佐藤健さまへ

牧野楠葉

小説

1,711文字

イグBFC3参加作品です。とても真面目に書きました。

当方、四十過ぎの独り身の女です。はじめまして。この手紙を書くまで、本当に勇気が入りましたよ。事務所に送りつけることしかできないのですが、大変光栄に思います。

あなたを最初に観たのは映画の宣伝動画でした。たまたま原作が好きで、実写化されると聞いて、どんなアクションになるのだろう? と、わたしが熟女ヘルスの指名を待っているときに考えていたのですね。あ、そうそう、わたしはSMを目的とする熟女ヘルスで働いているのです。しかしそれだけでは暮らしていけないので、ときどき卵子を提供したりして、ようやく暮らしているのです。四十超えての暮らしは、なかなか殺伐としていますよ。きっと、あなたさまは、これだけの名誉とお金があるのだから、きっと優雅な生活を送られることでしょう。あなたさまは、現在、三十三歳ですから、あと七年経てば四十歳になりますね。わたしはそのとき、五十ちかくになっています。それでも、あなたさまを愛し続けられるのか。その情熱の炎が、途切れるのが、怖い。なによりも怖い。だって、あなたさまだけがわたしの唯一の救いなのですから、それがなくなったら、なにを糧に生きていけばいいのですか。

卵子の話をしましょうか。わたしが卵子を提供する際は、あなたさまのことを妄想しながら出しているように思います。病院で、きっちり排卵日を測って、そのときに太い注射のようなものを膣に挿入して、採取してもらうのですが、それをあなたさまの尊い男根だと思って、案外気持ちよくやっているのですよ。じゃないと、誰が毎月病院に行くものですか。わたしだって、あなたさまと比べるのがおこがましいですが、案外忙しいのですよ。わたしは店舗型で働いているのではなく、派遣型、つまり、デリヘル嬢なのですから、いつどこどこのホテルに行け、と連絡が絶え間なくやってくるのです。SMのなにがそんなに楽しいのかわからないのですが、おしっこを飲む男性は意外と多いのです。

今度はなぜ連絡が絶え間なくやってくるのかについての説明をします。わたしは昔韓国で顔を全面的に変えたのです。費用は、そのとき付き合っていた医者の男性のクレジットカードを何枚か盗んで、確保しました。これは犯罪ですね。ただ、その男性は、よく酔っ払って帰ってくるので、あれ、なくしたな、ぐらいだったのですよ。そして、そのあいだにわたしはケータイを破壊して、連絡先を完全に絶って、家を引き払って、韓国に逃げました。そして、男性のクレジットカードを使ってしまってから、ハサミで切って、燃えるゴミとまとめて捨てました。整形が終わって、ダウンタイムが終わってからも、わたしはしばらく韓国で暮らしていたのですよ。韓国ではいろんな風俗店で働かせてもらいました。日本人の需要がとても高いのです。いい暮らしをさせていただきました。しかし、唯一の肉親だった父が倒れ、わたしは日本に戻りました。

父は朦朧としており、認知症が進んでいたのか、戻ったわたしを驚くことなく受け入れてくれました。そして緩やかに死に、わたしはその家でひっそりとあなたさまを画面越しに見つめているのです。SMをやりながら、卵子を提供しながら、日銭を稼いで、あなたさまのグッズなどを集めているのですよ。素晴らしいと思いませんか。わたしの恋の報告、長くなってしまいましたね。末筆ですが、これからもご健闘を祈っております。それでは。

いえ。卵子の話を続けましょう。卵子というのは、人間の生命の船なのです。あなたさまも、わたしも、元はといえば、同じ船に乗っていたのですよ。これからはじめたい事業があります。それは、卵子ツクールというオンラインサロンのようなものを想定しております。卵子提供している女性を募って、もっと卵子よ! もっと卵子よ出でよ、と願い、そのモチベーションを上げるために、あなたさまの写真を堂々と飾り、皆で拝むのです。もうその用意は整っています。
末筆ですが、また卵子ツクールのご報告も致しますので、定期的にお手紙を送らせていただきますね。ご健闘を願っております。卵子の話が興味深い、参加したい、ということであれば、連絡先も書いておくので、お気軽にラインをしてください。

2022年10月15日公開

© 2022 牧野楠葉

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