読み応えがあって面白かった。早く結末を知りたい。
16章までの展開で若干、本郷弁護士の狙い通りすぎじゃないかと思われる感じがあるが、これこそが狙いなのだろう。警察と検察に対する絶対的な不信感、復讐がテーマであり、彼らの化けの皮を少しずつ剥いでゆくことが目的なのだと思う。
石田うめ殺人については、平沢精二郎が実の犯人であり、主人公日高英之の父は冤罪であったこと、は確定しているように見える。警察の捜査が杜撰だったのは、警察の「知的障害者」に対する偏見であり、平沢精二郎は実の兄を犠牲にしたことになる。後ろめたい気持ちから、石田うめの遺族や兄の遺児である英之に援助をしたのだが、それが足が着く遠因となった。
ところで平沢精二郎殺人の方は、日高英之以外に動機のある人物が登場していない。公判では本郷弁護士により、動機の遺産相続、証拠物件の車のキーなど検察の主張が覆されている。
それでは誰が平沢精二郎を殺したのか?
あるいは自殺だったのか?
これは日高英之が仕組んだ壮大で緻密な復讐計画であり、その意を受けた本郷弁護士が知力と経験値を総動員して、平沼康信の冤罪を雪ごうとしたのだと思う。
しかしそのために英之が犯罪者になってしまってはならない。
平沢精二郎殺人の犯人は英之である。が、実際には手を下していない。ランオンの仕組みは分からないが、リモートか時間差で不完全燃焼が発生するように事前に仕組んでおいたのだと思う。事件当日、嵐の中をコンビニまでわざわざ出かけたのは、警察に疑わせて犯人に仕立ててもらうための工作である。
念入りにアリバイも作っておくが、それは裁判まで発覚しないようにしておく。遺産相続が動機にならないことは取り調べ段階で主張できそうなものだが、「聞かれなかった」から、と警察の恣意的な取り調べの方へ責任を持って行く。
こうして裁判を有利に進めて勝つのは確実という状況になってから、検察側も英之・本郷の真の目的に気が付くこととなる。英之の父の冤罪を証明することこそが目的だと気がついた検察は、松根の「師匠」である藤林の出廷を拒否する。英之の無罪は致し方ないが、石田うめの事件だけは絶対に覆されてはならないと判断するのである。
しかし英之の命を懸けた計画は父の冤罪を証明することであり、自分だけが無罪になっては意味がない。本郷弁護士はここで手を引くべきだと説得するが、英之は記者会見を開いて事件の真相を洗いざらい暴露するという挙に出るのではないだろうか。
冤罪を生む司法制度、検察警察の旧態依然とした体質を暴き出すことができれば、英之の人生は十分報われたことになるのである。
英之はそのためだけに生きてきて、優秀な頭脳はそのためだけに駆使されていた。彼を心から愛している千春も目的を達成するための手段でしかなかった。「蛙化現象」という言葉を初めて知ったが、英之に関しては最初から相手に興味がなかったことが分かる。なんとか幸せになってもらいたいと思ってしまった。
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