デラシネ議事録

八壁ゆかり

小説

39,186文字

誰もが一度は経験する『離人感』や『現実感の喪失』、それが過度になると、人間はどうなるのか。

つまり問題は、この記録がどのようにして得られたかではなく、ここに記されている人物の感情、体験、思考、そして自己からの逸脱といった現象が、昨今若年層を中心に世界規模で急増しているという事実です。

英語圏では昔から主に「DP/DR」等と呼ばれ、これは「離人的感覚」と「現実感喪失」の略ですが、こういった自己の異変、違和感は決して珍しいことではなく、誰もが何らかの形で体感するものとされてきました。

しかしこの一、二年の間、日本でそれを訴える若年層、主に十代後半から三十代前半で男女比は同等ですが、彼らが抱える離人感や現実味のなさ、そして『自分が自分でなくなる』という感覚は、ある意味で従来の離人症性障害や解離性障害等の精神疾患とは異なるものだと我々は考えており、一部の識者やメディアが言うような、インターネットへの依存やスマートフォンの普及、即ち現実世界での他者とのコミュニケーション不足が原因だという説は、根拠が希薄なように感じられます。

昨今、これらの現象、もしくはそれを抱えている人間のことを、インターネット・スラングで『デラシネ症候群』と呼ぶ者が増えています。これは蔑称ではなく、そういった違和感・不安感を抱く若者達が自ら名乗り始めたものです。

『デラシネ』は『根無し草』を意味し、換言して、母国や故郷から切り離された者、という意味ですが、『デラシネ症候群』の罹患者は、他ならぬ自分自身から切り離された状態にあり、その違和や恐怖は強烈で、日常生活から仕事、学業にまで支障を来す若者が増えており、可及的速やかな原因の追及と治療法の確立が不可欠です。

ここに挙げる記録は、『デラシネ症候群』の中でも特に重篤なケースです。この男性のような犠牲者を増やさないためにも、記録をご高覧頂いた上で、研究及び治療のための予算の確保をお願い申し上げます。

 

2018年8月12日公開

© 2018 八壁ゆかり

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