服装と山谷感人

山谷感人

エセー

1,627文字

 最早、もう懐かしい。

 山谷感人が帝都、北千住から母親の胃癌の為に田舎町に戻り最早、十五年くらい経つ。その場には居なかったから事実は判らないが、義父曰く、母は寝ながらパンを口に入れたら喉に詰まらせて他界らしい。面白可笑しく「山谷感人が借金取りから逃げ都落ちした」とか「仏門に入る為、都会を離れた」等の流言が有ったが、私は石川啄木レヴェルに金銭には相互で図々しいし、ペテンだけれどもカトリックな故、それは無い。本題に入ろう。
 田舎町で山谷感人はオシャレで界隈では有名であった。何故か? それは所謂、出逢って家事をしない主夫をしていた私に女性が服装をコーディネートしていたからだ。私は身長百七十センチくらいなのだが偶々、その女性が同じくらいの背丈で「これ着る?」から始まり「ダサいのに部屋を出入りされるのは私が恥になる、着な」に至り「臭いから着ろ」になった。その女性は、個人経営で美容室を営んでおり所謂、商売として服装に拘るのは至極当然の世界な故、それを山谷感人が来たら一見、オシャレな男性だな、と傍からは思われる。シャワーは一日に二回なるルールも有った。
 往時、後輩がコンビニのオーナーとなり、店員が不足しているから手伝って貰えませんか? と相談をされ、長時間の時は休憩二時間、その間はビアを呑むよ、と返したら合意となり労務に励んでいており、自身のアルコホル代に困る事は無かった。コレは不思議な事実でなのだが、私が出逢う女性は一滴も呑まない人々で、部屋で一緒にビアを浴びた追憶は非ず。山谷感人として公園でコソ呑みするくらいである。一度、文芸仲間とズームで呑み会をしよう! で一人、モーテルに入り白のバスローブを着て会話した時、コイツは破滅していると思われた方もいただろうが、小金は有った、部屋では呑めない……の山谷感人としては平穏な時代の追憶。
 大掃除。そのガールは月に一度、それを敢行する。
 私は腹痛が激しい、と言い訳して一緒に暮らしていた愛猫とベッドで横になっているだけであるが、或る日、旧い私物を捨てられた。後日、判る事であるが。
 東京都、江戸川区の小岩に住んでいた頃、その時も女性の部屋に住んでいたが自転車が有った故、私は暇があると三十分くらいで到着する柴又帝釈天に散策に訪れていた。近くにある『男はつらいよ』博物館で購入し思い出と保管していた車寅次郎のファニーなポンチ画と共に「労働者諸君」「貧しいねぇ君たちは」の台詞が入っていたTシャツが逝っていた。更にモトリークルーのTシャツ。女性はハノイロックスのファンで、どうしても彼等を許せないらしい。そうして山谷で活動していた折、愛着のFBIのロゴ入りのヤツ(山谷感人と行くミステリーツアーで観れるので、お暇な方は是非)。その他に諸々、全てゴミ行きであった。『破滅派』のTシャツも無論、ヤラれていただろうが愛猫が何故かそれに被りつく故、おもちゃ代わりにベッドの下に投げていた為、難を逃れた。私は、コレを重大な転機だと考えた。所謂、小市民として、女性の介護を受けつつ生きるのか? 安寧、オシャレ、愛してやまない猫もいるし。服装が、そんなに小綺麗なら素敵なのか? 隣に居る愛猫も買い与えられたシャツをペロペロ舐めて汚しているし。そうして、その数日後、愛猫の育て方で揉めて追い出され、山谷感人はモノホンのルンペン道に突入したのである。
 服装とは、当然ながら生活の象徴である。良いルックスをしていたら他人は受け入れる。私は現在、その女性から貰い、購入して頂いた数着のジーンズも履き潰し穴だらけで流石に破棄。今は小金がある時に所有したスーツを下に履くモノが無い為、常に纏っているが、野良猫からは正体がバレバレで道程にて、頭突きしてくるし、抱っこプリーズにて、そのスーツすら最早ボロボロ。普通に生活したいのなら、山谷感人が云うのは烏滸がましいが、服装は綺麗にした方が良い。
 追記・まさか居ないと思うがルンペン道に憧れる馬鹿には、止めておけ、と言わざるを得ない。
 
  

2024年12月5日公開

© 2024 山谷感人

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"服装と山谷感人"へのコメント 1

  • 投稿者 | 2024-12-13 12:11

    久々に癒される文章に出会いました。
    山谷先生にはやっぱり猫。

    大猫は数か月間の半監禁生活で化け猫になりかけております。

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