君は確か、麻雀を嗜む人間だったよね? なら、この前の一階と二階の騒ぎについて、誰よりも詳しいんじゃないかい?
どうだろう? ははっ、もう飽きてしまったかい? でも、すでに君の独房には、新しい珈琲の豆が届いているはずだよ。ほら、ここにもサンプルがある。いや、これは実際の豆ではなく、あくまでサンプルだからね。これで旨い珈琲を作ることはできないよ。残念だね。
おっと、私が今『旨い』と言ったことに気が付いたかい? そうだね。私は対人の相手や場面によって言葉を切り替えているんだ。だからこそ、この歳でこのポジションを獲得したんだ。君も見習うと良いよ。私はどこまでも吸収的で、伸縮自在なんだ。……君もかい?
『木曜日の眼鏡』と題された恐慌の作戦を知っているかい? 今から八十年以上前に発行された作戦の名前なんだが、この時の命令執行委員会の連中が、今の摩擦委員会の原型なんだ。だからこそ、摩擦委員会の室内には国旗がいくつも飾ってあるし、君の個室にはテーブルクロスが挿入されているんだ。そういえば、君はココアの作り方を知っているかい? どうせ珈琲しか飲んでいないのだろう? 馬糞を使わないココアは、この研究所では確かに珍しいけれど、作り方を熟知しておいて損はないよ。
ところで、君が私の推薦で摩擦委員会に就いてから一か月と三日が経つけれど、その後、どうだろう。君はとても器用で、小さな穴に糸を通すことができる人間だからね、おそらく好成績続きなんだろうけど、あそこの調理係は信用しないほうがいい。将来、私のこのポジションを獲得したいと思っているのなら、彼には厳格な目を向けておいたほうが良いだろうね。
ええ? なるほど……。やはり彼は君の器用な素手を妬んでいるようだね。やはり彼は特注の肉弾だね……。いいや、私が構成に居た時は、彼はまだいなかったよ。……そうだ、私が赤い眼鏡を掛けていた短い時代だ。
君もどうせ、持っているんだろう? 君は抜けた歯をいつまでもトレイに乗せて保管するタイプの人間だろうからね。だろう? ほら、当たりだ。やはり君は管理職の人間として優秀だ。将来は明るいぞ。私のようにね……。間違いなく彼は君の席を奪おうとしてくるだろうけど、君ならどうとでもできると思うよ。私もできる限り手助けはするし、安心して職務に忠実になっていてほしい。
氷は最低でも三つは入れておいてほしいんだ……。頼むよ。
さて、そろそろ時間だ。私も君もまだ仕事が残っているだろう? ここでの話は他言無用だ。ほら、誰にも見つからないようにこっそり抜け出そう。そして互いの職務に戻るとしよう。忠実にね。
なあ、最後に聞いてくれ。……君はもっと、衝動的になれば良いんだよ。そうすれば、君の得意分野を存分に活かせるはずさ。
今後の活躍に期待しているのは、私だけではないはずだよ。
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