かない。私は振り返って部屋へ戻る。ドアスコープを覗くとあいつはまた噛み始めていた。
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