竜巻と飛び上がる本棚に矯正されている独りきりの削岩機測定技師の大会……。ステンレス・ノート……。優秀なポケットから紙幣が飛び出ているぞ……。さらに調味料を足された器の中に双眼鏡を入れ、鉄格子を舐めている……。おれたちよりも熱のある渇いた水道代とはめ殺しの黄色い透明な窓たち……。
そして、第二のステンレス・ノート……。集団で下山をしているスポイトの脚の消防士たち。
「なあ、きみは朝礼を避けているのかい?」
「いいえ……」溶けて過ぎ去っていく砂漠のような分厚い声色を唇で演出して通り過ぎていく。
彼は、自分の全ての血管の状態を鏡で把握している。嘲笑の対象だった鶏の庭とテレビジョンの犬たち……。豪運の数学者が転ぶ音。
「アメリカ警察の極秘任務」という紙幣を山羊に噛ませて散歩を披露している。男たちがスパゲッティを担ぎこんでから商店街に雪崩を予測して硝子を割っている。中央のおれはキャンディを片手に階段を上がっていき、唯一の部長室のドアをノックする。
「入れ」鉄の塊のような動物的な低い声が向こう側から聞こえてくる。
忘れないうちに二度目のノックをする。出入り口の余韻を受けながら部長室に入る。
「君はカテゴリー・ビタミンという舞台を知っているか?」
「いいえ。自分はその手の界隈には疎いです」
「では、カテゴリー・ビタミンのステージで数学者が死んだ話は知らないな?」
部長は机に乗った銀色の板をおれに示してくる。「それはんですか?」
「ステンレス、ノート……」という声が昆虫のざわめきのようなさ中に心中の香りを醸し出しながら室内を駆け巡っておれに突き刺さっていく。
高品質な金属で構成された舞台装置のゲル状のトマトと塩水を含んだ個性的な地蔵のセット。看板マニアが駆け巡り、執刀の手順にキャラメル・ソースを温める。
おれは垢にまみれたパーカーを見下ろす。もう数か月はこいつと共に生活している。さらに机に置いた注射器を視る。そして視察に来ていた男たちの群れの香りと過ぎ去る分厚い風を思い出す。すでに完成していた書類に指から勝手に落ちる血の一滴を垂らす。注射器の魅惑の音がおれに昇進を願っている。
連結したオペラ歌手とマイクスタンド・ホームセンター……。一時の平穏がおれの背中を瘡蓋だらけにして入院を手助けしてくる……。女が傘を開き、おれの水を吸ってふやけている身体を迎え入れてくれる……。無気力の感覚の中で二つ目の肉まんを手に取る……。
さらに生粋のカフェ・アンド・ショコラを口に進める……。とろける氷のような鋭い激痛が歯茎を襲う。おれは悶えると共にスプーンを投げ出し、前方のコピー機マニアの後頭部に攻撃をしかける。
電撃、アサルトライフルと失敗だらけのサーカス・ファンファーレ……。おれはどちらかの坂を下るかを迫られている……。錠剤の音が耳の奥から鼻孔に貫き、太陽に刻印された少年の帽子が光って麺類をすすっている。
「完食したことを自慢したがっているんだな」と、大食い書記係が生徒会室の扉を開いている。そして足元にやってきた猫の喉を切り取り、生徒会室の奥の虎の模型の耳の位置にあてがう。すると隠し扉が開き、二階の図書室へと繋がる埃だらけの細い道が開いて誘っている。
「行ってみるかい?」書記係は生徒会長に問いかけながら自分の右の手の甲の瘡蓋を剥がし、床に捨てた。「一度くらいなら、さぼっても問題ないと思うんだがな」
「……でも、誰かが見ているかもしれないわ」
「誰も彼も自分のことばかりだよ」書記係は身振り手振りで空気感を流しながら面接の時のような声を出す。
「誰でも誰かを見ているんだよ」
生徒会長は紙やすりを手に取ってから書記係の後に続いた。
神聖な図書館の奥に鎮座しているステンレス・ノート。全ての対処法が書かれた帳の記入欄に、書記係は新しい項目を追加する。そして後ろの生徒会長に印鑑を押させ、ノートを新しい位置に戻す。図書室受付に戻り、何食わぬ顔で煙草を吸っている受付係に注文を付ける。
「何か?」
「ステンレス、ノート……」書記係と生徒会長が同時にため息のような声を出す。震える波紋の空気の中で埃が混ざり合い、受付係の火の付いた煙草ががくがくと揺れる。
「私はね、今の生徒会には期待しているんだよ」と、受付係は生徒会長に向かって軟膏だらけの右手の指を向ける。「例のパフォーマンスだらけだからね」その、蝉のような声で図書室全体が揺れ、いくつかの本はバタンと床に落ちた。
図書室の職員生徒がせわしなく動き、落下した本を元の位置に戻している。
「なぜ肩入れするの?」
「……私たちは、いつでも公平だからね」受付係は咥え煙草の隙間から器用に威厳のある声を出す。
「公平?」と生徒会長が叫ぶ。戻った本たちが再び床とキッスをする。「あんたたちは本の蟲なだけでしょう?」と生徒会長は受付係の軟膏を舐める。そして受付カウンターの中の図書カードを一枚抜きとって胸ポケットに入れる。すると、「公平なのは私たちの方だよ」と、書記係が指がぬめりとしている受付係に嘯く。「私たちが生徒会だから」書記係はくっくっく、と微小して図書室を後にする。
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