超短編小説「猫角家の人々」その29
カモを見つけるのに最適な「場」がある。
某巨大カルト宗教は、宗教団体というよりも「自分の不遇を嘆いて、お互いに傷をなめ合い、慰め合う」互助団体のようなものである。
毎回、自分の家庭の不遇な話、家庭不和など、複数の信者の前でご披露して、お互いを慰め合う。やっと話を聞いてくれる人たちが見つかったと、教祖の田池センセイに感謝する。
巨大カルトに営利目的で入り込んだ介護詐欺分野のマーケティング部員は、そういった内訳話に耳をそばだてる。財産をどのくらい持っているか、親族の構成は?ぶっ殺して金に換えられる爺さん婆さん、邪魔な旦那はいないか?そして、親族に「分け前」を保証することで、保険金詐欺に協力させる。結果、保険金詐欺の犠牲者の多くが、S禍学会の信者ということになってしまう。
S禍学会の中年女性信者には、配偶者が突然死するケースが異常に多いという。そして、配偶者の死後、立派な新築の家が建つ。娘も息子もろくに働かない。勿論、無教養、無学歴、無資格だから、働いてもろくな収入にはならないのだが。大概が、なぜか、足立区に住んでいる。しかし、なぜか、裕福な生活をしている。
30過ぎの娘は、統合失調症を患い、日々、薬漬けの生活だ。20代初めの頃は、キャバクラ勤めでブイブイ言わせていた。結婚はしたが、自分の薬物依存症で別れた。覚醒剤にも手を出した。別れた夫との間にできた娘を一人抱えているが、統合失調症の診断を貰って、生活保護を受けている。実家の近くにマンションを借りて、娘と一緒に住んでいる。生活保護は、親族と別居していないともらえないからだ。
母親は、勿論、水商売上がりだ。40ちょっと前くらいまでは、派手なヒラヒラドレスで、男の目を幻惑した。二度結婚したが、二度とも夫と死別した。死別する度に、なぜか、リッチになったが。二度目の結婚で出来た次女は、優しく大人しい性格だ。横暴で一方的な長女による圧制によく耐えている。長女は、父親の違う次女をことあるごとに攻撃し、暴言を吐く。だが、温和な次女は、同じ母親の子宮から生まれた長女には逆らえない。堪えるしかない。母親は、いつ爆発するかわからないシャブ中の長女を腫れ物に触るような思いで接している。だから、次女の極限的な思いなど、気にかける余裕はない。まだ、20代前半の次女の行く末が心配だ。地獄のS禍家族から離脱できる日が来ることを願っている。
一端、裏社会の稼業の恩恵を受けると、裏社会から、他の仕事を仰せつかる。シャブを分けてもらっている関係で、裏社会の依頼には答えるしかない。ジャーナリストKへの妨害工作、ハニトラ工作に起用されたのは、随分と昔のことだった。だが、ほどなくして、Kにシャブや保険金詐欺を見破られて、派手な母子は、Kの前から、こそこそと逃亡していったのである。(続く)
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