追憶・追悼

山谷感人

エセー

1,570文字

 お世話になったS氏へ。

 僕は現在、ルンペンなる身上な故、誰もそんな奴に積極的に連絡を取りたい人は居ないだろうからスマホは「着信音は鳴らずのネットだけ見る玩具」状態になっている。他人から云われた事はないが今、僻地にステイしており「六本木のロックバー荒し」と自負していた見る影も無い。
 昨夜。久々にバイヴレーションが鳴り、識らない番号。恐る々々出たトコロ絶縁状態だった幼馴染からで「S氏が他界したぞ、どうする?」との事。
 S氏とは僕が上京した若い内に、偶々と知り合った四歳上のパイセンで米国はユタ州帰りなる帰国子女で往時、早稲田大学に通っていた。僕は早稲田大学に縁もゆかりも無い故に本来、出逢う事も無かったが原宿でイラン人と呑んでいる時に「面白い事をしてんな!」と良い意味で絡まれ「俺の部屋に来ない?」となり、そのイラン人と原宿から彼の住まい、武蔵小金井まで案内された。
 驚くべきなのはココからでS氏の部屋には六人くらいのヒッピー? なる風体なる人々が居て僕が「七人暮らしですか?」と訪ねたら「三人は友人だけど他は判らない。あっ、一人、はじめまして! の奴もいる」と述べた。要は、中島らも的な「デヴィルハウス」だった訳である。
 そうして彼はユタ州でロックバンドを組んでいたからで、僕とイラン人は延々と米国のヒット曲を聴かされた。所謂、その頃の流行り。ガンズ&ローゼス、モトリークルー、エアロスミス等々……。ビートルズしか頭がない僕には致命的に新鮮であった。
 その後。イラン人は結局は国費で来訪しているエリートらしく「こんな環境に居るのは不味い」で疎遠になったが僕は武蔵小金井に住むようになった。無論、家賃はタダだ。多い時は六畳の部屋に事実として十二人。誰が誰か未だ認識してないが上手く愉しんでいた。ロックよ、五月蠅く流れよ。
 やがて、僕の幼馴染や友人が「東京に来る」みたいになり「S氏、彼等をちょい住ませて呉れません?」と相談したおりS氏から一度だけ激高され殴られた。曰く「はしたない台詞を吐くな、用意は出来てる」 僕は、その時の、彼のフレーズを忘れないし至らないが教訓として生きてきた。
 結句、幼馴染と友人が上京し、武蔵小金井で奇妙な「今宵は部屋に何人くらい居るかな?」なるパーティタイムの日々だったが終焉もある。
 S氏の父親は鹿児島でラが付く高等学校の国語教師だった故、その武蔵小金井の借り住まいは親戚の敷地内中の母屋、みたいなトコロであった。それが前記したように「毎日、識らない人が来る。外人さん多い、何故かインチキ臭い九州訛の田舎者が三人、定住している…、…、」が破綻するべきない。S氏の母親が鹿児島〜来てサミット。我々とフーテン連中を追い出すとなった。その時、要はS氏も結句、プチブルジョア育ちなので従うしかなかった。解散。世の中とは儚いモノである。その時、僕は「本当にS氏に世話になったから以後、連絡はしない」と言葉を吐いた。当然ながら、現在の僕のマインド、所謂的な思想ロックは完全、S氏の影響である。
 それから僕は高円寺、赤羽、御徒町辺りを転々とした。常に部屋の鍵は、開けっ放しにしていた。
 見ている側から見られる方。僕の部屋には識らない人間が沢山いた。その中で「二十七歳で他界する」と宣言していた親友が本当に二十七歳で鬼籍に入った。幼馴染からS氏の訃報が来たが疎遠だ。引く手あまただったインドネシア人、エジプト人、トルコ人やら。ルンペンやら、その他、諸々。
 S氏、このタイミングで別れは辛い。お前の葬式にも行けないから。骨折しているし。
 もう一度、云う。
 僕の糞みたいな人格を造ったのは、S氏、お前だ。 僕の「真っ当人」なる生涯を奪ったのも、お前だ。
 俺をルンペンにさせたのも、マインドとして、お前だ。だが然し、一切、後悔していない。
 安らかに。有難う御座いました。
 ロックンロール。
 

2023年5月8日公開

© 2023 山谷感人

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