超短編小説「猫角家の人々」その49
裏社会の目論見がうまくいけば、Kは警視庁本庁から警察車両で拉致され、現役警察官の手で殺され、群馬辺りの山中に埋められたのであろう。だが、裏社会の姦計は見事に外された。Kは、山中に埋葬されることなく、生きながらえた。まさに浮氷を踏むようなぎりぎりの判断が、生死を分けた。Kは、天の誘導により、辛くも魔界から逃れたのだ。
Kの告発に警視庁は対応し、捜査をした振りをして「事件性はなかった」と報告することで、一件落着としたかった。Kを納得させようと企んだ。数日後、Kの自宅に、二週間も寝ていないようなボロボロの姿で現れた、警視庁警部の斧は「調べたんですが、事件性はありませんでした」と絞り出すように言い、背中を丸めてとぼとぼと帰っていった。薬で自分を鼓舞して、決死の思いでKの前に登場したのだ。警視庁本庁捜査一課警部補、斧某。裏社会に魂を売った警察官は、その素性を晒されてしまったのだ。あれから10年以上がたったのだ。
斧の隣に立っていた長身の鈴本警部は、終始無言で、左胸に収納されている拳銃のホルスターに背広の上から終始触れて、Kを威嚇した。「ここに拳銃があるのだぞ」とKに示唆することによって。
斧に汚れ役を押し付け、鈴本は脅し役に徹した。だが、その威嚇が猿芝居を猿芝居と分からしめたのだ。こいつらは?勿論、朝鮮半島カルト、S禍学会の構成員である。S禍がらみのヤバイ事件の起きた場合、隠蔽工作に動員される、警視庁内部の組織内組織のメンバーなのだ。後日、Kは、警視庁に行った当日に、湘南電車の中で秘密に撮影した斧と鈴本の写真をネット上で公開した。そして、裏社会の保険金殺人事情をネット上で告発し始めたのだ。その経緯は、小説「魔界」となって、後日、二度も出版されたのだ。
Kに急所を攻撃されて右往左往した裏社会は、保険金殺人という裏社会の主産業を失う危機に瀕した。保険金殺人のプロジェクトは、Kのおかげでかなり縮小せざるを得なかった。Kの告発のおかげで、カモに逃げられたケースもあるし、家族を殺して保険金に変えようとするチンピラが恐れをなして逃亡したケースもある。裏社会は、保険金殺人という、安全で確実なビジネスの障害となるKを監視する必要性に駆られた。「Kを監視するには、保険金殺人の当事者を起用するのが最適だ。」幹部の判断で、シャブ中構成員でかつ肉親の命を保険金で替えたか、替える予定の極悪連中が招集されたのだ。K包囲網である。(続く)
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