超短編小説「猫角家の人々」その44

moonkaguya

エセー

1,181文字

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超短編小説「猫角家の人々」その44
おしなべて医院の経営環境は、厳しい。実は、かなり多くのクリニックが廃業したり、倒産したりしているのだ。2007年に休廃業した医院は、121軒だったのだが、2014年には、347軒に増えている。

開業医の年収平均は2,200万円と言われている。悪くないように聞こえる。だが、借金も多いのだ。まさか、CTスキャンのないクリニックでは、客を呼べない。CTスキャンを設備すれば2000万円は掛かるのだ。放射線対策もしなければいけないから、結局1億円近い投資が必要になる。2000万を超える収入があっても、借金も5倍抱えているのだ。
医療機材がほとんどいらないような診療科目は、設備費用は掛からないが、反面、診療報酬を増やす手立てもない。結局、要らないクスリをバンバン出して儲けるしかない。精神科の患者は、医者の都合で向精神薬を馬の餌のように食わされて、症状が固定化し発作を起こして死んでいく。自殺する。また、「手わざ」と呼ばれる処置の少ない診療科目では、診療報酬も多くはない。割に合わないのに、時間を拘束される小児科、産婦人科に至っては、誰もやらなくなった。考えてみると、産婦人科も小児科も街中で見掛けなくなった。

結果、クリニックの8割が実は赤字だというのだ。

どうにも経営が安定しない開業医は、苦し紛れに診療報酬の不正請求をしてしまうケースがある。患者が領収書の中身に疑問を感じて役所に問い合わせて発覚したりする。該当地区の厚生局が指導監査ののち処分を決めるが、最長で5年間、保険医の資格を取り消される。悪質だと処分も重い。では、5年間、なにをするか?保険外診療で稼ぐしかないのだ。その一つが、些かいかがわしい癌の免疫療法だったりするわけだ。そして、もとから保険の効かない美容整形に衣替えするクリニックもある。ある日突然、都合で美容整形を始めても技術が伴わない。失敗続きで評判を落としかねない。美人になるつもりが、妖怪になってしまった患者は、医師を医療過誤で訴える。四つの葉弁護士法人の出番である。

この種の脛に傷持つ医者が、朝鮮悪グループのメンバーとなって、裏社会御用達のさまざまな仕事をこなしていくことになる。

なるほど、そういうことか。医師は、医療過誤保険に入っている。正式に言うと「日本医師会医師賠償責任保険」だ。開業医は全員加入している保険だ。医療行為の過失によって障害や死亡のケースが生じた場合、保険金が被害者に支払われる。支払限度額は1億円だ。ということは、韓国辺りで美容整形に大失敗した患者を探してきて、医師Aのクリニックで手術を受けて被害を受けたと嘘の主張させれば….数千万円の保険金が、医師Aの加入する賠償責任保険から、顔面崩壊患者に支払われるだろう。患者とつるんでいれば、保険金の分け前を患者から貰えるではないか。(続く)

2023年10月27日公開

© 2023 moonkaguya

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