はじめに
佐藤は能力不足により適当なことを書きがちなので、読み間違いや誤解がありましたら教えてください。すぐに謝罪・訂正します。
「月夜のピアソラ」藤城 孝輔さん
グール(屍食鬼/死食鬼)を題材とした作品。「人肉食」というテーマに対する正攻法だと思います。人肉食のエロスを存分に楽しめました。
作品全体の色彩感覚、特に赤の使い方が印象的です。血や肉、作中で何度か登場するマールボロの赤、「ケーキを彩る色つきの粉砂糖のように赤いニキビ」など。こうした描写の積み重ねが、初めてシシバミが人間を食べるシーンの赤と白のコントラストをより劇的にしてくれたと感じます。「女のように白くすべすべした下腹部の肌に、やわらかな陰毛が翳りを与えている。しかし、そのたおやかな草原の景色を切り裂くように、赤黒く勃起したペニスが不格好に突き出して頭を天に向けていた」という描写も良いし、「血だまりと混じり合った夏陽の精液がサウザンアイランドドレッシングを思わせる淡いピンクにゆっくりと変わっていくのを眺めていた」という一文が特に美しく、読んでいて興奮してしまいました。
「三つの人肉奇譚」大猫さん
その一. 勇者リアドーとコユラの物語
残酷な結末や裏切りがありそうだと身構えながら読んでいたら、登場人物たちが最後まで気高く、心洗われる気持ちになりました。人肉食を扱っているのに読後感が爽やかなのは、今回の特集はこの作品と浅谷さんの「水の声」だけだったと思います。
その二. 種豚パトリックの願い
ヨーロッパなどでは豚の断尾はおこなわれていない、または麻酔なしでおこなうのは違法とされているようなので、アメリカが舞台でしょうか。豚に食われたゴールドスミス氏の家族の描写が生々しくて良かったです。アニマルウェルフェアを題材とした寓話として、簡潔で完成度が高い作品だと思いました。僕の中での日本動物児童文学賞大賞です。
その三. 食われそこなったバジール
タイトルで「食われそこなった」というオチは明かしてしまっているので、なぜ、どうして、食われそこなったが焦点になります。結末への牽引力が弱い分、読者を飽きさせずに最後まで読ませるのが難しくなるはずですか、魅力的な物語に仕上げているのがさすがです。
冷静で計画的な騙し方からむしろ、アメリアの憎しみや苦痛の強さを感じました。坂口安吾が「人間には、騙されたい、という本能があるようだ。騙される快感があるのである。我々が手品を愛するのも本能であり、ヘタな手品に反発するのも本能だ。つまり、巧妙に、完璧に、だまされたいのである」と「湯の町エレジー」で書いていますが、やはり美人に裏切られることには快感がありますね。
でも実は、僕は少しだけスライマーンに共感してしまいました。大猫さんは御存知だと思いますが、僕も大した病気でなかったのに救急車を呼んだことがあるので。「自己愛だけは人並み以上」も自分に刺さりました。
バジールはうまくいかずに終わるのかなと予想していたので、うまく立ち回り王宮に招かれる人気講談師になった終わりも、定型を外している気がしておもしろかったです。
「ミート・イズ・マーダー」諏訪 靖彦さん
アニマルウェルフェアが浸透した結果、動物が食べられなくなり、代わりに人間を食べるようになる、という設定は浅谷童夏さんの「水の声」などと共通する部分があります。でも、肉を食べるために自分のクローンをつくるという発想はさすが靖彦さんだなと思います。
「水嶋KAGEROU」「ネタニヤフ・ベンヤ美奈」などの人名、「一万円分ソシャゲガチャを回したにもかかわらずお気に入りのキャラのエロコスチュームがでなかったかのように舌打ちした」「夫に内緒で買ったウーマナイザーを夫婦仲が心配だからといって様子を見に来た義母に見つかったかのように「はあ」と大きくため息を吐く」などの比喩など、小ネタの手数が多く、どれもおもしろいです。
最後は未解決で終わってしまったので、僕なりの推理
①終盤に登場するネタニヤフの死体もクローン。本物(?)のネタニヤフはクローン二人を殺して、潜んでいる。
「自分自身のクローンを作り、食肉に適するまで成長させたあと、生命活動を停止させ食す」「自分以外の何物にも迷惑を掛けず食肉する解決(原文ママ)」という設定から考えると、継続的に食肉を楽しむためにはクローンのストックが何体か必要なはずです。動機は、ネタニヤフはミス研究に推理ゲームを楽しんでもらうとしている、ということにしました。クローンを二人も殺すサービス精神がどこからきているのかは知りません。ストックを用意するのが当たり前の世界なら、登場人物たちもすぐに二体目のクローンの可能性に気づくのではないか、というのもこの推理の問題点です。でも、政府はクローンを一人一体までに規制している(理由はたくさんいるとややこしくなるから?)けど、ネタニヤフが秘密でクローンを二体持っていたのならこの問題は解決できます。
また、もしクローンが自分が食用だという自覚を持っていたら、と考えると、新たな説を思いつきました。
②政府からは禁止されているが、ネタニヤフはこっそりと二体のクローンを持っていて、第二のクローンが第一のクローンとネタニヤフを殺した。動機は、食用として殺される運命を回避するため。
こっそりと殺した方がいいのではないかと思いましたが、二体の死体を見せることで、ネタニヤフ本人もクローンも消滅したと思わせることができる。もし、政府がクローンを一人一体と規制しているなら、クローンは政府のデータベースなどに登録されるはず。だから、登録外のクローンが犯人で、ネタニヤフ本人と登録されたクローンを殺し、自分は自由な存在になろうとする。
だんだんと諏訪さんのテキストから離れた僕の妄想になってきてしまったので、ここら辺で終わりにします。
ちなみに他には、諏訪、山川、水島、海野の誰かのクローンが犯人or作中の諏訪、山川、水島、海野の誰かがクローン。本物はどこかに潜んでいる、という説も考えました。
「死んでもいいわ」曾根崎 十三さん
さすがの筆力ですね。曾根崎さん+人肉食だとこうなるだろう、という予想通しの展開ですが、それでも最後まで一気に読ませてしまうのがすごいです。もしかしたら気づいていたかもしれませんが、あまりにも先が気になったので破滅派の打ち上げで曾根崎さんがいる目の前でも読んでました。p.71の「君が私の話聞きたいなんて思わないじゃん」からの私の語りの勢いはやはり良いし、「あなたって、ほんと最低、ですね」で僕もゾクッとしました。
ロジックや設定で人肉食を読者に納得させるというより、自分の肉を食べてもらう私の感情に共感してもらうことを目指しているのが、曾根崎さんの作品の他の人肉食作品との違いかなと思いました。曾根崎さんの作品が今特集で一番長かったのも、感情や描写の積み重ねが必要だったからかなと思います。
個人的には「気がした、というのは「気のせいでした」で撤回できる便利な言葉だ」という一文が刺さりました。僕も「気がします」とか「思います」とかつけがちな気がするので。って使ってしまいましたけど。
「ほくろとり」奥野 里菜さん
医療脱毛すると毛が焼けるニオイがしますが、ほくろとりも肉が焼けるニオイがするんだ、と勉強になりました。調べたら「人間が焼けるニオイ」というすごいワードが出てきますね。僕も顔のほくろが気になっていたのですが、ちょっと怖くなりました。焼き肉が食べたくなる語り手がたくましくて良いです。
「左道」Juan.Bさん
左道は正しくない道、邪道、不正な手段を指すんですね。とまずタイトルの意味を調べました。今回の特集に収録された作品の中で一番先の展開が予想できない作品で、最後まで楽しかったです。
「アヤロ」が「この地に何千年と暮らしていたのではなかった」という設定がおもしろいです。「この男も、そっちの女も、自分の話をしない」というセリフは初読時にも印象的でしたが、「何かに「戻る」ための闘争ではな」く、「自らを再発見し、純粋な概念によって、進退などの概念と関係なくジャングルに「入った」」という後半部分を読んでからだと、より鮮烈に感じます。この作品を読んでいるお前はどうなんだ、と問われている気持ちになりました。
追い詰められたモトコがiPhone2000Xでアイドルソングを流した場面がとても好きです。今回の人生ではダメでしたが、最後まで必死にあがく姿勢は次の人生で生かされると信じています。
「【業務連絡】鮎沢工業株式会社全社人身御供大会について」眞山 大知さん
僕はちゃんとした企業に属したことがないのですが、ちゃんとした企業で働くのは大変なんだなと思いました。というのは冗談ですが、ふつうに書かれていたらあり得ないだろと思えてしまう企業内の人身供儀が、社内文章や研究ノートのような客観的(?)な形式をとることでちょっとリアルに感じられる仕掛けがうまいです。途中から怪しくなりますけど、それもおもしろい。
編集後記にあるように、破滅派NO.24は「ハメスタイン・ファイル」が当初の企画案で、途中で人肉食に変わりましたが、眞山さんの作品は元々の企画案に沿って書きかけていたものを、後で人肉食向けに書きかえたのかなと思いました。違いましたらすみません。
「食べてもいい部位について」我那覇 キヨさん
「人肉食」がテーマだとエッセイは難しいと思っていたので、こういう手法があるのかと勉強になりました。淡々とした文章から生々しさを感じます。オチにはちょっと笑ってしまいました。すみません。でも、おもしろかった。
膿皮症のことは今まで知りませんでしたが、わかりやすい説明で理解できました。ちなみに自分でも「膿皮症」について検索しましたが、やはり犬の写真と、人の尻のイラストが出てきました。
「頬を削ぎ落した顔でこどもに「さ、食べな」と言って、トラウマを残さないかは分の悪い賭けになる」でアンパンマンのことを思い出しました。いや、アンパンマンは頬は食べさせないかもしれませんが、顔を食べさせるという設定でこどもに受け入れられているアイツはすごいなと改めて思いました。
今回の「人肉食」特集、「飢餓状態で人肉を食う」というのが人肉食の王道だと思っていたのですが、飢餓シチュエーションについて言及しているのは我那覇さんだけだったはず。食料廃棄の問題が深刻な日本では、飢餓という状況は想像しづらいのかもしれませんね。
「びしょびしょにいこう」nyukeさん
高密度で独特のリズム感がある文章が絶品でした。緩急、句読点、体言止め、オノマトペの使い方が巧みで、文章がパターン化しそうになるのをうまく外していたと思います。近未来の暗い社会を舞台にしているようですが、そんな社会の生きづらさをただの情報ではなく、語り手の感覚として描いているのがすごいです。こんな感性が欲しかったと憧れてしまいます。
「水の声」浅谷 童夏さん
僕は他のコンテストで短期間で100作以上の小説を読むことが定期的にありますが、小説で夫婦が登場すると仲が悪いのが基本なので、幸せそうな結婚生活を読むのが新鮮で楽しかったです。
という前半と、人肉が登場する後半を組み合わせるという発想がおもしろかったです。美佐子となつみの人肉食についての会話から、「人が人になるんだから」と人肉食を肯定する流れで、人肉を食べていいんじゃないかという気持ちに僕もなりました。
今回の「人肉食」特集ですが、人肉を食べていいのかという葛藤を描いた作品が多いのかと思いきや、意外とみなさん人肉をあっさり食べる方向性でした。そんな中、人肉食の倫理的な問題について正面から向き合った浅谷さんの作品はラストにふさわしかった、と勝手に思いました。終盤の落ち着いた人肉食エロスも素敵です。
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