私小説

山谷感人

エセー

1,269文字

 無聊な故、軽く語る。

 私の小、中、高の先輩に吉田修一なる作家がいる。個人経営の小さな酒屋の息子だ。今も店は有る。『悪人』とかで先輩を御存知の方もいるだろう。現在、芥川賞の選考委員だし。
 普通、こうなると地元では英雄である。だが然し実際は真逆である。所謂、界隈の誰それの悪口を書いた馬鹿、高校の友達を馬鹿にして書いた、彼の描写で傷付いている普通の主婦がいる、などなど嫌われている。実際、パイセンが地元の何かしろのイベントに来る事は、ない。ココで考える。田舎町の皆さんは私小説と云うモノを判っていないのである。
 そもそも小説とは一部を除き虚構、非日常の世界である。カフカを読んで「あ、自分の事が書かれている!」と思うお馬鹿は流石にいないだろうが。
 私小説の場合、こうした書き手からすれば当たり前体操を共有しない人々が跋扈する訳だ。吉田パイセンにしても「私の事を悪く書かれた」「事実と違う」と言われても苦笑するしかないし、そもそも実名ではないだろうし本当の事は我々には判らない。何人かの人物を組み合わせた登場人物かも識れぬ。貴方が感じた「私」ではない可能性もある。更に云えば私なら芥川賞作家に数行でも「あ、これは私の事か」と感じる嫌な描写が有っても嬉しく思うが、田舎町の皆さんは違うらしい。
 蒲団。そもそも私小説とは自然主義が西洋から影響を受け流行りたしたモノで、その最大の一発屋の田山花袋の事は御承知だろうがラストの部分も含め「事実は八割」と述べた文献を読んだ。相手の女性も反論しながらも認めている。
 火宅の人。これはほぼ合意の上で書かれている為どうしようもないが檀一雄が他界した後、女性が出したエセーで「事実は八割」と、これもまた書かれてあった。まだまだあるが長くなる為、止めておこう。
 私小説は事実が八割。それが普通なのである。盛り上げる為に面白おかしく創作を入れる。逆にそこが作家の腕の見せ所ではないかしらん。ハナシが変わったが。
 吉田パイセンの件に関しては、何と云うか……自己愛が強すぎなカントリーの方々なのだろう。こうしたモノホンに関わったら例えば私がアルコホルを呑みながら適当に書いているエセーにも読んだら「自分が書かている」と言い出す可能性はあるし、また、私が中心部を歩く時、必然的に元ワイフと愛猫が暮らす建物前を通るので会えないがニャーと愛猫は聴こえるだろうから挨拶をしている、泥酔時は特に、なるのを読んだら「不審者、不審者」「通報、通報」と騒ぐのだろう。そんな大声で何回も叫ぶ筈がない。窓に向かい、一回だけ周囲の迷惑にならぬよう愛猫としていたサイレント・ニャーである。これまた、八割の法則である。
 吉田パイセンが地元に愛着がないのは判る。もう一度云うが「事実と違う」の事実は我々には判らないし、「私の悪口」は貴方、「私」じゃなかったらガヤ芸人で噴飯モノである。
 そうして芥川賞作家の作品に、たった数行でも登場した事への罵詈雑言での地元で売名行為か、と良識ある人は思うので止めた方が良い。
 以上。

 私小説論に付いては、体調不良な故に、また落ち着いた時にゆっくり語りたい。
 

2024年10月17日公開

© 2024 山谷感人

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