「ふふんふんふんふん…と」岩橋は何が楽しいのか競馬新聞を鞄に入れたり自席のお片づけをしている。いい子である。
「ああやだなあ・・・早く帰りたいよ」僕がため息つきながらそう言うと・・・。
「ほんじゃ帰りゃいいじゃん・・・」って穂田が冷たく言う。
「けっ、自分だって帰りたいくせに・・・」
「いや、俺はほら、早く帰ってもなにもないからさ・・・」
「俺だって、もう従妹はいないしさ・・・はあ・・・帰ってもオナニーするぐらいしかないな」従妹のU子は東中野の駅前にあった青林堂書店の店員と同棲を始めていた。
オレと穂田とでぶつぶつ言っていると…。色白の岩橋が僕と穂田を見て…。
「君たちは、ぬわにを言ってるのよぉ!さあ、池袋に行くんじゃないのお!!!レッツ・ゴー・ブクロイケ!!!」岩橋はもうノリノリである。 「あっちゃーーーー」僕は情けなくため息をついた。
僕たち一行4人は、大塚駅から山手線に乗って隣の池袋で降りた。そのまま池袋の駅地下街を東口の方に一列に隊列を作ってエッホエッホと歩いていく。ひとり…先頭の岩橋だけがスキップを踏むようにうきうきと早歩きしている。最後尾のワタナベくんは、腕組みし、気障っぽく自分の顎を右手で支えながら、ひとりでニヤニヤして歩いている。腕を振らないと歩きづらいだろうにな…白いはげ頭には真っ赤なマフラーが似合いそうだな…とかと僕は思っちゃう。あまりにも気になってしかたがないので僕はワタナベくんの横に並んで歩いてあげた。
「ワタナベくん…なんでニヤニヤしてんの?」素直な僕が素直に聞いた。するとワタナベくんは異常に驚いたように 「へっ!べ、べべ、べつになにもおかしいわけじゃないですよ…」と答える。ワタナベくんは普通に聞くと、異常に答える。普通と異常が逆転しているだけなんだろうな。並んで歩く僕をちらちらと見ながら、またまた右手を自分の顎に持っていっては探偵の様なポーズのまま歩く。姿勢がいいから、その姿はかなり面白い。
「編集長、ロサ会館の方すか?」穂田が聞くと「どっちだかオレにもわかんないんじゃないのぉ! とにかくこっちなんじゃないのぉ!」岩橋は根っからのいい加減な男だ。それに岩橋は“本能の男”だ。まだナビゲーション機器がない時代にナチュラル・ナビゲーションを搭載しているのだった。SEXと金のある方にチンコが向いてしまうのだった。
しばらく歩くと薄暗いネオンの光のなかに普通のキャバクラが見えた。ここか? ウスっ暗い店だなあ…。
「おお、ここここ。こっこなんじゃないのおお! バニーガールキャバクラじゃないのおお!!!こんちはあああああっ!!!」岩橋が先頭になって入店した。
「ええ?ここはボッタクリバーみたいな雰囲気だな。穂田くん…」
「うん」
ワタナベくんは相変わらず探偵のように店の外観を見ながら「ふむふむ」とひとりでうなずいている。もしかしたら入店したら殺人事件が起こるのだろうか?
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