思いやり法

破滅派18号「検閲」応募作品

黍ノ由

小説

7,703文字

失言、迷惑行為による炎上が日常化した現代、皆が皆を思いやることができたら快適な世界を作れるのでしょうか。誹謗中傷が規制された社会で人々はどうなっていくのかを描いた小説です。

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二〇二X年末、SNS上での誹謗中傷を苦にしたと思われる自殺者数が年間五百人を超えたことが明らかになった。

東証一部上場企業を対象とした調査では、部長クラス以上の管理職のうち実に二割を超える人が、自身の言動をきっかけとした炎上の責任を取って自粛した経験があると回答した。

問題行動を起こした人に対する批判が過激化すると、その批判内容自体の是非が問われ、過激な批判に対する批判を呼び起こすレイヤー炎上となることも、もはや珍しくはなかった。

批判の対象となった人々の多くは、自粛も含め身を隠したり、転居など環境を変えるのが一般的だったが、自殺者もあとを立たず、さらには自暴自棄になった末に通り魔事件を起こす者もあわられた。

これらを受けて、翌年には『誹謗中傷による人権侵害防止に関する法律』通称『思いやり法案』が可決されることとなった。

この法律に基づいて、あらゆるオンラインメディアの運営社には著しく人権を侵害すると見做される言葉を検出するシステム導入と、問題とされる発信者に対するアクセス制限などの対応が義務付けられた。

また、公共施設には、音声解析システムが導入され、問題発言については、管理責任者に報告と改善義務が課せらることとなった。

 

【誹謗中傷による人権侵害防止に関する法律(思いやり法)】(一部抜粋)

前文

我が国においては、近年ソーシャルメディアの普及に伴い、個々の思想、考えを、特定、不特定の他者に向け発するという形のコミュニケーションが発展する中での攻撃的、人権侵害的発信が行われ、その対象者や関係者に著しい苦痛が強いられている。

もとよりこのような不当な攻撃的言動はあってはならず、こうした事態をこのまま看過することは、ふさわしいものではない。

ここに、このような不当な攻撃的言動は許されないことを宣言するとともに、更なる人権教育と人権啓発などを通じて、国民に周知を図り、その理解と協力を得つつ、不当な攻撃的言動の解消に向けた取組を推進すべく、この法律を制定する。

第 一 章 総 則

( 目 的 )

第一条

この法律は、 あらゆる者に対する不当な攻撃的言動の解消が喫緊の課題であることに鑑み、その解消に向けた取組に ついて、基本理念を定め、及び国等の責務を明らかにするとともに、基本的施策を定め、これを推進することを目的とする。

( 基 本 理 念 )

第三条

国民は、あらゆる者に対する不当な攻撃的言動の解消の必要性に対する理解を深めるとともに、他者に対する不当な攻撃的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない。

第 二 章 基 本 的 施 策

( 相 談 体 制 の 整 備 )

第五条

国は、あらゆる者に対する不当な攻撃的言動に関する相談に的確に応ずるとともに、 これに関する紛争の防止又は解決を図る ことができるよう、必要な体制を整備するものとする。

( 教 育 の 充 実 等 )

第六条

国は、あらゆる者に対する不当な攻撃的言動を解消するための教育活動を実施するとともに、そのために必要な取組を行うものとする。

( 啓 発 活 動 等 )

第七条

国は、 不当な攻撃的言動の解消の必要性について、国民に周知し、その理解を深めることを目的とする広報 その他の啓発活動を実施するとともに、そのために必要な取組を行うものとする。

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2022年10月16日公開

© 2022 黍ノ由

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