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ハチミツの種

合評会2026年3月応募作品

猫が眠る

必ずしもその小説ではないけれども、女性の「さが」が手を伸ばす方へテキストを放ってる。

タグ: #レズビアン #官能 #実験的 #百合小説 #純文学 #自由詩 #合評会2026年3月

小説

5,385文字

喫茶店で斜向かいに座った女性の秋波を感じた。
しはその女性に、にこり、と仄かな否を返した。白け気味に往なしたつもりでいた。 それなのに彼女は、飲み終えてない珈琲をそのままに、立ち上がり、つと、わたしのまえま で(秘めた肌を嗤うように)歩いてきた。目線は伏せたまま、睫毛がナイフのような輝きで、 それはペルシャ猫の概念を思わせた。

「座ってよろしいか知らん」 わたしは黙って肯首する。
グラマラスな肌が隠れているのを仄めかす服でいて、わたしの方をすぅっと眼差した。 彼女はわたしの前に座る。椅子の革の使いこまれ方をじっと観測するかのように椅子の 革を撫でる。

「私、ちいさなころ、目の悪い人に憧れていたの──」急に彼女は話し始めた。 わたしはそれを聞きながら、南アメリカ大陸の小児性愛者のセックスについて思いをはせ ていた。

彼女の話が、それとなく終わりにさしかかってきたところを見計らって、それとなく彼女の横顔に視線の指を這わせてみる。彼女の顔は一見してミクロに見ると曖昧にも捉えられるが、全体像をみるとプロフィルがまるでギリシア彫刻の様に彫りが深く、整っている。

「もし差支えなければ、」わたしはセンシティブな話をする前の様に言葉を区切った。

「血縁の方に西欧のひとがいらっしゃるんじゃないでしょうか」と尋ねるわたしの鼓動は雪の降り積もる様に、問いの中にしなやかに宙に鳴った。

「いいえ、気になさることなくってよ。」わたしの躊躇いを見て取ったように、ここに、さりげなく。

「知る限りなので恐らくなのだけれども、私の家系にその気配は感じられないわ。父母を見る限り、遺伝とも思えないし、さながら突然変異でしょうか知らん」

わたしは、さきほどまで彼女が話していた内容の中にぼんやりと彼女の父母の性交渉の場面を説明していた箇所を見て取った。チャーミングなことに、彼女が言っていたその風景は悲哀のおもむきのある懐かしさに彩られて、文中に一切の水分を排除していた。

細やかな彼女の言葉選びが、その風景を物語るからこそ会話の中に置くことのできた写実的な情景のはずだった。わたしはこころのなかでそのことに言及して、瞳の呼吸でそのことにお礼を言った。

その後には、おそらく彼女には共鳴する単語の順列があったはずだと思う。

うかつに言う事はできないが、彼女は生きていることを諦めた人間なのだと思う。どうしても、その場所にいけないことを嘆きながらなんて、美しいことはできないわよ、なんて言って。

うつらうつらしていると、

とん

とんとん、

とんんとんんとん、と音がして、

時々わたしが出てくることのあるような、この異次元(この言葉考えた人凄いわね)の小説を聞いてますか? わたしの言葉、聞こえてますか。なんとか衣擦れの音が聞こえる速さで、神様が二つ、顔を出して窓に並んだ。ずーっと続けることには可能性に満ち溢れています。

あなたはわたしの言葉で語りなさい。以上。

──

彼女とわたしは喫茶店を出て山に登ることにした。まだ朝陽が眩しい春の事だった。

彼女はわたしの手を引いて「いくよ」と言った。

手をつないでいると彼女の手の骨の形がわかる。わかる。滑らかな肌と、つめたい骨。

「え? わたし、ここが日本だなんて言ってないよ。」とわたし。

その声と共に彼女は小さな少女になっていく。

ふんわりしたレースの白いゴシックな着せものを彼女はマトリョーシカのようなかわいらしさで着こなします。

緩やかにわたしたちの輪舞が始まっていく。

「偽物のかたち。」「わたしのもの、あなたのもの。」「それもこうしてあなたのものなのです。」

わたしたちは山に登ることにした。

小さくなった彼女はレースの服を着てわたしの肩のうえにちょこんと乗って嬉しげである。

わたしもワクワクしてきて「ほらわたしたちみたいにラブラブで山のぼっている人なんていないんだから」

ほかの登山客は黙々と山を登っていく中、わたしたちはキャキキャキャと子供のように話しながら、踊りながら登るのでした。

踊りながら登るのに、なんでこんなに早いのでしょう。わたしたちは他の登山客を置いてきぼりにして、南アルプスの山頂に登ってしまったのです。山頂でやっほーなんて言うかと思ったら、違うの。

わたし、彼女のこと山頂からなげちゃった。そしたら、彼女、ころころ転がるかなぁって思ったらね。ころがらないの。ふわぁって浮かび上がって、「登頂おめでと!」なんて言うの。

かわいいでしょ!

草原に広がるのは蒲公英ではなくて、広がらないただの一本の月見草。

「あなあたはmoon?」と尋ねると、彼女はぼやけた輪郭だけの「ひとじたい」になってしまって、「キス……。」と涙をこぼすこと。

わたしたちはどこにだっていられるんだもの。あとは涙を流すだけ。

わたしは彼女に尋ねてみた。

「エロ本ってどこでだれが買うんでしょうね。」

「え? わたし買うわよ」

わたし、ドキリ、としてしまって、それから言葉継げなかった。

innocent. 彼女の欲望には誰の……希望になるのでしょう。わたしと彼女の間には開かれた紅いドレスがある。

雪に吹かれて、彼女とわたしたちのドレスは滲みは小さな妖精たちの間に膾炙していった。声よりも声にならない声で、わたしは彼女に懇願する。

「せめて足の薬指をガーゼで拭かせて。そうしなければ唾液の糸が垂れてしまうの」「しかたないわね」彼女はいつだってあきれ顔である。

鏡のない所に、わたしたちはいない。太古に贈られたもの神器のひとつに鏡があったことはなにをわたしたちにさしだしたか、わたしたちは考える必要があった。

「私に手鏡を頂戴」彼女はそう言った。

わたしは彼女の意図を計りあぐねて、薄くなったキャンディをかみ砕いてしまった。

「手鏡を頂戴」

「手鏡を」

「手鏡を」

闇が忍び寄るときには、彼女は時にメデューサになる。

朝焼けのしののめに、彼女は「バカ!」と怒鳴る。あたかも不当に自分が光に充てられたかのように。そういうときわたしは、彼女を憎々しく思う。わたしが鼠だったら彼女はチーズだ。スイスのチーズだ。わたしは本当に灰色の鼠として彼女を食らいつくしてしまうだろう。

眼鏡をかけているときの彼女はわたしに、存在のわからなさを提示してくる。彼女のそのようなあざとさがわたしに欠落した、あたかも喪われた空腹をもたらすのだ。

わたしはパンを焼いて、紅茶を淹れて飲んだ。終わりは何かの始まりでもある様に。

「誓ってはならない、約束してはならない」彼女は呪文のように繰り返す。わたしはそのたびに黙って首肯する。わたしがそうすうると、彼女は満足げに笑みを浮かべて、隣の花屋さんで、その時々の花を買ってきてわたしに渡す。

今日はくちなしの花だった。馥郁としたかおりに噎せそうになるのを堪えていた。空腹は絶頂に達していたので、くちなしの花びらを千切ってむしゃむしゃと食べた。

「あははははは!あははははは!」彼女は愉快そうに口を大きくあけて笑った。その吐かれた息を空気清浄機はよきものと判断し、青いランプが光った。言葉は螺旋階段のように彼女の臓器を上ってくる。つまり食物と逆流するように昇ってくるのである。こめじるしがあたかも逆立ちしたような形で。それを彼女は頷くわけでも否定するわけでも、ない。

眼鏡をかけた彼女は理知的で好い、でも、眼鏡をかけてない彼女もカールした髪型と相まってかわいらしい。別れるたびに、わたしは今度会ったら彼女の爪を繊細なやすりで研ぎたいと思う。そうして、彼女の艶やかなネイルにうっとちりとするのだ。それがわたしの仕事であり、わたしの欲動なのだから。

わたしは、彼女と出会ってから、身だしなみに気を遣うようになった。

ピアスを開けるとき。一度目のピアスを開けるとき、わたしは(痛いのかな)と少し思った。でも、心地いい彼女の腕のなかに包まれたわたしの耳たぶの感覚は、案外優しいものだった。かわりのないやさしさ。かわりのいないやさしさ。そのやさしさで、わたしを、つらぬいて──。

iiko iiko iiko kawaiiko . 大切にしたいなぁ。この想いを。そのためにはわたしは何でもする。そう云う決心でいる。手紙でも葉書でもなんでも送ってやる。彼女の家に。とにかく贈りまくる。そうしたら彼女のこころはもっとモーレツになるかもしれないのだ。モーレツになった彼女のこころをぎゅってして、ぎゃってして、ぎゅーーーっとするの。彼女の骨も折れちゃうかもね。背骨ばきってできるほどに彼女をわたしは──■■■■■■■■■■■■■■■■

彼女と遊園地にいくとかならずメリーゴーランドにのる。彼女が白馬に乗った姿はとても美しい。見惚れている間にわたしもメリーゴーランドにのってぐるぐるまわっているうちに、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

メリーゴーランドに乗っている最中にわたし吐いちゃった。終わった後で、白馬の王女様(彼女)がきて、私の吐しゃ物を少しさわって

「冷たい……」

わたし笑っちゃった。そしてまた吐いた。彼女は麗しい睫毛を伏せてその様子を見て、

「すべては、思考の渦は、下から入って螺旋状に口から突き抜けるのだわ」と呟いた。

「なんてうつくしいことかしら」

わたしは吐き気で未だによろめいていた。係員のひとの支えられて、わたしは外に出たが、彼女はまだそこにいた。

彼女は不安げな私の表情に気づくと、「あらまぁ」とわたしのことなど埒外で、吐しゃ物に見とれていたかのように、わたしのことを「蔑んだ目で見つめた」って彼女が言ったのよ。わたしはそんなことの意味もわからずにただただ係員の肩に突っ伏していた。

彼女の工学的な脳が彼女の綺麗な指先に指令を出して、わたしの髪にまっすくな指先を触れさせた。

わたしの髪の毛には触覚があるかのように、彼女の指先に触れられて、わたしは吐息を漏らした。

「チェロスが食べたい。」なぜ吐息と共にこんな発生をしたのか自分自身でも謎だったが、彼女は何事もなかったかのように、私の髪の毛の間に差した指を抜き取って「食べに行きましょう。」と言った。

わたしたちはテュロスを買った後、観覧車に乗った。観覧車は反時計回りだった。わたしはどこか違う、と感じた。回り方ではなく、どこかが。わたしと彼女は向き合って座り、各々のチュロスを食べた。・彼女のはシナモン風味で、わたしのはチョコレートだった。

「交換しよっか」と彼女が提案した。食べかけのチェロスの端をわたしに突き付けて。わたしにすれば願ってもないことだったが、わたしあは「こくん。」と声に出して、自分のチェロスを彼女に差し出した。

彼女はすばやく、蛇のように、私の差しだしたチョコレートのチュロスに噛みついた。そして笑って、

「ふふ、美味しいわね、さあ、あなたもどうぞ?」とわたしにシナモンのチュロスを差し出した。わたしはチュロスにかかっているパウダーだけふーっと吹いて、彼女の顔にかけた。

工学的な彼女の顔にはシナモンパウダーという如何にも有機的なものがかかった。彼女はパウダーは化粧だけじゃないことを知ったかのように、「薄いくちびる、紅は朱に染まる」と唱えた。

わたしは彼女の朝を迎えるための準備をした。

あくる日、彼女は未明に路地に立っていた。「こんにちは。」「あ、おはようだわ。」道行くひとに彼女は挨拶をしている。わたしはそれを動画に撮っていた。彼女はわたしが彼女を動画に撮っているのを知っていた。

彼女は「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」一日中続けた。わたしは一日中彼女のことを撮っていた。

わたしたちはとにかく無我夢中だった。

「青春があるなら赤春があってもよくなくて?」「何て読むの?アカハル?」

そうわたしたちは毎晩泣いて、坂道を歩いたのだったのだわ。どこに暖簾があるの?

隙間から鋭利な朝をわたしにください。そこにある光がわたしであるなら、いつか青い息吹が鯨が潮を吹くような海で、わたしと彼女のことをだけ愛してください、と神様にお祈りしたわ。

そうでなくとも雪のつもる日々にセンキューを湯気とともにお届けするよ。

「温泉に行かない?」と言ってみた。「あたしここがいい。」

「混浴じゃん、いいの?」「いいんじゃない。近いし。」

湯河原温泉と云う温泉にわたしたちはバスで向かうことにした。バスは早朝八時四十分発車。

行ってみると昔ながらの街並みに木造の家屋に暖簾があった。空はあっけらかんと晴れていて、佳い日になるに違いない、と思った。暖簾をくぐるときもちのいい、まさに泉というべき紺碧の青々としたおわん型に掘られた温泉があった。どういう仕組みかはわからないが、中央の蟻地獄の底となる部分から温泉が吹いているのであった。勢いよく吹いてくるものだから、水辺の表に温泉の水が迸っていた。

入っているのは男性も女性もこの湯を愉しんでいる様であった。混浴と身構えてきたのが馬鹿らしかった。彼女は特段かまわず、服を、上から白いシャツのボタンを一つ一つ外していき、するりと柔らかな上半身を顕わにした。わたしは、ちょっと困ってしまって、

「先、入ってていいよ。」と言い、彼女が脱ぐのを見ていた。スキニージーンズは彼女の女性らしさを表すのにぴったりだったが、彼女がそれを脱ごうとしたその時、あまりにも艶めかしくわたしには見えていたので、わたしはトイレへ駈け込んでしまった。

© 2025 猫が眠る ( 2025年9月12日公開

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