ハゲに備える

ヘルスメイク前健

小説

1,026文字

2008年作。『唇は赤ければ赤いほど赤い』収録。

私の直系尊属を調査すると、愕然たる事実が。母方の祖父が、髪一本ないツルッパゲだったそうである。悪い予感が的中した。大体に於いて、私の悪い予感は当たる。

さあ大変だ。隔世遺伝で、私の頭から髪の毛が消滅する可能性が高いことを知ってしまった。

狼狽してはいけない。有事の際は冷静にならねば。対策本部を自室に設置。来るべき「ハゲ」に備えて、それこそ毛髪が抜けるくらい真剣に考えよう。建設的にポジティブに。

まず、ハゲることは怖くない、と自分に言い聞かせた。むしろ歓迎すべきことで、自分を変えるチャンス。マイ・レボリューション、ってな感じ?

ハゲの兆候が現れたら、思い切って剃髪し、出家する。これはかなりのレボリューションだ。どこかの寺に入って修業したりするのは面倒くさいし、辛そうなので、自分で新宗派をでっちあげるとか。うまくすれば、信者が多数集まり、多額の布施が集まり、さすれば政権の中枢に入って国家を動かす存在となり……いや、他人の考えのパクリは駄目だ!

映画で「タコ社長」の役をやりたい……駄目だ! というより無理だ! そんな役は、もうない!

おっと、いきなり行き詰った。

故意に人前でカツラを外す、というベタなギャグは、もとよりするつもりはなし……。

話は変わるが、私の左乳首から一本だけ異様に長い毛が生えている。私はこの毛を大切に扱い、抜けないように「我に幸あれ」と祈っている。

話を戻す。

無理に薄毛への対策を立てよう、というのが間違っていたのかもしれない。レボリューションの必要などないのかもしれぬ。我執を捨てて現実に身を任せる。諦観な感じ、皆の衆、これを諒とせられよ。

最近抜け毛が多いとはいえ、私はまだまだちょっとフサフサ。ちょいフサ。

それでもなお「自分はハゲたらつらい」という者がいるやもしれぬ。

預言者の私は、優しく、こう答えるよ。

 

「ハゲてたっていいじゃないか。人間だもの」

 

この言葉に納得ができなければ、頭を使いやがれ! それができぬ者は、汗をかきやがれ! それさえできぬ者は……黙って去りやがれ!

 

前カラ ハゲタラ デコ広イト言エ

真ン中カラ 禿ゲタラ 「俺ハ カッパノ末裔ダ」 ト言エ

 

……「薄毛問題」を見事に解決した私は、清々しい心持ちで自室を掃除、床のホコリなどを集めた。そしたら。

頭の抜け毛より、はるかに縮れた陰毛の方が多く集まった。

なぜだ? 私の「毛」の問題は新しいフェーズに入った模様だが、正直困った。陰毛などいくら抜けても構わないけれども、なんとなく合点いかず不得要領の体。

2023年4月15日公開

© 2023 ヘルスメイク前健

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