取調室怖い

名探偵破滅派『兎は薄氷に駆ける』応募作品

大猫

エセー

1,235文字

最近もアルバイト店員が窃盗を疑われて一昼夜拘束されてひどい扱いを受けたあげくに、無実だったと判明した事件がありました。
逮捕されないようにしなくちゃ、と心から思いました。
2024年8月「名探偵破滅」課題図書。『兎は薄氷に駆ける』

読み応えがあって面白かった。早く結末を知りたい。

 

16章までの展開で若干、本郷弁護士の狙い通りすぎじゃないかと思われる感じがあるが、これこそが狙いなのだろう。警察と検察に対する絶対的な不信感、復讐がテーマであり、彼らの化けの皮を少しずつ剥いでゆくことが目的なのだと思う。

 

石田うめ殺人については、平沢精二郎が実の犯人であり、主人公日高英之の父は冤罪であったこと、は確定しているように見える。警察の捜査が杜撰だったのは、警察の「知的障害者」に対する偏見であり、平沢精二郎は実の兄を犠牲にしたことになる。後ろめたい気持ちから、石田うめの遺族や兄の遺児である英之に援助をしたのだが、それが足が着く遠因となった。

ところで平沢精二郎殺人の方は、日高英之以外に動機のある人物が登場していない。公判では本郷弁護士により、動機の遺産相続、証拠物件の車のキーなど検察の主張が覆されている。

それでは誰が平沢精二郎を殺したのか?

あるいは自殺だったのか?

これは日高英之が仕組んだ壮大で緻密な復讐計画であり、その意を受けた本郷弁護士が知力と経験値を総動員して、平沼康信の冤罪を雪ごうとしたのだと思う。
しかしそのために英之が犯罪者になってしまってはならない。

平沢精二郎殺人の犯人は英之である。が、実際には手を下していない。ランオンの仕組みは分からないが、リモートか時間差で不完全燃焼が発生するように事前に仕組んでおいたのだと思う。事件当日、嵐の中をコンビニまでわざわざ出かけたのは、警察に疑わせて犯人に仕立ててもらうための工作である。

念入りにアリバイも作っておくが、それは裁判まで発覚しないようにしておく。遺産相続が動機にならないことは取り調べ段階で主張できそうなものだが、「聞かれなかった」から、と警察の恣意的な取り調べの方へ責任を持って行く。

こうして裁判を有利に進めて勝つのは確実という状況になってから、検察側も英之・本郷の真の目的に気が付くこととなる。英之の父の冤罪を証明することこそが目的だと気がついた検察は、松根の「師匠」である藤林の出廷を拒否する。英之の無罪は致し方ないが、石田うめの事件だけは絶対に覆されてはならないと判断するのである。

しかし英之の命を懸けた計画は父の冤罪を証明することであり、自分だけが無罪になっては意味がない。本郷弁護士はここで手を引くべきだと説得するが、英之は記者会見を開いて事件の真相を洗いざらい暴露するという挙に出るのではないだろうか。

冤罪を生む司法制度、検察警察の旧態依然とした体質を暴き出すことができれば、英之の人生は十分報われたことになるのである。

英之はそのためだけに生きてきて、優秀な頭脳はそのためだけに駆使されていた。彼を心から愛している千春も目的を達成するための手段でしかなかった。「蛙化現象」という言葉を初めて知ったが、英之に関しては最初から相手に興味がなかったことが分かる。なんとか幸せになってもらいたいと思ってしまった。

2024年8月19日公開

© 2024 大猫

これはの応募作品です。
他の作品ともどもレビューお願いします。

この作品のタグ

著者

この作者の他の作品

この作者の人気作

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

"取調室怖い"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る