研究室。

巣居けけ

小説

1,123文字

いくつかの研究室で同時に実験が行われている……。おれたちは教授の種になるように仕組まれた試験管の中で泥を食らい、山羊特有の臭いをまき散らしながら断片的な現実の記録で四足歩行を執行する。

どんな山羊だって二足歩行を夢見ているかもしれないし新聞紙を食量だと思っているかもしれないし恋人を売りに出しているかもしれない。そして三日月の夜に人間の仮装のような皮膚の蠢きを呈している彼は、山羊としてとても優秀……。

おれたちが山羊を殺すとでもいうのか? そしていくつもの疑問と世界の山羊の数を照らし合わせ、紙切れごときに陰茎を切ることができるのだろうかと議論する。おい、美形の女研究者たちが白衣の取り合いで車を運転しているぞ……。「とめないのかい? 僕はいくけど」女所長の顔がチーズのようにゆったりと熱されて溶けている。山羊の風が吹き、蟲たちが機械の行動を開始する。所長が指揮棒を取り出し、自慢のウルフカットを占いに使えるほどに分厚い瘡蓋だらけの指で撫でてから扉を開いて投身自殺をする。

車に山羊が押し寄せて鉄の崩壊する音に共鳴している。鳴き声による授業で血飛沫のいくつかの教室が戸締りをしっかりとしているため、山羊たちは自分の二足歩行が十分に成っているのかを確かめたがる。教授のいくつかは蠢く黒のゴマに気を取られているため、山羊たちが木製の柵を飛び越える事を知らない。山羊たちはいつでも獰猛になれる準備を整えている。
「あんたは研究職の人間か?」その掠れた声たちは口から飛び出ると同時にクラッカーのような弾ける硬い物体の放物線を描いてから分裂し、研究室に集合している二足歩行を完璧にこなす山羊、数学だけの老いた教師、弟子の金髪男、コピー機修繕技師の男とその女中、なぜかカフェテリアを気に入っている研究者助手たちを各自ですり抜け、出入り口の白い扉を開こうと再度集合して素手の形を取っている。しかし再度の集合に失敗したため、出入り口に最も近づいていた研究者助手の白衣の先端にぶつかり、点々と散らばって床に染み込んでいった。
「彼は私の最後の助手だ」そして脱糞の音と共に腐った食物繊維の臭いがぷうんと漂って室内に流れて溶けていく。男たちは一斉に出入り口を見つめ、来るはずのないランチ・タイムのコック長の登場を三時間ほど待った。
「ああ、彼らには予定があったのか」そしてカフェテリア・マニアがようやく気付いて首を動かす。歯車同士がかみ合う音が鳴り、その他の男たちに動作を与えて健康に近づけた。
「私たちは取り残されたのではなく……。置いて過ぎ去ってしまったのですね……」女中が競馬の予測を中断して口を開く。彼女の特異な呼吸の方法で鉄が溶け、その香りが新しい手術台の形を成して室内の全ての扉を開閉して流れていく。
「全くもって、平然だよ……」哀れな閉じ込められ用務員たちに成り下がる音と共にため息を吐き続ける……。山羊たちの足音で眠気を誤魔化している信号機の男たち……。

2022年11月24日公開

© 2022 巣居けけ

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