統計学と文学――文学にも統計学を――

𝔚𝔞𝔨𝔢𝔦♣︎𝔜𝔞𝔡𝔞(ぽんきち)

評論

1,438文字

計量文献学という領域からのアプローチをみる

文学研究の領域に、統計学を導入するというアプローチが、近年になって試みられ始めた。村上正勝氏の『文章の計量分析――その歴史と現状――』(https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl1962/39/3/39_3_216/_pdf)という論文には、旧約聖書や新約聖書、および紅楼夢などの過去の小説などの作者の推定などの成果が、網羅的に論じられている。
我が国ではこうした観点からの文献学的アプローチはまだ珍しい。一部英米文学のアプローチによって、T・S・エリオットの『荒地』が、当時の新聞などの引用からなっているということを示す研究が、『『荒地』の時代』(荒木正純、小鳥遊書房)という書籍からは見出されているが、例えば馬路まんじの小説の文体や発言を分析して、その正体が男か女かを推定するなどという研究結果は聞いたことがないし、また需要がどれほどあるのかもそう簡単には言えない(科研費が下りないかも)だろう。しかしながら、ドナルド・トランプのTwitterの発言から自動で株の売買を行って利益を生み出すアルゴリズムが作られた例がある(https://www.afpbb.com/articles/-/3116032)ように、現代作家の発言というのは今を生きる存在であるから、彼らの発言一つ一つが利益に直結する可能性はなきにしもあらずだ。

こうした計量文献学的なアプローチは、欧米圏では非常に盛んなので、日本の文学者も積極的に取り組んでいくべきだと私は感じている。実際、『数字が明かす小説の秘密 スティーヴン・キング、J・K・ローリングからナボコフまで』(ベン・ブラッド、DU BOOKS)には、男性作家の書き方と女性作家の書き方には比較的はっきりとした区別があることが書かれている。例えば、同書によれば、Chief, Rear, Civil, Bigger, Absolutely, Enemy, Fellows, King, Public, Contactといった単語は男性作家が使う傾向が強く、Pillow, Lace, Curls, Dress, China, Skirt, Curtains, Cups, Sheets, Shruggedといった単語は女性作家が使う傾向が強いという。今まで日本で英語を学習していた人たちは、「英語には男女の区別がない」と漠然と思い描いていたかもしれないが、男女間の不均衡がある単語が存在するというのは、実際にカナダ留学をしたことがある私の経験を踏まえてもごく自然な分析結果であったと言える。

翻って日本では、こうした言語の分析において、ni_kaの『女子的ウェブ文化とブログ詩の誕生』(文学+ 第一号)は、ブログ詩のメディア性に着目したメディア論だが、カラーパレットを参照して使える色の数などを調べているという意味で、非常に意義深い論考であり、文学に対する統計的なアプローチに近いものを私は感じている。
実際、今現代において話されている言葉の流行は、若い人と話すとより顕著に感じられる。27歳の私には今大学生の友人がいるが、面白いと感じたときには彼は「草ぁ」と言うし、この辺りの感性の機微を小説に落とし込んでいる人は、現代文学にはそう多いようには思われない。例えば竹取物語の作者さえ不詳であり、統計文献学的に検証した例を私は知らない。これからの文学研究には、数理という大いなる可能性もあるのだということを言い添えて、今後の可能性に大いに期待したい。

2020年3月30日公開

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