医者と妖怪。

松野焔楽

小説

6,342文字

主人公の白金勇希は精神科と外科を掛け持ちしている23歳の医師。自分の患者であり、親友の2人を殺人鬼に殺され、今日は2人が死んで3年後の命日。墓参りを終えた帰り、神社の境内で勇希は三尾の狐ルタとカラス天狗ラゴと出会う。ルタとラゴは死んだ親友2人に何処か似ていた。そんな妖怪との出会いから1ヶ月の間に、勇希に起こった奇跡の物語。
(現在未完成です。)

次の日、ラゴに誘われて俺は隣町の商店街に行った。ラゴは結構お喋りが好きで、森の奥にある樹齢何千年の巨木をこの町の人が守っているからこの町は平和なんだとか、いろんな事を俺に教えてくれた。博識な龍大が、俺の知らない事を教えてくれたように。思えばラゴの佇まいや雰囲気は龍大に似ていた。俺と一番の親友だった龍大はもう居ない。俺が助けてやっていれば、龍大は死なずに済んだ。殺されずに、まだ生きる事が出来た。考えないようにしようとしても思い出してしまう。次第に涙が溢れて来た。
「主…!?どうされた!?何故泣く!?我は何も泣かせるつもりは…っ!」
ラゴも目の前で俺が泣き出して驚いたらしい。驚きながらも優しく俺を抱きしめて落ち着かせようとしてくれた。
「ラゴ…此処だと人目について変な風に見られる。」
「主…少し場所を移そう。我に掴まれ。」
ラゴは俺の気持ちを察して、人目につかない鬱蒼とした茂みに俺を連れて行き、そこでずっと俺が落ち着くのを待っていてくれた。20歳過ぎた大人の男が何で大泣きしてるんだ。俺は自分が情けなく感じた。
しばらくして其処にルタが駆けつけてくれた。テレパシーを使ってラゴがルタを呼んだらしい。ルタは俺に近づくと、ふわふわの尻尾で包み込んで涙を拭ってくれた。何で、ラゴとルタは俺の傍に居てくれるんだろう。
「旦那が泣いてると俺達も寂しくなりやすぜ。笑ってくだせえ。」
「主、我々の主。泣くのは似合わぬ故、笑った方が利口かと。」
その言葉を聞いて、俺は言われた通り、笑ってみせた。涙を吹き飛ばすような笑顔で。それからは、泣かないように努力をしようと決めた。

2019年1月28日公開

© 2019 松野焔楽

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