医学的。

巣居けけ

小説

1,750文字

「もちろん。私は他の野蛮な医者どもとは違うんでね」とペンウィー医師はかけていないはずの眼鏡をクイッと上に押し上げる。

拡張された尻の穴なら、トンプソン・サブマシンガンを入れることも可能だろう……。だからこそおれはいつもの坂を下り、二番目の重火器屋に入り、店主に小包を要求する。
「トイレットペーパーをドラムマガジンの代わりにすることはできるだろうか?」
「アナルやめますか? それとも人間やめますか?」主婦の真似をしているレズピアンの数学教師が嘶いている……。
「おれはアナルも人間もやめたさ……」とショットをテーブルに置いて呟く……。
「まあおれがやめたのは大学なんだけどね……」

おれは階段の一歩一歩を幼い感じの足取りで進み、光の筋の先を目指す……。「反省文決定……」

西の医学機構によると、ペンウィー医師の切開にはいくつかの手順のパターンがあり、彼女の素早い手ほどきで、患者は麻酔を使わずとも切開の痛みを感じずに済むらしい。おれはそんな彼女の腕前をステーキに使い、ついにやってくる帝王切開に彼女を招待した。
「いい日だな。まったく今日は」
「先生。さっそくお願いします」

おれはハンカチで鼻を押さえながら執刀室から出ていく。ペンウィー医師はすぐに「メス」と言い、自分の右手に左手で医療用メスを乗せる。

ペンウィー医師はついに取引に突入する。彼は自分の右手に小銭を乗せて蟻の女王に差し出す。
「利口な医者だな……」
「もちろん。私は他の野蛮な医者どもとは違うんでね」とペンウィー医師はかけていないはずの眼鏡をクイッと上に押し上げる。
「流石はドダー家だ」

それから二人は情熱的な握手をする。それから互いの汗を手のひらで感じ、そのまま二か月が過ぎる。蟻の方はすっかり消耗してしまって、ペンウィー医師のまだまだ頑丈な身体の前に倒れてしまう。
「まったく。いい日だね……」

ペンウィー医師は崩れて砂になっていく蟻の死骸を見下しながら、白衣のポケットに両手を入れる。それからこの懺悔室を出て、まずはカフェテリアで二か月ぶりのミネストローネを食す。

空腹を満たした彼女はそれから自由に様々な研究者の研究室に出入りし、論文や走り書きのメモなんかを読み漁る三週間を過ごした。そこまでくると流石に設備の連中から、「ペンウィー医師は仕事をさぼっている」「ペンウィー医師は遊び人になってしまった」などという噂が流れ始めた。自分の尊厳が崩壊していくのに耐えきれないペンウィー医師は、そこでようやく手術着に手をかけ、メスを握り、三か月ぶりに帝王切開を再開した。
「ペンウィー医師! 今までどこに行っていたんですか?」
「休暇さ。メス」
「あ、はい……」

おれはしっとりとした彼女に新鮮なメスを手渡す。ペンウィー医師は煌びやかな笑みを浮かべてそれを受けとり、妊婦の腹に乱暴に突き立てる。

発刊作用のある緑色の液体……。医者という肩書に酔っている酒飲みの男……。おれはシナプスの香りを上手く嗅ぎ分けてから学会に挑む。すると入場口前で女の看護婦が何かを配っている。
「これは?」
「は、はい……。学長が、配っておけ、と……」
「ふむ……」

おれは彼女が手に持っているものを自分から受け取る。それは人体を簡略化した図で、赤い色をした連続的作用が含まれていた。
「これは暗号じゃないか!」

おれは素早い動作で学会広場へと入った。中は暗黒で、映画館のように階段状に椅子が仕込まれていた。おれは三番目の列の右から五番目の椅子に座り、そのまま眠りにつく……。

二時間後、おれは自動的に目を覚ます。(ここでおれが素早く二時間の経過を理解することができた理由は、おれに生まれつき備わっている正確な体内時計による作用のおかげだ)そして右隣の髭の生えた研究員の肩を叩き、今の実験の予定を聞く。
「今かい? 今はペンウィー先生の番だよ」
「ペンウィーだって? あの破天荒医者かぶれが?」
「医者かぶれだなて……。あの方はここでは一番の執刀医だぞ?」
「でも性格が……。確かに顔は良いけど」
「だよな! おれなんてもう今月だけで十回もオカズにしちゃったよ! まったく彼女の顔はどうしてあんなにも性的なんだろうな!」

隣のダニルは飛び跳ねる思いで熱弁した。それは実際に飛び跳ねているらしく、静寂の学会の中で彼の飛翔はとても目立っていた。
「そこっ! 話を聞いていたのかっ?」
「え、もしかしてペンウィー医師って、地獄耳?」
「彼女は普通の医者じゃないからね」

2023年1月17日公開

© 2023 巣居けけ

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