赤い洞窟。

巣居けけ

小説

1,638文字

なんだか赤いですけど。

それは真っ赤な洞窟だった。幅は約一メートル程で、すぐ先は暗闇に包まれているが、どうしてか辺りの様子はよく見えた。

僕は後方を見てみた。後ろは三メートルほど見ることができた。しかしそれより先は暗闇に包まれていた。僕は前に向き直した。どうしてか先に進むべきだと思った。僕はゆっくりと右足を踏み出した。そこで自分の足が真っ白であることに気が付いた。僕はそこで自分の身体を眺めた。真っ白だった。二本の足に胴体と二本の腕があったが、その全てが白色だった。僕は右手で腹をつねってみた。真っ白な肌が山のように変形した。どうやら白色は衣服の類ではないようだった。自分の肌そのものが白色なようだった。

僕は前に進んだ。洞窟の地面の感触は柔らかかった。足を踏み入れると少しだけ沈んだ。僕はずんずん前に進んだ。歩いて行くたびに身体を熱気が覆った。それは進むにつれて温度が高くなっていくようだった。僕は洞窟の先を視た。相変わらず一メートルもすれば先は暗闇に飲まれていた。しかし自分の足元の辺りはよく見えた。まるで自分の頭部に光源があるような感じだった。僕は自分の頭部を撫でてみた。そこで自分が短髪であることを知った。顔の横に指を這わせると耳に当たった。顔面の中央に這わせると鼻に当たった。目は二つあるようだった。僕は前に進んだ。

三メートルほど進むと壁に当たった。それは中央に丸いくぼみのようなものがある真っ赤な壁だった。僕は壁に手を付けてみた。温かった。僕は両手を壁に付けて、右耳を壁に近づけてみた。壁の中からドッドッドッドッド、という力強い音が鳴っていた。僕は中央のくぼみに右手の人差し指を入れてみた。するとくぼみの周辺の壁が滑らかに蠢きだした。くぼみがパクパクと動き出し、僕の指を吸っていった。僕は恐怖心から指を取り出そうとした。しかしくぼみの内側から来る吸引力が僕の指を離さなかった。僕の指は完全に吸い込まれ、次いで僕の手そのものが吸い込まれた。くぼみが僕の手の大きさに合わせて広がり、どんどんと吸っていった。手の次は腕だった。飲み込むように吸っていった。腕が終わると今度は身体だった。僕は壁に取りこまれていった。やがて左腕が飲み込まれ、指の一本までが吸収された。

気が付いた時、僕は広い空間の中に立っていた。

辺りは真っ赤だった。しかしさっきと違うのは、空間は一本道の洞窟ではなく、大きく開けた空間だった。左右に約四メートルほど広がり、奥行きも数メートルあった。

そしてその空間には、僕と同じように白い服装の人たちがたくさん居た。

真っ赤なこの空間にちらほらと立つその人たちはよく目立っていた。皆辺りを不安そうに見まわしていた。

空間の中心には巨大な『人』が居た。

それは女だった。胸部の位置から下は床に埋まっていた。真っ白い肌と長い頭髪を持ち、こちらを向いている顔の両目は閉じられていた。

僕は彼女を見つめた時、なぜか彼女のもとに向かいたいと思った。

だから歩き出した。

床の感触はさっきの洞窟と変わっていなかった。足を踏み入れると少しだけ沈んだ。僕が動いたのを見て同様に歩き出す人も居た。僕らは一緒になって彼女のもとに向かった。

近くまで来て見上げる彼女は壮大だった。約七メートルほどの高さの彼女から表情の類を読み取るのは不可能だった。僕は彼女が埋まっている根元の部分に右手で触れてみた。彼女はほんのりと温かかった。すると彼女の皮膚がぐにゃりと歪んだ。そして僕の触れた手を飲み込んでいった。それは洞窟での壁と同じ様子だった。僕は吸い込まれていった。壁の時のような恐怖心は無かった。むしろこのまま彼女と一体化するべきだと思っていた。やがて手の全体が飲み込まれ、腕がどんどんと吸い込まれていった。僕は自分から身体を彼女に押し付けた。するとそれに答えるように彼女の吸い込みが加速していった。肩まで取り込まれると、つぎに胴体を右から飲み込み、やがて頭部と残った左腕を飲み込んでいった。

僕は彼女の中で、彼女と一つになった。

2023年3月19日公開

© 2023 巣居けけ

読み終えたらレビューしてください

この作品のタグ

著者

この作者の他の作品

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

"赤い洞窟。"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る